「点をつないで線と面に」観光庁が示す次の一手、資源のストーリー化と消費設計が鍵【対談】

  • 2026年4月3日

篠原 その上で、2026年度の「観光需要分散のための地方観光資源のコンテンツ化促進事業」について伺いたい。この事業の狙いと、地域に求められる視点は。

篠原氏

矢吹 この事業で重視しているのは、「分散」を広い意味で捉えている点である。地理的な分散だけでなく、時間や季節の分散も重要なテーマだ。特定の場所や時間帯に集中する状況を緩和し、例えば朝や夜といった時間帯の活用や、閑散期に来訪動機をつくる取り組みなどを通じて、観光需要の平準化を図っていく。

 その上で、この事業では単なる誘客ではなく、地域の中でしっかりと消費が生まれる仕組みづくりを重視している。観光コンテンツの造成、情報発信、販路開拓を一体的に支援するのはそのため。体験や交流を通じて滞在時間を延ばし、宿泊や飲食、購買へとつなげていくことで、地域経済への波及効果を高めていきたい。

篠原 つまり、「どこに来てもらうか」に加えて、「いつ来てもらうか」、さらには「何を体験してもらい、どう消費につなげるか」までを設計する段階に入っているということだ。その意味では、従来の観光施策とは一段階進んだ取り組みと言える。

 さらに言えば、こうした文脈の中で、伝統工芸や食文化といった分野も重要になる。単なる物販ではなく、その背景にある人や技術、ストーリーを含めて価値として提供する必要があると感じている。

矢吹 その点は非常に重要だ。特に海外の富裕層は、作り手や制作過程、そこに至るまでの時間や技術といった背景に価値を見出す傾向がある。単に商品を購入するだけでなく、実際に体験し、作り手と交流することで、より高い満足度につながる。

 そうした体験を組み込むことで、高付加価値な観光コンテンツとして成立し、結果として消費単価の向上にもつながる。さらに観光をきっかけに販路が広がることで、伝統産業の持続や次世代への継承にも寄与する可能性がある。

篠原 観光が単なる誘客ではなく、産業そのものを支える仕組みにもなり得るということだ。ただし、こうした取り組みは地域単独では難しい。人材やノウハウの面でも限界がある。

矢吹 その通りで、地域が主体となることは前提だが、外部の専門人材や民間事業者との連携が不可欠になる。それぞれが持つ知見や強みを持ち寄り、チームとして取り組むことで、より実効性の高い商品づくりが可能になる。

 また、外部の視点が入ることで、地域の魅力を客観的に捉え直すこともできる。そうした意味でも、地域内外の連携を前提とした体制づくりが重要になる。

篠原 観光は単独の産業ではなく、地域全体を巻き込む総合的な取り組みである。今回の施策は、単なる補助ではなく、地域の考え方や進め方そのものを変えていく契機にもなり得る。

矢吹 多様な地域資源を活かし、それぞれの地域ならではの魅力を磨き上げ、発信していくことが重要だ。その積み重ねが、観光需要の分散と地域での消費拡大の両立につながっていくと考えている。

篠原 観光は地域の未来をつくる手段である。今回の取り組みを契機に、各地で新たな挑戦が生まれ、それぞれの地域ならではの価値がさらに発信されていくことを期待したい。