JTB、訪日インバウンド戦略を再構築 「VISION2030」で地域共創を加速

JTBは1日、「訪日インバウンドVISION2030」に関する戦略発表会を開催し、持続可能な観光立国の実現に向けた事業方針を示した。地域との共創やデータ活用を軸とした「3つの改革」を柱に、訪日外国人旅行者の受け入れ体制の強化と観光体験価値の向上を図る。2030年までに訪日外国人旅行者数6000万人、旅行消費額15兆円という政府目標を見据え、地域経済の活性化と観光産業の基幹産業化に貢献することを掲げた。
代表取締役社長執行役員の山北栄二郎氏は、JTBが1912年に外国人観光客の誘致を目的に設立された歴史に触れ、「我が国が大きく成長していく上で、訪日インバウンドは極めて重要な要素である」と述べた上で、「世界トップレベルの観光立国になるためには、単なる旅行サービス提供にとどまらず、地域そのものを良くしていく流れを作りたい」と語った。2024年に過去最高となる3687万人が訪日し、8兆円超の消費を記録した現在、今後の成長には地域間のバランス是正と旅行者の多様なニーズへの対応が不可欠とした。
その方針を具体化するのが、今回発表された「3つの改革」。常務執行役員で訪日インバウンドビジネスを担当する山田仁二氏は、海外市場ごとに異なるニーズと、日本各地の地域課題を丁寧につなぎ、課題解決を図ることの重要性を強調した。JTBでは、観光産業全体として最高の訪日体験を提供できる構造の構築を目指し、「訪日インバウンドVISION2030」の中核として、以下の三つの改革を掲げている。
第一の改革は「戦略的事業領域(6+1)の策定」で、既存の6領域(BtoC、提携販売、旅行会社・ランドオペレーター、BtoBコーポレート、プロモーション、BtoG)に加え、新たに旅行目的を創出する領域を追加する。「+1」として位置づけられるのは、地域資源を活用したコンテンツ開発であり、寺院仏閣の特別拝観やエリア周遊などを通じて訪問動機を喚起する。
第二は「積極的な投資による課題解決力の強化」。2024年から2025年にかけて約150名のインバウンド人材を新規配置し、北海道から沖縄まで6つの地域推進拠点を設置した。在外拠点と連携し、現地発の需要を各地に着地させることで、訪日旅行の地域偏在を是正する。
第三は「訪日旅行者の目的となるサービス・コンテンツの創出」で、外部パートナーと協業し、ナイトタイムエコノミーや地域独自の魅力を反映した観光資源を育成していく。例として、2025年2月にはアソビシステムと提携し、KAWAIIカルチャーを活用した共同事業開発にも取り組む。
これらの改革を下支えするのが、現在開発中の「JTB Tourism HUB」。2026年度中の本格稼働を目指す同プラットフォームでは、宿泊・交通・アクティビティなど多様な観光素材を集約し、グローバルOTAやその他販売チャネルと接続する仕組みを構築。加えて、購買・行動データを分析することで、地域に最適なプロモーションや商品造成を可能にする。
訪日インバウンド共創部長の寺本巧氏は、訪日旅行者のうち60%以上がリピーター化している現状を示しながら、「東京・京都・大阪といった大都市圏に宿泊が集中する一方で、地方では『いつ来てくれるのか』という声もある」と述べ、地域間の格差是正の必要性を強調した。そのうえで、ソースマーケットごとの旅行ニーズと、地域側が抱える課題の双方をデータに基づき丁寧に把握し、課題解決に結びつけていくことが重要であるとの考えを示した。
JTBは今後、訪日インバウンド事業の取扱額を2025年度比約2.7倍、売上総利益を約2.9倍に引き上げる数値目標を掲げており、市場の成長率を上回る拡大を目指す。