現地レポート:南インド−新イメージで、新客層の獲得とリピーターへ提案を

  • 2007年3月17日
アーユルヴェータ・リゾートと
緑と水の自然豊かなケララ州の旅


 南インドに位置するケララ州への外国人訪問者数が大幅に増加している。イギリス、フランス、アメリカなどを中心に2005年は前年比7.5%増となる30万2744人、2006年上半期は34%増の伸び率を示す。しかし、日本では商品化はおろか、一般的な認知度も低い。今回は、ケララ州を訪れる欧米の旅行者の傾向、観光素材の紹介をはじめ、現地を訪問した日本の旅行会社スタッフの感じた印象を交えて、今後のケララ州の可能性を探る。


欧米の旅行者を魅了する理由

 ケララ州を訪れる外国人の多くは欧米からの旅行者だ。ケララ州観光開発局やホテル、ガイドなどの現地関係者によると、彼らの旅行スタイルは「リゾート滞在型」、または「州内の観光地を巡る周遊型」に分かれる。

 周遊型はアラビア海沿岸最大とされる港町でありながら、遺跡も多く残る見どころ豊富なコーチンをはじめ、象が生息する野生動物保護区や茶葉農園などがある丘陵リゾートのムナール、バックウォーター・クルーズを楽しめるアラッピー、バスコ・ダ・ガマが上陸したカッパド海岸のあるカリカット、山麓地帯のワイヤード、アーユルヴェーダのリゾートとして名高いクマラコム、そしてインド国内で最高級クラスのリゾート地コバラム・ビーチ、ヒンズー教の寺院や博物館がある州都ティルヴァナンタプラムなどを巡る。また、滞在型の場合は、コバラム・ビーチを中心に本場のアーユルヴェーダを体験するなど、最低1週間程度の滞在を楽しむという。

 これらの観光を楽しむ欧米の旅行者の多くは、パッケージツアーでの参加が多く、インドに多いバックパッカーは少ない。そのため、現地には彼らの嗜好に合ったホテル、各観光関連施設のインフラが充実している。

 例えば、ケララ州に8軒のラグジュアリーなエコ・リゾートを展開するCghアース・エクスペリエンス・ホテルズ運営の「ココナッツ・ラグーン」は、コンデナスト・トラベラー誌にも世界25のベスト・ゲートウェイのホテルの一つとして選ばれた実績がある。アーユルヴェーダ・リゾートが集まるコッタヤムのベンバナド・レイクに面しており、近隣の船場からホテルへはボートで15分ほどで到着する隠れ家的なリゾートだ。


 客室は約100年前のチーク材でできたこの地域の高級家屋を移築したコテージ・タイプで趣きがある。また、リゾート滞在に欠かせない食の面でも、敷地内に2つあるレストランで20種類ほどあるカレーや新鮮なサラダ、フルーツを用意するなどバラエティ豊か。ナンをその場で焼いてくれる演出のほか、インド伝統音楽の演奏や民族舞踊など日替わりのエンターテイメントもあり、あらゆる面でケララならではの体験を提供している。特に欧州からの滞在者にはアーユルヴェーダの施設が人気で、施設内で育てたフレッシュな薬草などを利用した本格的な施術を行う。そのほか、ヨガ・センターやアクティビティでは近隣の野鳥保護区への訪問やボート・ライディングなど、この地を満喫する素材がそろっている。


アーユルヴェーダ、メディカル・ツーリズム、MICEなど多様な訪問目的

 ケララ州観光開発局は1996年から観光業に力を入れはじめ、現在では稲作を中心とした農業と共に州の主要産業となっている。2006年はじめには観光業従事者の雇用を5万人へと拡大する計画を打ち立てるなど、観光産業に積極的に取り組んでいる。

 ケララ州が観光産業に目をつけた理由について、同州観光開発局のスーマン氏は、水郷地帯として知られる椰子の木が茂る「バックウォーター」、アジア象やトラなどが生息し、スパイスや茶葉の栽培地として知られる山間部、アーユルヴェーダの発祥地として知られ、インドで最も有名なビーチリゾートなど、同州のユニークな観光素材の特徴を挙げている。そして、この州の穏やかな人々も多くの観光客を魅了するに足る大きなポイントとしている。

 具体的な観光振興策として実施しているのが、隔年で開催する「ケララ・トラベル・マート」(KTM)。インド国内で同様のトラベル・マートを実施するのは他にデリーのみであることからも、ケララ州の観光産業への力の入れ様を感じられる。KTM開催の翌年は毎回、国内外からの訪問者数が大幅に増加しており、その影響力は極めて大きい。


 さらに今後は、国内随一のアーユルヴェーダのデスティネーションとしてのプロモーションのほか、現地の人々の家に滞在し、料理教室や家族との団欒などを楽しむホームステイの開発も検討。そのほかメディカル・ツーリズム、MICEなどの誘致を積極的に進める方針だ。

 特にメディカル・ツーリズムは既に世界から注目されており、2005年だけで約5000人が訪れた。スーマン氏はインド政府が、医療目的の1年間の特別ビザを用意していることを紹介。本人に加えて同伴者も同じ内容でビザを利用することができ、延長も3年まで可能なことをメリットに掲げる。そのほか、ケララ州の病院がデリーなどの大病院と比べて質は同レベルでありながら、医療費は比較的安い上に、環境が良いことを打ち出し、これらの魅力の訴求に努めたい考えだ。

 さらに、IT産業をはじめ、インド国内への外資系企業の参入が進むことなどから、MICEにも注目。大人数を収容できる施設開発など、インフラの整備を進める方針だ。

 ただし、日本マーケットへの取り組みとしては、「日本はハイ・コスト・マーケットであるため、予算がないと大規模なキャンペーン展開は難しい」と述べる。しかしながら「近い将来、インド政府の協力を得て、何かしらのキャンペーンを行いたい」と、日本市場を重視する見解も見せた。


インドのリピーターや、新デスティネーションとして訴求

 ケララ州を訪れた日本人は、宿泊者数ベースで2004年が7598人、2005年が6055人。欧米市場に比べて盛り上がりには欠けるが、逆に今後の成長に期待が掛かるデスティネーションといえる。インド政府観光局によると、パッケージツアーでインドを訪れる日本人の多くは、タージマハールなどの北部中心にした歴史・文化・仏跡めぐりが中心だが、ケララ州の観光と隣接するタミール・ナドゥ州の遺跡観光を組み合わせたツアーなども、少しずつではあるが増えてきているという。

 そのような中で、KTMに参加した旅行会社のスタッフも「ケララ州のリゾートや自然とそのほかの南インドのデスティネーションを組み合わせた周遊旅行」、「アーユルヴェーダを中心とする滞在地として旅行者に勧めていきたい」などと語っており、顧客への提案材料として自信を深めたようだ。組み合わせとしてはやはり、タミール・ナドゥ州にある世界遺産のヒンドゥー教寺院遺跡とティルヴァナンタプラムの遺跡をはじめ、インド最南端の地でヒンドゥー教の聖地であるコモリン岬とティルヴァナンタプラム観光などが挙げられる。

 ターゲット層は、「2度目のインド訪問希望者に対して、『インドじゃないインド』という切り口で紹介したい」という意見が多かった。また、女性スタッフからは、「本場のアーユルヴェーダを満喫し、湖のほとりの豪華リゾートでの滞在を旅慣れたお客様に新たなデスティネーションとして紹介してみたい」という意見をはじめ、「ケララ州の見所であるバックウォーター・クルーズを観光の目玉として取り入れてみたい」という。そのほか、伝統芸能や祭りが豊富な同州の魅力を織り交ぜるなど、ケララの取り扱いに前向きの声が多く聞こえた。

 ただし、日本語スピーキング・ガイドの不足という懸念材料もある。現状ではデリーのガイドが南インドへ来ることが多く、余分なランド・フィーが掛かるなど、商品造成に結び付けにくいとの意見が聞かれた。また、日系企業のインド進出に伴い、企業対象の通訳料の方が報酬が良いことから、旅行通訳離れが進む現状もあるという。

 これらの解決策として、ケララ州観光開発局と観光促進のMOUを結んだスリランカ航空(UL)によれば、南インドと親交の深いスリランカのガイドが対応できること、英語スピーキング・ガイドを雇い、日本人添乗員やガイドが通訳し、情報の質を保つことも提案。またスリランカ航空を利用すると1泊目のスリランカでの宿泊費を無料するなど、旅行会社の負担が軽減するULの施策も紹介した。