地域とつながる旅館に向けて「旅館3.0」を加速―いせん代表取締役井口智裕氏
コロナを契機に新しい取り組みも積極展開
雪国観光圏では雪国文化を発信
井口 たとえば、チェックインはタブレットで行うようにして、動画で館内を説明する方法に変えました。オンラインでつながったタブレットですと、到着後にチェックインする必要がありませんので、事前チェックインも始めました。そうすることでお客様は到着前に館内のことを知ることができ、事前に夕食の時間や浴衣のサイズも決めることができます。一方、チェックイン時に館内を説明する必要がなくなったため、スタッフは客室にご案内するときなど、お客様とのインタラクティブなコミュニケーションをとるように心がけています。そういうトーク術のトレーニングも行っています。
また、コロナ前と後では観光の形が変わり、「旅館3.0」の革命が起きると思っています。そこで宿と地域がシームレスにつながることが重要になります。必要なのは現地のアクティビティをしっかり造成していくこと。スタッフには今年1年、そこにじっくりと時間をかけてもらっています。今は投資の時期という考えです。
これまでの地域づくりの課題は、観光協会が造成する旅行商品と旅館がつくる滞在プランに接点がなかったことだと考えています。それがなければ旅の体験はお客様には届かないでしょう。たとえば、旅館のスタッフが体験のエスコートガイドとして、お客様と現地を案内するローカルガイドとをつなぐ。その仕組みが非常に大事だと思っています。
新たにプロボノの受け入れも始めました。週末だけボランティアで越後湯沢に来る彼らのモチベーションは、地域と関わりながらスキルを活かしたいというものです。リモートで仕事ができるようになり、働き方も変わっています。
コロナの時代で重要になってくるのは、人との関係性づくりだと思っています。我々としては地域との接点としての宿をやっていきたい。人との関わり方を宿は根本的に変えるべきではないかと考えています。関係人口のあり方も変わってきます。宿がその窓口となり、DMCの役割を担うイメージです。そういった取り組みが「旅館3.0」では大事になってきます。
井口 観光業はコロナ前には絶対に戻らないと思っています。変えていかなければ生き残れない。コロナはたしかに苦しいですが、むしろ期待しているところが多いのも事実です。これまではさまざまなしがらみのなかで仕事をしてきましが、コロナはそれを取り払ってくれています。その意味では、新しいことにチャレンジしたい人にとっては、この環境変化はチャンスになるのではないでしょうか。
Ryugonは「旅館3.0」を目指してつくった宿です。当時その価値が体現できるのは5年後だと思っていましたが、コロナによってその取り組みは加速しており、2、3年以内にも実現できるのではないかと期待しています。
足元については、国内旅行の需要は今年の秋からまた高まると予想し、準備をしているところです。
井口 宿泊税を各地で徴収して、その財源の執行権をDMOに任せる仕組みを作らなければ、日本はいつまでも三流の観光国のままです。現在は住民の税金を旅行者に投資しています。本来は旅行者のお金を地域に還元しなければいけない。日本の観光の実力を高めていくためには、宿泊税を徴収してそれを投資に回す考え方を持っていただきたいと思っています。
井口 繰り返しになりますが、コロナ前の環境には絶対に戻らず、生き延びるためには変化するしかありません。しかし未知の領域ですから、変化の方法は誰も分かりません。小さな変化を重ねながら、正しい道を自分たちで切り開いていくしかないと思います。今は苦しいですが、絶対良い未来があると信じて、変化を続けてほしいと思います。