販売手数料の削減と旅行業界の今後

  • 2007年1月15日
販売手数料率の削減はとまらない。日系航空会社による旅行会社に対する販売手数料率の削減は先月号で報告したとおり。これに加え、欧州系、アジア系にも広がり、ほぼ全面的に日本市場での販売手数料率は7%から5%へと削減される方向で大勢は決した。この動きは、ビジネス渡航を主体に取り扱う旅行会社には、経営方針の変更を余儀なくされる。今回は、業界全体の動向も含めて、今後のあり方を精査したい。


7%から5%への流れは変わらず

 ルフトハンザドイツ航空は11月下旬、旅行会社に対して来年4月1日から現在の販売手数料率7%を5%に削減する旨を通知した。これは日本発の航空券についてであり、ドイツ発は従来どおり、一部を除きコミッションは無い。欧州系の航空会社による5%へのコミッション・カットの通告は初めてのこと。  11月29日に、日本支社を統合したエールフランス航空/KLMオランダ航空日本支社長のクロード・テヌヴァン氏は会見の席上で「本社で調整中」と述べるに留めたが、関係者によると近日中に、ルフトハンザドイツ航空の動きに追随する見通しだ。

この動きはアジア系の航空会社にも広がっている。現時点(12月1日)でアジア系航空会社は一部の旅行会社にのみ、書面で通知している。しかし、今後、全てのIATA代理店に対して広げる方針。さらに、他のアジア系航空会社では、この状況について「本社と連絡し、判断する」という姿勢を見せる。今年6月にノースウエスト航空(NW)に端を発したコミッション7%から5%への削減はほぼ一巡。今後、注視される動きは中国系の航空会社だが、この動きよりも旅行会社としては「グローバルスタンダード」とされる「ゼロ」への備えをしなければならないことに変わりは無い。


日本市場にも押し寄せる世界規模の変化

 コミッションという制度は旅行会社が顧客に航空券を販売するにあたり、その手間賃にあたる。航空会社側のコミッション・カットは燃油費の高騰、GDS/CRSなどシステムの進化による旅行会社の手間が削減されていることを背景として、減額措置に踏み切っている。

 特に、航空会社は運航コストのうち、燃油費の増大が顕著。さらに業績を上向きにするためには削減できる費用を「可能な限りそぎ落とす」という考えが強い。旅行会社へのコミッションを減らし、GDS等に頼らず、旅行会社の販売前線と航空会社のホストシステムを直接つなぐ流通の仕組みも考えられており、費用削減を至上命題とする余波は日本の旅行会社にも確実、かつ着々と押し寄せてきている、というのが実情だ。

 こうした動きで鍵となる出来事は、オンライン旅行会社、そしてジェットスターなど格安航空会社の日本上陸だ。オンライン旅行会社の代表格であるエクスペディアは日本でのコミッションが9%から7%に削減された時、アメリカ市場でゼロ・コミッションへと導く材料とされたネット系の旅行会社。現在はレジャー市場で、ダイナミック・パッケージの元祖として注目を浴びるが、同時に低コストでの強大な集客をする実績は広く知られており、日本でも集客力を発揮するかで、コミッション・カットの動きにも影響が及ぶだろう。


LCCの販売手数料とは

  日本に就航する海外の格安航空会社で初となるジェットスターの就航は、旅行会社に対しての販売手数料においても格安航空会社の具体的な実態を示してくれている。ジェットスターは来年3月25日に関空/シドニー線を皮切りに、名古屋/ケアンズ/シドニー線、関西/ケアンズ線の就航も先ごろ発表し、着々と就航への準備を進めている。

 この販売手数料はオーストラリア本国のサイトによると、日本は1700円。これはオーストラリアでは20豪ドル(約1800円)、ニュージーランドでの20NZドル(約1560円)、シンガポールの20シンガポールドル(約1510円)、15米ドル(約1760円)と他市場と比べても、ほぼ同程度。また、同社サイトで旅行会社が予約した場合、オーストラリアは25豪ドル、ニュージーランドは25NZドル、シンガポールは25シンガポールドル、アメリカは18米ドル、日本では2000円とし、GDSよりも高い設定だ。


コミッション・カットはシグナルの一つ

 明治大学商学部教授で、日本航空での営業経験を持つ戸崎肇氏は航空会社のコミッション・カットについて、「あくまで一つのシグナル」という。具体的には今後、付加価値産業への変換、人材育成が重要な課題になるという考えだ。戸崎氏によると、1980年代の海外旅行の全盛時代に代理店営業の裁量権が大きかったが、現在は管理が厳しく、自由度が少ないため、結果として旅行会社の手数料は減額していくという考えだ。

 さらに、日本の航空会社の状況として羽田空港の発着枠の拡大、成田空港の滑走路延長による発着枠の増加、関西空港の2本目の滑走路などで、「投資をするべき負担が大きい」と状況を分析。こうした背景から、「グループとして日本航空、全日空とも管理、透明性が高まり、これに反するにぎりの部分も減少する」と断言している。

 だが、旅行会社の勝機としては、オンライン・エージェントが提供する商品の値段が毎日変化しており、「忙しい人は買うタイミングがわからない」という消費者の声もあると指摘。これに対し、企業の旅行需要であれば、忙しい人の代理として旅行プランを組み立て、そこで収益を得る「手間隙をかけること」と方向性を示唆。ただし、その際には「よく言われるが、付加価値を高め、人材育成が鍵」と語り、ビジネスの方向性の転換を促した。

 ただし、システムやITを利用した技術も日々進歩している。例えば、サイトでは利用者に対して購入時期を知らせるアメリカのサイト「Kayak.com」は年間の価格動向を知らせてくれる。この様な技術はいずれ、日本にも登場する。教育や人材育成、付加価値などといっても、機械では置き換えることが出来ないモノ・コトが対象となることであり、こうした点から重点的に強化する必要がある。


販売手数料の引き上げの可能性

 こうしたコミッション削減の流れに対して、航空会社、ホールセラーではないが、パシフィックツアーシステムズが企画・造成するクルーズ商品に一部で、コミッションを増額するオーバーライド・コミッションを導入するという動きもある。  コミッションを増額する施策は、PTSが展開するクルーズ商品のうち2コースのみ。ただし、PTSの祖師部長は「クルーズは海外旅行者1700万人のうち、約60万人程度の市場。さらに、そのうち500万円程度の商品を購入ただける消費者はごく僅か」と限られた市場の規模を説明。こうした市場の取り込みに、販売側に対して「諸経費を持つ」という考え方から、コミッションの増額に踏み切ったという考えを示した。その用途として、具体的には顧客に対して「ハイヤーで空港までお見送りしたり、御食事をしながらクルーズ旅行について話していただく」などということ。こうした「付加価値」に対する「経費」を持つというのだ。

 他社との差別化、という意味合いからは、航空会社においても理論的には、コミッション・カットという一連の流れとは逆行する動きがあっても良いはずだ。一部では航空会社と旅行会社の契約上で、目標設定額達成に際しての販売報償費、あるいはオーバーライド・コミッションの上乗せ交渉をしていることも聞くが、これはあくまで限定された場合のみ。例えば、販売規模の拡大として送客人数や販売額を総額していく場合にのみ、手数料等の増額が見込めるものだ。付加価値を加えることに対して消費者から負担を求めると同時に、それなりのサービスを提供することもサービス提供者として求められていくだろう。

 今回のようなコミッション・カット、さらにゼロ・コミッションへの道筋で最も懸念されるのは新たな体制づくりに乗り遅れること。コミッションの増額という可能性はなきにしもあらずだが、これは量や質の向上が伴わなければ実現しない。