海外旅行の復活へ、潜在市場は1715万人規模!-早期回復へターゲットは?
10月末に開催されたツーリズムEXPOジャパンでは、恒例のテーマ別シンポジウムも開催。アウトバウンドについては「日本人の海外旅行促進に関するシンポジウム」のテーマでこれからの市場の回復と成長の可能性について意見が交わされた。議論のベースとなった、史上初かもしれない日本人消費者の海外旅行に関する大規模な意識調査の結果を中心に、シンポジウムの概要を紹介する。
国としても訪日・海外を「両輪」で
シンポジウムの冒頭では観光庁審議官の石塚智之氏が挨拶。コロナ禍からインバウンドは急速に回復しているもののアウトバウンドは5割弱に留まっていること、一方でアウトバウンドの促進は日本人の国際感覚の向上や相互理解の増進によって安定的な国際関係の構築につながること、また国際航空ネットワークの拡充によってインバウンドのさらなる拡大にも寄与することなどを列挙し、国としても「インアウトの両輪」で取り組みを進めているとアピール。「本日のシンポジウムが日本人の海外旅行の回復の一助となり今後ますます日本と各国の総方向の交流が拡大することを期待」していると語った。
コロナ後の回復遅れ、原因は?
続いて登壇したのは三菱総合研究所観光立国実現支援チームリーダー主席研究員の宮崎俊哉氏で、今年8月に実施した調査の結果を報告した。
調査は、ウェブ上でアンケートを実施して3000人から回答を収集。設問では過去の海外旅行経験、コロナ禍前後の海外旅行の実施状況、海外旅行に対する意識、年代や居住地などの個人属性を聞き、さらに三菱総研が保有している価値観やライフスタイル、収入などのデータも組み合わせて分析したという。
まず回復状況については、コロナ禍前の3年間との比較で全体が39%。アジアが30%台から40%台となった一方、欧州は20%に満たない状況で、費用の高騰もあってか距離が遠い旅行先ほど回復が遅れていることが確認できた。
セグメント別では、50代と60代のシェアが32.5%から18.5%へと減少した一方、20代から40代が67.6%から81.5%へと急上昇。一方、性別では特に20代から40代の女性のシェアが大きく減少傾向にあるといい、それらの世代の男性は回復率が61.0%となったのに対して女性は33.0%に留まったという。同行者の変化でも「同行者なし」や「家族(全体)」が増えた一方で「友人と」が減少しているといい、レジャーよりも出張需要の回復が先行している可能性もうかがえる。
また、現地で実施するアクティビティでは、観光や名所巡りがコロナ前には54.8%であったところが30.1%と大幅に減少したほか、食べ歩きも46.8%から29.6%、ショッピングは45.8%から28.7%と17ポイント以上下落した。逆にスポーツやウォーキング、撮影などのSITは上昇傾向にあるという。スポーツについては20代から40代で特に伸長。50代から60代ではアウトドアアクティビティが伸びたという。
こうしたことから、コロナ後には50代以降、物見遊山、(特に20代から40代の)女性、グループといった属性の需要が失われているとの分析だ。
潜在市場は1715万人、地方にチャンス
市場規模の推計では、海外旅行を経験したことのある顕在市場が日本全体で5540万人、未経験者が6702万人とし、この未経験層のうち1715万人は海外旅行に無関心ではない潜在市場であるとした。細分化すると、関東の1都3県、愛知県、関西の2府3県、福岡県の都市部の在住者は1715万人のうち731万人で、これに対して地方部は984万人との分析。特に北海道、四国、九州、沖縄は潜在市場の割合が高いという。
海外旅行に対して感じるハードルでは、顕在・潜在問わずコミュニケーションや文化・食事・衛生・治安などの不安が多く挙げられたが、潜在市場では「海外旅行に行くのにどうしたらいいかわからない」「金銭面で難しい」が目立つ結果となった。
また、潜在市場では「自己責任重視」「自分のすることを自分で決める」といった意識が顕在市場よりも低い傾向にあったほか、海外旅行が楽しそうと考える割合が顕在市場よりも低い一方で「価値がある」と捉える割合は高い結果となったことから、潜在需要に対しては自己責任や自己決定を回避しつつレジャーよりも自己研鑽や地域貢献などに焦点を当てた商品造成などが有効である可能性も指摘されている。このほか地方部では空港までの移動が不便との声も大きかったという。
さらに、ハワイや韓国、台湾など日本人旅行者が多いデスティネーションと東南アジアやオーストラリアなどそれに次ぐデスティネーション、日本人のシェアが低い中国やマレーシア、インドなどのデスティネーション、北米やメキシコ、欧州などの日本人シェアが低く距離も遠いデスティネーションに対して、それぞれ日本人が抱いているイメージの強弱も示し、それに合わせた戦略も必要になるとしている。