アフターコロナの空の旅、鍵を握る「顔パス」技術の未来とは
「無限大の可能性」、カードもスマホも不要に
ワクチンパスポートへの活用案も
行動制限緩和の議論が始まって少しずつ「ウィズコロナ」に視点が移り、これからは新しい旅行のあり方への注目も高まっていくと予想される。そうした中でNECはこのほど、オンラインイベント「NEC Visionary Week 2021」を開催し、航空業界のデジタル変革をテーマに実施したパネルディスカッションでNECが手掛ける生体認証技術の可能性をアピールした。
セッションでは、スターアライアンスCEOのジェフリー・ゴー氏、成田国際空港(NAA)取締役経営企画部門長の宮本秀晴氏、NEC取締役執行役員副社長の石黒憲彦氏が登場。モデレーターはNECアメリカのバイスプレジデントであるジェイソン・ヴァンサンス氏が務め、スターアライアンスと成田空港での生体認証技術の活用事例を紹介した。
世界の空港で「顔パス」続々
スターアライアンスでは、2020年11月にフランクフルトとミュンヘンの2空港で生体認証プラットフォーム「スターアライアンス・バイオメトリクス」を導入。これは、スターアライアンス加盟航空会社間でのシームレスな旅行の実現と、顧客価値向上によるロイヤルティ強化を目的としたもので、生体認証情報(現在は顔)を登録することで保安検査場や搭乗ゲートを「顔パス」で通過できるもの。非接触化にも繋がることからコロナ禍の衛生対策としても注目が高まっており、マスクを着用したままでも認証できるようにした。
また、成田空港でも今年7月に搭乗手続きで顔認証技術を用いる「Face Express」サービスを開始。チェックイン時に顔写真を登録することで、こちらも保安検査場や搭乗ゲートをスムーズに通過できるようになった。
「危機を無駄にしない」ための技術導入
スターアライアンスのゴー氏は現在の航空市場について、コロナ禍という「前代未聞の危機」も18ヶ月が過ぎ、ワクチンのおかげでようやく復活の兆しが見え始めていると説明。米国や中国などでは国内線需要がコロナ前の数字に戻ってきているほか、シンガポールがドイツとブルネイとトラベルバブルを開始するなど規制の緩和が始まり、レジャーを中心に需要が戻りつつある状況だ。
ただしゴー氏は、今後2、3年間は地域やセグメントによって回復にばらつきが出るとも指摘。そうした中でスターアライアンスとしては、「危機を無駄にしない」ためにデジタル化や自動化などの変革を進め、NECとは「スターアライアンス・バイオメトリクス」を導入した。
「スターアライアンス・バイオメトリクス」は、実際の旅行者の数は回復していないにも関わらず利用が増えるなど好評といい、今後2ヶ月程度の間に他の空港での導入も発表できる見通し。ゴー氏は「私達は危機から学び、イノベーションで顧客満足度を向上させることができている」と自信を語った。
一方、NAAもコロナ禍で旅客数が96%以上減少し、約500軒あった空港内店舗も60%が一時閉店、30%が営業縮小、残りは完全に閉鎖するなど「計り知れない影響」を受けているところ。しかしそうした中でもサービス改善の歩みは止めず今年7月に「Face Express」を開始。現在は全日空と日本航空のみだが、宮本氏によると今後は他の航空会社にも広げていく方針だ。
こうした取り組みを支えるのがNECの技術だが、同社の石黒氏は「最新技術を提供できること自体も大事だが、どう提供するかが鍵」との考え。技術面では米国国立標準技術研究所のテストで速度と精度の観点で1位に5回選ばれ、空港以外も含めてすでに70ヶ国超の1000を超えるシステムに採用されているが、NECとしては導入後の長期ビジョンも顧客と共有し、その先のエンドユーザーにとっての価値も含めて「共創」することを重視しているという。