「NOと言わない16年」──学術・業務渡航の“指揮者”、グローカル 川西嘉隆氏の仕事哲学
川西 OTAが強い時代ですが、決まったフォーマットで説明できない要望は非常に多くあります。例えば弊社の案件の場合は、一つのプロジェクトが始まると、膨大なメールのやり取りが発生します。お客様自身が何を求めているか明確でないことや意見の差異が埋められないケースも多く、それらを汲み取り、核心は何かを先回りし、考え、着地点をお客様に提案できることが最も重要だと思います。
感覚的ではありますが私たちはオーケストラの 「指揮者」 のような役割を担っているのです。従って、リアルエージェントは、指揮台に立ったマエストロのように個性の異なる参加者の要望を俯瞰し、まとめ上げ、渡航を成功に導く能力を発揮することに価値があると言えるでしょう。
川西 今後は、業務渡航だけに頼らない事業にも広げていきたいと考えています。とはいえ今の顧客層と乖離しないよう、彼らが興味を持つレジャー分野を追求したい。例えば、学術渡航のお客様は、一般的な観光にはあまり興味を示しませんが、自分の研究分野に関係するテーマであれば非常に関心を示します。例えばオランダ・ライデンにはシーボルトに関する資料が膨大にあり、そこへ訪れる学術的なテーマの旅を手配したことがあります。そういったものはオリジナリティーを発揮できますし、更に深堀りしたいテーマに沿った旅や、推しを求める客層にも訴求できます。そうしたツアーコンテンツを開発し、自社ブランドとして販売していきたいと考えています。
また、京都で育ち、歴史を学び、オフィスを構えているというローカル色を活かし、私にしか作れない着地型ツアーの企画にも挑戦したいですね。
川西 神社やお寺がメインと思われがちな京都観光ですが、御幸町三条にある GEAR(ギア) はぜひ体験してほしいノンバーバルのファンタジー劇で、スリリングなパフォーマンスも組み合わさり外国人の方にも大変人気があります。
寺町二条にある ブション(Bouchon) は、カジュアルな価格帯で本格フレンチを楽しめるレストランです。オーナーがフランス語堪能で、フランス人のお客様も多く、そのやり取りの中にいると、京都にいながらフランスのビストロの雰囲気を感じられます。また、植物園の向かいにある ブリアン(Briant) はパン激戦区の京都でも名店で、ビュッフェ形式のモーニングは、窓から植物園の緑を眺めながら朝をゆっくり過ごしたい方に特におすすめです。さらに、広東料理の 紫藤花(しとうか) もお気に入りの一つです。落ち着いた雰囲気で、上質な中華を味わえる名店です。
川西 どんなに忙しくても、時間を作って、海外へ行ってほしいと思います。遊びでも構いません。日常生活を離れて視野を広げ、新しい価値観に触れてほしい。航空券の運賃は今やインバウンド需要で動いています。日本人が今、外に出なければ、この構造は変わらないと感じています。
また、独立を考えている方へ。会計的な知識や人脈よりも、自分が積み重ねてきた知恵と経験が最大の財産になります。AIを利用している旅行会社にスポットがあたりがちですが、最近は海外の同業者(ファミリー企業など)と交流する機会も多いのですが、彼らは意外なほどアナログな手法でビジネスをされているにも関わらず、競争知らずで、活き活き輝いておられます。個人としての新鮮な体験をそのままお客様に伝えることが、詰まるところ競合がいない“ブルーオーシャン”のビジネスなのではないかと強く感じます。ぜひ旅行会社に勤めているさまざまな特典を活かし、現地に赴き、そこで得た旅行体験を通じて、唯一無二の価値に基づいた提案力を磨いてほしいと思います。