週間ランキング、1位はU/Lルール、ANAホールディングス役員人事も
[総評] 今週の1位は、航空局が国際線発着枠の利用ルールを一時的に緩和したことをお伝えした記事でした。通常ですとこうしたテクニカルな話題が一番読まれることは珍しいですが、こういう状況ともなるともはや驚きはありません。
同ルールは「U/L(Use it or Lose it)ルール」と呼ばれるもので、その名の通り発着枠を使わなければ失うというものです。具体的には与えられた発着枠の80%を利用しないと翌年に同じ時間帯で飛ぶことができなくなるもので、特に人気の高い混雑空港でその貴重な発着枠を無駄しないようにするために課されます。
航空会社は、このルールが適用されている限り、枠を「Lose」することのないように席の埋まっていない飛行機もなるべく飛ばそうとします。場合によっては、旅客を搭乗させない「ゴーストフライト」すら運航することになるわけです。
こうしたなかで、国際航空運送協会(IATA)は3月2日に全面的にルールを一時停止するよう要望を発表しました。航空の環境への負荷も取りざたされるなか、そして航空産業全体で1100億米ドル以上もの損失が生じるかもしれないといわれるなかで、ロビー団体としては当然の主張です。
ちなみに、これに対して空港管理者の団体である国際空港評議会(ACI)アジア太平洋地域事務局は、3月9日付でCOVID-19の影響が大きくない混雑空港への便も運航しない決定ができることから、「世界の国の繋がりを悪くし、ひいては経済に悪影響も及ぼしかねない」とする反対意見を表明していました。ルールが緩和されれば航空会社はより積極的に供給量の調整をすることになり、そうすれば空港は着陸料などの収入を失うわけで、なるべく避けたい思いがあったのでしょう。
しかし、それから1週間程度が経った現状は「影響の大きくない混雑空港」などないのではないかというレベルで、本当に驚くべきスピードで状況が変化していきます。欧米、そして日本やアジアでU/Lルールが緩和されることで、ますます航空機の往来がなくなることになり、まあ飛んでも旅客がいないのであれば本質的にはあまり変わらないものの、インもアウトもますます壊滅状態になっていきそうです。本当に、このようなヒステリックな反応をして誰が得をするのでしょうか。
ちなみに、豪州の航空系シンクタンク「CAPA-Centre for Aviation(CAPA)」は、リファンドなどで支払いがかさむ一方で新規の予約が入ってこないため、各国政府の支援がなければ大部分の航空会社が5月にも破産状態となるとする予測を発表しており、これが100%正しいかは別にしても、今回のU/Lルールに留まらず今後は様々な支援策が国内外で展開されていくものと思われます。
今週はこのほか、第2位にANAホールディングスにおける役員人事がランクインしました。このなかには、ピーチ・アビエーション(MM)のCEOを創業以来長く務めてこられた井上慎一氏が全日空(NH)の代表取締役専務執行役員に就任されるというニュースも入っており、井上氏にかねてからお話をお聞きしてきた身としては大変驚きました。
骨の髄までLCCというような雰囲気を醸し出され、MMの成功は氏の強いリーダーシップがあってこそと思っていましたが、FSCであるNHに戻られてからはどのようにお力を発揮されるのか気になります。2010年から1年ほどシンガポール航空(SQ)の日本支社長を務められたキャンベル・ウィルソン氏もSQの要職とスクート(TZ)CEOの間を行ったり来たりしていますが、日本でもそうした人事異動が一般化していくのでしょうか。
多角的な物の見方は、考える葦である人間にとって非常に重要な要素ですから、旅行会社でも今回のCOVID-19の逆風のなかで、これまでにない配置転換などを試したり部署間の交流を増やしたり、あるいは個人でもオンラインの講座を受講するなどして、視座を高め広げていけると良いのではないかと思います。(松本)