法律豆知識:添乗員無しのツアーの落とし穴〜緊急連絡先(79)

  • 2006年2月25日


日本から添乗員が同行しない時には、緊急時の連絡先を確実にし、適正な対処が出来るような体制を整えておくことが必要である。この体制が不十分なため、旅行者が緊急事態に直面した際、旅行会社から必要なサポートが得られずパニックとなるケースがしばしば報告されている。今回は、緊急時の連絡先の体制づくりがいかに大事か検討しよう。

 どんな事態が起こるのか

 例えば、帰国にあたり、現地添乗員やガイドが、チェックインの手続きを済ませ、旅行者をゲートの中に送り込んでも、旅行者がそのまま無事に搭乗できるとは限らない。オーバーブッキングがあり、搭乗手続きが取り消されるというトラブルも起こりうる。勿論これは航空会側のミスであるが、現実に起こりうるし、起こると旅行者はパニック状態になる。
 旅慣れている者や、語学に堪能な者ならこのようなトラブルに直面しても、何とか自力で切り抜けるであろう。が、パックツアーの旅行者の多くの者にとっては、そうはいかない。語学力の不足から、何が起きたかを理解するのも困難である。
 トランジットが必要な場合には、トランジット時のちょっとしたトラブルでも、添乗員がいないと、旅行者がパニックに陥ることも稀ではない。



 緊急連絡先の必要性

 このように旅行者が添乗員無しでいるときにトラブルに遭遇したときには、その解消のため緊急連絡先の存在が重要となる。連絡を受け、航空会社と必要な交渉をし、あるいは、適切なアドバイスをしてパニックを解消することが出来れば、トラブルは最小限ですむはずだからである。
 ところが実際は、この緊急連絡先が必要な機能を果たせず、深刻なトラブルに発展することが多い。連絡しても不在で連絡が付かない。人が出ても、日本語が出来ず、何の役にも立たない。日本語が出来ても必要な対処が出来ない。その結果、旅行会社側が、パニック解消のために何の役割も果たせないという例が後を絶たないのである。



 対策は

 添乗員が付かないパックツアーを出すときには、24時間適切に機能する緊急連絡先が絶対必要である。夜間は営業していませんでは済まないし、勝手の分からない人間をおいていても意味は無い。

 現地の緊急連絡先が充実した体制を保持していることが理想であるが、あらゆる地域で、完璧を帰すのは困難であろう。となると、日本に緊急連絡のセンターを設け、専門のスタッフが24時間対応できるバックアップ体制を整えておくという方法が考えられ、これが効果的であろう。携帯時代なので日本に簡単にアクセスできる。これからは、特にこのような日本のバックアップ体制は重要性を増すであろう。

 さらに、担当スタッフの教育にも努めてほしい。いくら連絡を受けても、適切な対象が出来なければ何の意味もない。適切な指示とアドバイスをし、必要とあれば空港職員と交渉できる能力を養成しておくひつようがあるのである。
 また、そもそも、現地のコインやカードがないため、旅行者が空港から緊急連絡先へ連絡が出来ないことも多い。このようなケースに対する対策としては、「それを所持する旅行者に変わってここに連絡して欲しい」旨の空港ないし航空会社職員宛の英文のメッセ−ジを持たせ、それを旅行者に持参させるという方法もある。添乗員がつかない場合には、このようなきめの細かい配慮もして欲しいものである。
 さらに、添乗員がいても、添乗員が直近にいないという事態もありうるし、突然のフライトキャンスルなどのため、急遽二つのグループに分かれて移動せざるを得なくなり、添乗員がつかないグループが出来るということもありえる。このような事態を考えると、緊急連絡先体制づくりは、添乗員がついている場合も、決しておろそかに出来ないことを忘れてほしくないものである。


  =====<法律豆知識 バックナンバー>=====

第78回 「ハンパな処理」がトラブルを呼ぶ〜応用事例

第77回 「ハンパな処理」がトラブルを呼ぶ

第76回 ツアー中の雪崩事故とガイドの責任

第75回 羊蹄山有料登山ツアー凍死事件と教訓

第74回 グリーン車の座席は、後ろ向きでは駄目か?



----------------------------------------------------------------------

※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/