日本人の香港回復、競合に遅れ 「可愛い」と「教育旅行」で再訴求へ
未だ回復途上と言える日本人アウトバウンドだが、行き先によって温度差も大きい。2025年上半期の日本人旅行者数は、韓国約162万人(2019年比98%)、台湾約68万人(同69%)に対し、香港は約35万人(同50%)にとどまった。
香港政府観光局の佐伯氏によれば、背景には二つの要因がある。
一つは、若年層への訴求不足。コロナ後の海外旅行をけん引するZ世代だが、「若い人にとって香港のイメージが薄い」という。もう一つは主要顧客層の回復鈍化。円安や物価高でミドル・シニア層の旅行意欲が戻りにくく、従来の支え手が動かない。
こうした課題を受け、香港側が掲げる新戦略が「可愛い」と「教育旅行」だ。
まず「可愛い(Kawaii)」は、キャラクター的な可愛さではなく、ストリートアートや創作飲茶、レトロ街区、ネオンサインなど"香港らしい可愛さ"を指す。
2024年秋から若年・女性層を狙ったキャンペーンを展開し、SNSやインフルエンサーとの連携を強化。2025年春にはガイドブック「kawaii 香港グルメ編」を発行し、第2弾(雑貨・街歩き編)も準備中だ。
キーターゲットは旅行意思決定者である女性層で、カップル・友人・ファミリー層まで波及を狙う。夜景やグルメなど従来の魅力に加え、"可愛い"を軸に新たな来訪理由を創出している。
もう一つの柱が、教育旅行の再構築。香港は領土の約4割を自然保護区が占め、都市と自然の距離が近い。これを活かし、環境保全・文化遺産・異文化体験・アートなど、多様な学習プログラムを整備中だ。
香港ディズニーランドやオーシャンパーク、証券取引所などでもエデュケーションプログラムを提供しており、標準モデルは4日間滞在を想定。アクセス面でも全国各地から直行便が運航しており、短期間でも効率的に学び体験を組み込めるのが強みだ。
「小さく安全で、公共交通が発達しており、生徒が自力で動くことができる」と佐伯氏。現在は日本旅行業協会(JATA)アウトバウンド促進協議会(JOTC)教育旅行部会と連携し、セミナーや視察といった一連のプログラムを展開している。
新スポット続々、観光素材の多様化進む
現地では、観光素材の刷新も進む。西九龍文化地区や新複合施設「カイタック・スポーツパーク」が整備され、オーシャンパークでは双子パンダが1歳を迎えた。映画『トワイライト・ウォリアーズ』のヒットなど、香港映画の再評価も追い風だ。
「若年層向け訴求は1年では浸透しない。継続的に展開する」と佐伯氏。日本人旅行者の回復率で韓国や台湾を下回るなか、"可愛い"で若者の感性に、"教育旅行"で次世代の体験に働きかける構えだ。