成田に世界初の「MR TBO」試験飛行機、飛行ルート最適化で上空待機解消、CO2削減へ

雨の中到着した「エコ・デモンストレーター」。翌13日にシンガポールに向けて出発。バンコクを経てシアトルに戻る

 6月12日、成田空港に次世代航空交通システム「TBO(軌道ベース運用、Trajectory Based Operation)」の試験飛行機として、ボーイング社のB787-10型機「エコ・デモンストレーター」がシアトルから到着した。日本と米国、シンガポール、タイの4ヶ国共同で実施したもので、実際の旅客機を用いた試験飛行は世界で初めて。

到着した機体の前で関係者そろっての記念撮影

 TBOは航空会社や空港、管制機関などが情報をリアルタイムに共有・更新することで、航空機の相互間隔を保ちながら最適な経路と通過時刻を常に提供するもの。航路を最適化することで安全性や快適性の向上、空域混雑や上空待機の解消による定時性の向上、燃料使用量の削減やCO2の削減に取り組む。

 日本は2020年から米国、タイ、シンガポールの航空当局ともに「MR(Multi Regional) TBO」として地域をまたぐTBOの模擬実験などを実施し、多国間でのシステム連携と航空情報の共有などを実施してきた。

当日はボーイングとJCABの間でMRTBOについて引き続き協働する旨を記した共同宣言の署名式を開催。今後シンガポールやタイの航空局も署名する予定(左:チャン-チェン氏、右:高橋氏)

 同日開催した記者会見で、国土交通省航空局(JCAB)交通管制部長の高橋広治氏はTBOについて「カーナビでは刻々と状況に合わせて最適ルートが提唱されるが、それと同じことが飛行機でも今後できるようになる」と説明。現在は航空会社、空港、管制機関などがそれぞれシステムを構築しており統一化が進んでいないため即座に実施することは難しいが、今後は関係各国や機関・国などのシステム標準化や構築などを促進していく方針だ。

 高橋氏は「2040年を1つのターゲットとして、ある程度実用化がスタートしていると想定している。できるだけ時期を早める努力をしていきたい」と意気込みを示した。

パイロットはタブレット端末で飛行ルートを効率的にオペレーションできる

 さらに、高橋氏はTBOのメリットを説明。パイロットは飛行ルートを変更する場合は空域ごとの管制機関へとそれぞれ許可を申請する必要があるが、TBOが導入されればパイロットは事前に管制機関と相談でき、全関係者が同じデータを参照しながら最適な航空ルートを選択できるようになる。また、リアルタイムで天候情報などを知ることができ、積乱雲や火山噴火などの急な気象変化が起きても、該当区域の遠方から早々に適切な航空ルートへの変更が可能。前後の航空機の飛行ルートとの調整も現在よりも容易にできるようになるとした。

試験飛行では「日本近郊で火山が噴火した」と仮定し、噴煙などの影響(赤い部分)を避ける最適な飛行ルートを策定。ピンクが当初のルート、他の色が最適化されたルート

 また、ボーイングリサーチ&テクノロジー副社長兼ジェネラルマネージャーのパティ・チャン-チェン氏は、MRTBOの実現により運航効率が高まることで、燃料使用量とCO2排出量が10%削減することができる旨を説明し、「すべてのエアラインにとって、国際民間航空機間(ICAO)が掲げる2050年のカーボンニュートラルの目標に対し大きな前進となる」と話した。

 MRTBOの取り組みに対し、日本航空(JL)運航本部副本部長の松並孝次氏はTBOのメリットとして運航の最適化により上空での空中待機がなくなってくるため、到着時間が正確になる点を改めてあげ、「乗継便や他の交通機関に移動するお客様に正確な情報が提供できる。お客様の次の行動にもメリットが出る」と評価。CO2削減については「官民一体で脱炭素を進めていく。社会貢献としてできることであり、業界全体でやることに価値を感じている」と話した。

(左から)JLの松並氏、NHの金井田氏

 全日空(NH)オペレーションサポートセンター副センター長の金井田陽介氏も「お客様にとってCO2排出量の少ない飛行機に乗れるという安心感は価値のあること」と期待を示すとともに、「天候には境界がないが、空域には担当がある。そこが連携して空域に入る前に飛行ルートの調整を済ませることで効率的にフライトできるだけでなく、突発的な事態になっても安全を確保しながら飛行できることに期待している」と話した。