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トップインタビュー:HISエクスペリエンス・ジャパン代表取締役社長 野々山桂氏

3年間で黒字化へ、“着地型”で初の成功例目指す

 エイチ・アイ・エス・エクスペリエンス・ジャパン(HEJ)代表取締役社長の野々山桂氏がインタビューに応じ、今後の事業展開などを語った。同社は訪日外国人を対象にした旅行商品を展開することから、旅行各社やホテル等の協力を広く依頼していく。また、ビジネスで来日する外国人に対してのサービス提供については、アウトバウンドを手がけるHIS法人営業部隊と関係を強化することにより、滞在中の観光需要を獲得していくという。インバウンドで事業として成功事例が少ないものの、訪日外客の個人旅行者、およびビジネス需要の摘み取りで成功例を作る考えだ。


−HISでインバウンド事業に取り組むきっかけは

野々山氏(以下、野々山):これまで旅行業を手がけ、その将来性などを考えた際、3つの方向性を考えた。第1は「IT」を活用すること、第2に「人」によるサービス事業に集中すること、第3にいわゆる「着地型」だった。ITについては私自身の性に合わないと思い、人と着地型を組み合わせることを考えた。

 特に着地型は「サービス」と「情報業」がキーポイントだろう。アウトバウンドではこの「サービス」という面では利益体質として厳しい側面がある。情報もインターネットで豊富に得ることができ、こちらも消費者に主導権が移っている。

 しかし着地型では再び「情報」という点で優位に立てるという考えがある。現地に住んでいる人の方が訪れる人より、情報を多く持っているのは当然だ。こうした考えから、2002年4月にNPO法人「まちづくり観光機構」を設立し、活動を始めていた。

 昨年3月ごろ、HISから「インバウンドに本腰を入れるので手伝ってほしい」と打診を受けた。政府としてもビジット・ジャパン・キャンペーンに取り組んでいることでもあり、時流に乗ることもビジネス・チャンスで、これを機会として受けた。


−これまでのNPO法人で積んだ経験を活かすことができるのか

野々山:東京都で開催していた観光まちづくり東京プランナー塾での経験やネットワークが活きてくるだろう。商店街をはじめ、地域活性化に関係する人たちに多く出会うことができ、これがHISエクスペリエンス・ジャパンで展開する商品造成に活きてくる。地域の人々に協力を依頼したり、業務を進める際は、「HIS」の名前よりも、これまでの人との「つながり」の方が重要になる。東京・吉祥寺で展開する案内所の受託事業では、旅行業とは全く関係のない方々との付き合い方など、地域で活動をしていくことを身をもって培ってきた。

※「観光まちづくり東京プランナー塾」は東京都産業労働局観光部振興課が主催し、産業、文化、歴史など地域が有する観光資源を有機的に結び付ける取組み。


−HISエクスペリエンスで展開する旅行商品はどのようなものか

野々山:原則としてバスは使わず、「体験型」の募集型企画旅行に取り組んでいく。バスを使わないのは既に、はとバス、サンライズツアーなど、しっかりしたものがあるからだ。提案などをしてはいないが、勝手ながら業務提携などが出来れば、お互いにとって「良い話」になると思っている。私が考えているのはツアーというものの、参加者には現地に集合してもらい、体験してもらうものが中心。徐々に「歩く」を組み込んだツアーも展開していきたい。

 事業は「エクスペリエンス東京」というツアーに加え、ビジネス出張で日本滞在中の外国人向け旅行手配やサポートを手がける「カレイドスコープ」、訪日外国人向けの無料情報誌やインターネットを展開する「ワッショイ」で構成する。

 今後3年間の売上目標は年間50億円から60億円としている。3年間で累積損失を消し、黒字化したい。これを実現することで利益の出るビジネスモデルを打ち立てたい。


−エクスペリエンス東京の体験型商品とは具体的にどのようなものか

野々山:例えば、日本文化と食を楽しめる「すし」の体験ツアーを企画している。料理人と並んですしを握ってみることで、職人と素人の握りがどれだけ味が違うのかを体験してもらう。おおよその所要時間は、すしの文化をはじめとするレクチャーで1時間ほど、またすしを食べながら話をして1時間ほど。

 料金としては1人1万5000円で、2名から催行する。この「すし」ツアーは吉祥寺で考えている。東京の中心地から離れているが、本物を体験できる「場」が重要だ。訪れやすいことを考える効率性も重要だが、複数の「場」を提供できる場合に、効率的な場所を考えていくことになる。


−商品の流通経路は

野々山:インターネットのウェブ販売もするが、これには限界がある。コミッションを設定し、ホテルのコンシェルジェや旅行会社の店頭商品など「リアル」に販売していきたい。海外では街頭やホテルなどで多くのオプショナルツアーが販売されているが、日本で同じような場所を見ても、外国人向けの国内のツアーが少ないと感じるだろう。3月末には東京のホテルのスタッフを対象にイベントを実施したい。

 特に重要なのは、多くの旅行会社の販売協力を得ること。インバウンドのホールセーラーとして、旅行会社の流通は非常に重要であると見ている。また、弊社のメディア事業「Washoi!(わっしょい)」でJTBグループのサンライズツアーなどを取り上げ、インバウンドの振興という観点から、各社と幅広い協力関係を築いていくことが出来ればよいと思う。


−「カレイドスコープ」と「わっしょい」のビジネスモデルは

野々山:「カレイドスコープ」、「わっしょい」とも、利用者となる「ユーザー」はお金を支払う必要のない、いわゆる「ユーザーフリー」のビジネスモデルだ。このうちカレイドスコープは日本でのビジネスミーティングのために訪日する人たちのサポートを、一手に引き受けていきたい。つまり、外国人の接待を請け負うということだ。

 HISの法人営業部はアウトバウンドでビジネス・トラベルの営業を行っているが、海外に出張に行くということは、その顧客企業は外国から人を呼ぶ企業でもあるといえる。こうした観点から、HIS法人営業の担当者とともに営業に行きたい。

 一方、「わっしょい」も動画や画像などをウェブで見ることで、日本での旅行をイメージしてもらう。レストランをはじめ、外国人に来てもらいたいという商売をする人に声をかけ、サポートしていく事業だ。サイトは訪日外国人旅行の「Google」であり、「ミクシイ」でありたい。情報として検索ができ、かつ実体験が掲載されているということが重要になってくる。このウェブ運営と情報誌発行以外にも事業の柱を考えているが、これは2月に大々的に発表する予定だ。


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