クリスマス・マーケット、複数国の周遊型ツアーの増加は今後の傾向か?

  • 2004年12月24日
 クリスマス・マーケットはドイツをはじめ、フランス、スイス、オーストリア、ベルギー、北欧諸国などヨーロッパ各国で開催している。クリスマス・マーケットはクリスマスからさかのぼり、4週間前の日曜日から始まるアドヴェント(待降節)に行われる。出店が200軒以上建つ大規模なマーケットから小規模なマーケットまで、一般的に教会を中心として開催し、その土地毎に特徴あるマーケットを繰り広げる。
 今回は12月初旬に訪れたドイツをはじめとした各国のクリスマス・マーケットの特徴などを紹介する。

▽クリスマス・マーケット商品の概観
 ヨーロッパのオフ・シーズンにあたる冬期、観光局や旅行会社は需要底上げ役としてクリスマス・マーケットを注目している。クリスマス・マーケットを全面に打ち出す商品で最も集客実績のある近畿日本ツーリストをはじめ、現在はジェイティービー、HIS、阪神航空、ANAセールス&ツアーズ、日本通運、日本旅行など、東京発に限ってみても各社とも別冊パンフレットを展開する力の入れようだ。料金は手ごろな商品で9万円台から。商品を大別しても、規模の大きいクリスマス・マーケットを組み込む初心者向けの企画から、小さな街のクリスマス・マーケットを訪問するリピーター対象の企画など、多様化が進んでいる、というのが現状だろう。
 各社の主催ツアーは、ドイツ一ヶ国のクリスマス・マーケットを巡るツアーが主流。特に、ロマンティック街道、ノイシュバンシュタイン城とクリスマス・マーケットを組み合わせたもの、ドイツの三大クリスマス・マーケットであるニュルンベルク、ドレスデン、シュトゥットガルトを訪れるツアーが定番だ。ドイツ観光局によると、日本人訪問者が最も訪れるのは、「世界一有名なクリスマス・マーケット」と謳われるニュルンベルクのクリスマス・マーケットだという。
 そのほか、ドイツとフランス、ドイツとオーストリアのクリスマス・マーケットを訪れる企画もある。こうした動向について、バーデン・ヴュルテンベルク州観光局の渋谷雅子氏は「これまで国や州ごとにプロモーションをしてきた。しかし、隣接する国や地域で協力することが必要」との認識を示し、特に「地域全体の旅行需要の相乗効果が見込める」と効用を分析する。今後は二ヶ国、三ヶ国を周遊するツアーも増えることが予想される。

▽雰囲気を演出するコンサート・イベント
 クリスマス・マーケットをテーマとする旅行は、主目的のマーケット見学以外にも、訪れた土地の雰囲気を存分に楽しむ構成となっている。その雰囲気を盛り上げるのは、各地の宮殿や教会、特設イベント会場で地元のコーラスグループなどが開催するコンサートが代表例だろう。ホリデイはウィーンのシェーンブルン宮殿の敷地内にあるレストランでヨハン・シュトラウスの名曲観賞をオプションで設定。ルックJTBはザルツブルグで「きよしこの夜」の観賞を組み込む。そのほか、ANAハローツアーは出発日指定で、バッハが音楽監督を務めたライプツィヒの聖トーマス教会少年合唱団のコンサート組み込んでいる。
 コンサートだけでなく、クリスマスの季節を満喫する体験として、キャンドルやリース作りもある。ドイツの黒い森周辺はハチミツを使用したキャンドルが有名で、製作を体験できる。黄色いハチミツの色のキャンドルはシンプルな形からクリスマスツリー、あるいは動物の形など様々な種類に出来上がる。また、好きな色のロウを使い、個人のオリジナルのキャンドルを作ることも可能だ。ドイツのフライブルグ、スイスのバーゼルなどのクリスマス・マーケットでは、仮設された小屋や街中の作業場に教室を開設している。
 クリスマス・マーケット中にイベントを開催する箇所もある。例えば、フライブルグのセント・ニコラウス・マラソンは、参加者は赤い衣服を身に付け、チョコレートをはじめとするお菓子を配り、市内を走るユニークなイベント。また、スイスのバーゼルでは毎年、地元のハーレークラブのメンバーがサンタクロースの衣装を着て街中を走り回る。30台ほどのハーレーをサンタクロースが乗り回す様は、新旧の要素が重なるひと味違うクリスマス・マーケットの印象を与える。そのほか、多くのクリスマス・マーケットにメリーゴーランドやミニ観覧車、スケート場などの移動型遊園地が出現する。規模が小さく、気軽に楽しめるアトラクションだ。

▽注目したい動き
 今秋、バーデン・ヴュルテンベルク州観光局は東京の丸の内でOL対象にクリスマス・マーケットの説明会を開催した。参加者からは「20万円程度であれば、訪れてみたい」という反応が多かった。しかし、「夏休みや年末年始のように休暇を取れる時期ではなく、旅行に参加しにくい」とのコメントもあった。バーデン・ヴュルテンベルク州観光局は、クリスマス・マーケットを訪れるメインの熟年層に加え、OLから寄せられたコメントを踏まえつつ、ターゲットとしてOLや母娘に着目していくと言う。これは、業界全体で30代の旅慣れたOL、および母娘の旅行需要は堅調に推移する傾向に加え、手ごろな価格で魅力的な商品を企画した場合に取り込める潜在需要があると見ているからだ。熟年層だけでなく、OL層への訴求を意識したパンフレット作りなど、旅行会社の協力を得ながらプロモーションしていきたい考えだ。
 また、旅行会社のクリスマス・マーケット担当者にツアー参加者の熟年女性から、「クリスマスをこんなに楽しく過ごせるとは思っていなかった」という感想が寄せられた。若い人だけでなく、全ての人がクリスマスを楽しむヨーロッパの雰囲気を現地で実際に体験したことから発せられた言葉であるだけに、説得力がある。現地の人と触れ合うことが出来る小規模のクリスマス・マーケットで、この旅行会社では「お客様の声を大切にした商品造成をしたい」と考えているようだ。

▽ドイツの特徴と複数国の周遊型
 ドイツ政府観光局は2003年、イヤーテーマとして「きらりと光る小さな町」として108ヶ所の町をプロモーション展開した。こうしたいわば従来の観光ルートから外れる町にも着実に観光客が訪れはじめている。こうした動きを支えるのがクリスマス・マーケットだ。
 マーケットで販売する商品はクリスマスの飾りからその土地の伝統的なお菓子、工芸品、食べ物など様々。ドイツのクリスマス・マーケットグリューワインやお菓子に使用するシナモンなどの香辛料の香りが漂い、食欲を刺激する。また、随所でストリートミュージシャンがクリスマスの音楽を奏で、クリスマスのムードを盛り上げる。
 また、名物の一つに「グリューワイン」がある。これは、赤ワインにシナモン、オレンジやレモンなど柑橘類の皮、はちみつなどを加えたホットワインだ。グリューワインの出店の前方に、複数の木製テーブルが置いてあり、グリューワイン片手に地元の人々と一緒に会話する旅行者もいる。
 グリューワインを飲むカップは街ごとのオリジナル。シンボルの教会をモチーフにしたもの、街の景色や地名のロゴを入れたカップなど訪れた場所でしか入手できないものがある。各地のカップをコレクションする事も良いだろう。お酒は他に、季節限定の「フェーダーヴァイザー」という少し酸味のある不透明な発酵中のワインもある。また、クリスマス・マーケットでは、ナッツ、およびシナモンなどの香辛料を使ったレープクーヘンやシュトーレンなどのクリスマス用のお菓子を販売している。
 クリスマス・マーケットで買い物をする時は自然と店主やグリューワインの店前の立ち飲み場などで、地元の人と会話が生まれる。現地の人との触れ合うクリスマス・マーケットを南ドイツ、フランス、スイスなど、今後の複数国の周遊型ツアーを企画する上でポイントと予想されるクリスマス・マーケットの特徴を下記にまとめた。

・シュトゥットガルト(ドイツ):世界最大規模・店の屋根の装飾が有名
 古い歴史をもつクリスマス・マーケット。ドイツ3大クリスマス・マーケットの一つで、出店の数は230軒以上。このマーケットの特徴は出店の屋根のデザインがこっていること。屋根の上にはからくり時計をはじめ、サンタクロースやスノーマンのデコレーションがライトアップされ、クリスマス・マーケットの雰囲気を盛り立てる。

・ルートヴィヒスブルク(ドイツ):バロック様式・天使のイルミネーション
 シュトゥットガルト郊外のルートヴィヒスブルクのクリスマス・マーケットは「バロック・クリスマス」といわれ、その名の通り左右対照に建物が立ち並ぶ。地元のデザイナー、ディシドーが手がけたクリスマス・マーケットの天使のイルミネーションが美しいと評判。市庁舎前のマルクト広場を中心に約160軒の出店が並ぶ。

・フライブルグ(ドイツ):朝市と共に楽しむクリスマス・マーケット
 大聖堂を中心にクリスマス・マーケットが開催する。日中は朝市とクリスマス・マーケットが一緒になっている。新鮮な野菜や果物を販売する光景は、生活のにおいを漂わせ、地元の人の日常を垣間見ることが出来る。

・ゲンゲンバッハ(ドイツ):世界一大きなアドヴェント・カレンダー
 世界一大きなアドヴェント・カレンダーがある。街の中心に建つ市庁舎の窓が24枚あることから、アドヴェント・カレンダーにみたてた。昨年に続き今年も、小窓の中にはマーク・シャガールの絵が飾られている。クリスマス・マーケット開催期間中、近隣の美術館でシャガールの本物の作品を含む、展示会も開催している。

・ストラスブール(フランス):400年以上の歴史ある市・クリスマスツリー発祥の地
 400年以上の歴史をもつ、ストラスブールのクリスマス・マーケット。クリスマスツリーを飾る習慣発祥の地。クレーベール広場には、高さ26メートルのクリスマスツリーを設置されている。200以上のライトやクリスマス・オーナメントで飾られ、街を彩るイルミネーションの中でも、一際目を引く。街のシンボルである高さ142メートルある大聖堂前広場をはじめ、5ヶ所のマーケットが点在する。

・バーゼル(スイス):100本のツリーがライトアップ
 大小併せ4ヶ所設置されており、クリスマス・マーケット全体の規模が大きい。旧市街を中心に約100本のツリーにライトが点灯されるほか、店のショーウィンドーもクリスマスを意識したデコレーションが施され、洗練された美しさを演出する。

 クリスマス・マーケットはそれぞれ、イルミネーションの飾り方、目玉となるツリーのオーナメント、そのマーケットの歴史、規模、イベントなど、特色がある。マーケットの数も多く、素材の組み合わせ方次第で、移動時間を割かずに各地を巡る旅程の設定が可能だ。寒空の下、神々しく輝くイルミネーションの光、老若男女が行き交うクリスマス・マーケット、香辛料と赤ワインの香り漂う出店街など、ツアー参加者がマーケットのあちこちにあたたかさを感じることが出来る素材は豊富にありそうだ。