法律豆知識(108)、犯罪歴とビザの関係(その1)

  • 2006年12月2日
<日本に帰国しようとしたら身柄拘束>

 日本女性が米国に一週間滞在し、日本に帰ろうとしたところ、米国の空港で身柄を拘束、そのままスウェーデンへ送致され、刑務所へ入れられてしまったというケースがあった。実は、彼女はスウェーデン男性と結婚して、一子をもうけた。ところが、スウェーデンで離婚し、親権は父親に取られてしまった。

 だが、その後、子供を連れて日本に帰国したところ、それが実子誘拐罪に問われ、一種の欠席裁判によりスウェーデンで有罪の宣告を受けていたのだ。米国とスウェーデンの間には犯罪者引渡条約が存在するので、このようなことが発生する(なお、日本とスウェーデン間には同種の条約はない)。

 出入国にあたっては、前科や犯罪歴により、とんでもないことが起こるのだ。


<日本で前科や犯罪歴があると、外国に入国できないのか>

 「実は、痴漢で略式罰金を受けたことがあるのですが、米国に入国できますか」等の質問を受けることがある。

 しかし、率直なところ、私としてはこの種の質問に正確に答えるだけの情報はない(詳細を知っている人があれば情報提供してほしい)。

 本稿では、私が提供できる範囲で、役に立ちそうな情報を提供しよう。


<前科とその時効>

 まず、罰金は略式手続であっても前科となる。ただし、軽い交通違反で反則金を支払った場合には、反則金自体は行政処分であり、前科ではなく、前歴にもならない。

 起訴猶予(送検されたが、検察官の判断で起訴されず、起訴自体が猶予された場合)は、前科ではないが、前歴としては残る。

 起訴以上、執行猶予でも、これは有罪であり前科であるが、執行猶予期間(最長5年間)が無事終了した時は「刑の言渡」が効力を失うので、前科ではなくなる。しかし、前歴としては残る。

 ところで、前科にも時効はある(刑法37条の2)。罰金刑は、罰金支払後、改めて罰金以上の刑を受けることなく5年経過すれば、刑の言渡は効力を失って前科ではなくなるが、前歴は残る。

 懲役や禁固刑の場合、刑の執行が終了してから罰金以上の刑を受けることなく10年経過すれば刑の言渡は効力を失い、前科ではなくなる。しかし、前歴は残る。

 少年事件でも、少年法に従い処分を受けてもそれ自体は前科ではないが、前歴として残る。

 前科の場合は、このように時効により失効するので明快である。しかし、前歴は1つの歴史的事実であるので、終わりがないので始末が悪い。

 「前科、前歴を記せ」とあれば、前科はなくても、前歴はいつになっても書かなければならないことになる。


<犯罪を犯すとパスポートはどうなるか>

 長期2年以上の懲役に該当する犯罪(微罪を除き大部分の刑法犯が該当する)を犯して逮捕状が出されれば、パスポートの返納が命ぜられることになり、再び新たな申請ができない。

 逮捕されなくても、起訴されれば、返納命令が出され、返納することになる。

 返納には期限が定められており、その期限までに返納しないとパスポートは失効する。

 しかし、執行猶予中でも裁判所の許可を得ることが出来れば、限定パスポート(渡航先と有効期間が制限される)の取得は可能である。ただ、限定パスポートを取得できても相手国が入国させてもらえるかどうかは全く別の問題。例えば、米国などでは、まずビザの発給はされないようだ。

 回収未了のパスポートを使って旅行ができたという例も時には聞くが、これは危険である。相手国で入国を拒否されることも十分考えられるからである。


<再申請>

  罰金の納付を完了し、あるいは懲役や禁固の刑期が満了すれば、改めてパスポートの申請は可能である。但し、パスポートの偽造やその行使で有罪となった場合は申請はできない。(次回に続く)




   =====< 法律豆知識 バックナンバー>=====

第107回 旅行業者も下請保護法の対象に

第106回 海外留学の「商法」−業務提供誘引販売の注意点

第105回 バスの中で盗難にあった場合の責任は

第104回 「白バス」乗車で事故発生の責任

第103回  フライト・キャンセルからの紛争・解決に向けた提案(4)

第102回  フライト・キャンセルからの紛争(3)

第101回  フライト・キャンセルからの紛争(2)


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編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
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