楽天の「旅窓」買収で旅行ECは?ネットレイティングス社長に聞いてみた

  • 2003年9月29日
 「旅の窓口」を運営するマイトリップ・ネット社を楽天が323億円で買収した事で、インターネット・コマースはちょっとした話題となっている。インターネット利用者のホームページ閲覧の動向調査を行うネットレイティングス株式会社が9月の旅行サイトの利用者動向と楽天の買収に関連する調査を行ったので、今週は楽天の買収とイー・コマース(EC)に関して、インタビューを交えながら考えてみた。

 ネットレイティング調べでは、じゃらん、ヤフー・トラベルなど主要旅行サイトの利用者数は、9月1日から9月7日の第1週から9月8日から9月14日の第2週へ大きく上昇し、秋の旅行への関心度の高まりが見られる。また、上記の3サイトの利用者数は40万人台で拮抗し、群雄割拠の様相を呈している。
 このような状況において、楽天のマイトリップの買収は借金を作ることになろうとも、メリットが大きいと言われる。なぜか。これは、「旅の窓口」と「楽天トラベル」を重複して利用する消費者が少ないことが関係する。9月の第2週を例にとれば、2サイトの利用者数は60万3000人(推計)であり、このうちの重複利用者は約4万人(推計)という。つまり、利用者は楽天をヤフーやイサイズのようにポータル(玄関)サイトとして利用できるようになる。重複利用者を引いた場合でも、約55万人と40万人台で争うインターネット旅行サイトの集客力から一歩も二歩も抜け出るのだ。
 また、楽天が蓄積するショッピング・サイトとしてのノウハウ、つまりホームページで旅行に関連する商品の購入を促進する改良が加わると想定される。「旅の窓口」の総訪問者数のうち、予約手続きで利用するセキュアサイト(https://aps1.mytrip.net)の利用割合は18%程度に留まることから、訪問者数の増加と共に、訪問者を購入者に変える「マジック」が続々と投入されることで、セキュアサイトの利用割合も高まるだろう。

(表1)旅行関連サイトの利用者数推移(単位:千人)
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9/1 〜9/7 9/8〜9/14 増加率
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mytrip.net 356 475   33.4%増
jalan.net 415 439    5.8%増
travel.yahoo.co.jp 308 413   34.1%増
jtb.co.jp 208 241   15.9%増
travel.rakuten.co.jp - 168    ---
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注)増加率はトラベルビジョン編集部

(表2)旅の窓口と楽天トラベルの重複利用(集計期間:2003/9/8〜9/14)
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利用者数(単位:千人) リーチ%
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mytrip.net 475 2.32
travel.rakuten.co.jp 168 0.82
共通する利用者数 40 0.20
重複を除いた利用者数 603 2.95
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(出典:Nielsen//NetRatings)

 このような旅行サイトの利用者動向や他業種のホームページの利用動向を調査するネットレイティングス社のチーフアナリストであり、代表取締役社長の萩原正行氏に、今後の旅行業界のインターネットの動向予測などを聞いてみた。

−今回の楽天の買収をどのように分析していますか?
萩原氏:楽天の買収は、ホームページを統合するといった動きは無いので消費者に影響が及ばない。楽天は6月にポータルサイト「infoseek」と「Lycos Japan」を統合してinfoseekブランドに統一し、ユーザーIDを利用した利便性の向上を図ることで、ヤフーに対抗する巨大サイトになる。楽天はショッピング・サイトとして日本ではナンバー・ワンであるから、旅行ショッピングの部門でも一番になるための施策でしょう。
 マイトリップ自体は旅行サイトに限らず、インターネットの世界で稀に見る成功したサイトの一つですし、楽天自体が旅行に付随する物品の購買につなげる波及効果を考えに入れると323億円という買収額は決して高くないでしょう。

−総務省の調査で2006年の旅行EC(イー・コマース)市場は2.4兆円と分析しています。今後のインターネットの旅行ビジネスはどのようになると想像しますか?
萩原氏:2.4兆円というのは大胆な予測ですが、有望な市場であることは確かです。そして現在、旅行会社が取扱う額の半分がインターネットでの購入になっても不思議はありません。旅行商品は、インターネットと親和性が高い商品の一つです。これは通信販売や電話、FAX、はがきでの予約、購入がECへの導入口となっています。また、旅行業界だけに限らず、あらゆる業種が商品の価格を家にいながら比較して購入する対象となっています。
 旅行に限ると、消費者の意識の最大の変化は、価格が時価であることに気づいた事です。情報の大量流通によって、消費者と旅行会社の情報の格差は下がり、価格に変化があることを気づかせた。旅行会社が厳しい現実に直面している反面、消費者は大きな喜びを手にしました。また、航空会社やホテルが直接、消費者を取り込み、これまでは売れ残っていた空白の部分を埋め始めました。
 ホテルや航空券の購入は、いっそう商品提供者から直接購入する流れが促進するでしょう。この動きを推進するには、利用者の評価を積極的に開示することです。悪いことを書く方が必ず登場しますが、会社の状況を誠実に説明すれば消費者全体が悪い情報をマイナス・イメージのまま、インプットすることはありません。消費者に対して、フィードバックをすること、情報の整理をすることは、旅行会社がする事なのかもしれません。
 ただし、パッケージ旅行や高額商品はこれまで以上の情報を開示する場面にさらされるでしょう。昔のパンフレットの世界では、ホテルや旅館、風景、航空会社の座席などワンカットの写真で商品のマイナス面を隠すことが可能でしたが、今の口コミの伝達力には通用しません。動画や360度の画像というイメージをより具体化させることが無ければ、購入に結びつかないでしょう。特に無形商品といわれる旅行の購入は、可能な限り最新の情報を提供すること、口コミの伝達力を重視することは、現在の旅行サイトの課題かもしれません。