日観振 日本遺産を軸に地域の観光課題解決、沖縄・八代・鎌倉の観光モデル事業取り組み事例紹介
公益社団法人日本観光振興協会は10月27日、ツーリズムEXPOジャパン2023の「ツーリズム・プロフェッショナル・セミナー」で、2019年度から取り組んでいる「日本遺産体験周遊ツーリズム事業」の取り組み事例を紹介した。この事業は文化庁が2014年に制定した日本遺産の認知度向上と地域観光活性化のための活用を目的に、同協会が採択地域に選定した沖縄県那覇市・浦添市、熊本県八代市、神奈川県鎌倉市の関係者がそれぞれ内容を発表。2023年度からは新たに山梨県甲府市・甲斐市、兵庫県養父市・朝来市を採択地域とし、取り組みを継続していく。
地域の文化財の保全・活用の両立を目指す
地元関係者との横のつながりも
セミナーの冒頭では文化庁参事官の磯野哲也氏が登壇し、日本遺産は文化保全や地域活性化を目的に、地域の特定テーマに基づき点在する文化財を面としてまとめ、ストーリー化しているのが特徴の一つで、現在104のストーリーが認定されていると説明。「日本遺産を地域活性化やツーリズムに活用し、地域事業に役立てていただきたい」と挨拶した。
続いて日本観光振興協会審議役の小貫誠氏が2019年度から同協会が取り組んできた日本遺産ツーリズム事業の取り組みについて説明。日本遺産の「文化財の観光資源としての活用と伝承」「文化財の活用と保存の両立」「日本遺産のストーリーの観光コンテンツ化と認知度の拡大」の課題に基づき日本遺産を構成する文化財を組み込んだモデルコースを策定し、とくに周遊の際には公共交通機関を活用し、廃線の危機にある路線バスの活用など地域生活の保全を通して経済活性化を図ることも目的のひとつとしている。
3つの採択地域でのモデルコースやコンテンツ造成には現地の観光協会をはじめ、旅行会社、大学や公共交通機関、地域によっては料理研究家や伝統音楽関係者、伝統工芸の保存施設、地元メディアなどが参加しており、モニターツアーやWEBでのPRなど、販売へ向けたプロセスの整備も検討された。「様々な関係者を集めることでプロセスの見える化を図り、地域に対し提示していくことを重視し、官民の横のつながりの構築もできた。事業の最終目標は各地域がモデルコースをもとに観光事業を自走できること」と小貫氏は話す。
文化財観光を軸に
各地域が観光問題解消に向けた取り組みを図る
続いて事業に取り組んだ那覇市・浦添市、八代市、鎌倉市の関係者が登壇。それぞれの地域が発表した事業に対する取り組みには、文化財などを軸にしながらも、各地域が抱える観光課題がうかがえた。
例えば沖縄の場合はレンタカー不足の現状から公共交通機関への分散を図るべく、モノレールやバスの周遊パスやアプリの開発を行ったほか、リピート率80%という客層に対し、伝統文化をより掘り下げたコンテンツを作成。鎌倉市は主要観光地に観光客が集中するオーバーツーリズム緩和を目指し、鎌倉市内各地域へのモデルコースを、各交通機関とともに設定し周遊パスを作成した。さらに八代市のように「沖縄や鎌倉と比べるとこれといった観光素材はないが日本遺産のストーリーを観光コンテンツの主軸とし、交流人口の増加を目指したい」(JTB熊本支店観光開発プロデューサーの山口裕也氏)など、日本遺産で新たに観光産業を創出しようとする地域もあった。
事業への取り組みに対しては、3地域ともに「関係者への認知や文化財活用の意義などの理解をしてもらうことに苦労した」と話し、今後の課題としては交通パスのシステム整備、情報発信、関係諸機関などの連携のさらなる強化などが挙げられた。