窓口での欲張り−「ハンパな処理」がトラブルを呼ぶ、旅行契約は成立したか?〜法律豆知識(77)

今回は、窓口レベルでよく起こるトラブル事例を素材に、トラブルはなぜ生じるかを考えてみよう。

顧客Aは、B社の営業所で「Mホテル指定の台湾行きのパックツアー」の申し込みをした。しかし、B社の担当者Cは、「航空便はとれるがホテルは満室なので、すぐには回答できないが、取消料の発生する時期に入っているので、とりあえず申込金を払って欲しい」といって、Aから2万円を受け取った。
Cは、その後ホテルが満室でとれないことを最終確認し、その日の夕方、Aに「ホテルがとれないので申し込みはなかったことにして欲しい」と連絡。
ところが、Aは、「旅行は決行したいので、Mホテルと同等クラスのホテルで手配をして欲しい」という。Cは、それを受け、空室のあるNホテルを探してAに提案した。ただ、NホテルはMホテルより格上で、3万円の追加料金がかかることを伝えた。それを聞いたAは、「申込金を払っているのだから、B社にはMホテルと同等のホテルを確保する義務があるはずで、それが出来なければ差額はB社でもて」といって引き下がらない。

どちらの主張が正しいか
これは窓口レベルでよくある事例である。
旅行契約の成立時期は、旅行契約約款に明記されている。募集型も受注型も、旅行業者が契約の締結に承諾し、申込金を受理したときに成立することになっている(第8条1項)。
つまり、旅行契約成立には、「承諾」と「申込金の受理」の両者が必要なのである。
本件では、申込金の受理はしたが、「ホテルは満室なので、すぐには解答できない」と言って承諾は留保している。従って、契約は成立していないと言うべきである。そもそも、民法の一般原則からしても、契約は、申し込みの意思表示と承諾の意思表示の合致があって初めて成立するものである。承諾がなければ契約は成立し得ないのである。
従って、Cによる「NホテルはMホテルより格上で、3万円の追加料金がかかるがどうか」というのは、新な契約の申し込みとなる。
Aはこれを受け、YESかNOの返事をすべきで、「申込金を払っているのだから、B社にはMホテルと同等のホテルを確保する義務があるはず」と主張するのは無理であり、法的には通らない。契約が成立していない以上、同等のホテルを確保する義務があるわけがないのである。

なぜ起きたか
ではなぜ、本件のトラブルが生じたのであろうか。
本件は、申込金を払わせた点が問題である。人は、金を払った以上契約は成立したはずと思いこみがちなのである。金を払うというのは、それが一部であっても、払った本人にとっては、重い意味を持ってしまうのである。
今回のようなケースでは、申込金を受け取らずに、Mホテルが手配できるか最終確認を急ぐのが最良の処理だったのである。実際、Cはその日のうちに回答をしている。であれば、申込金を受け取るまでもなかったのである。
本件は、結局はお客を逃がしたくないので、一部でも払わそうというスケベ心がトラブルを招いたと言えよう。このような「ハンパな処理」がトラブルを呼ぶのである。
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