海外医療通信 2019年12月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】
※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです
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東京医科大学病院・渡航者医療センター
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海外医療通信 2019年12月号 東京医科大学病院 渡航者医療センター
海外感染症流行情報 2019年12月
(1)全世界:インフルエンザ流行状況
日本では12月中旬になり各地でインフルエンザが流行レベルに入っており、ウイルスの種類としてはH1N1型が多く検出されています(国立感染症研究所 2019-12-18)。米国でも全米30州で流行レベルに入り、2009年の新型インフルエンザ流行以来の早い流行になっています(米国CDC FluView 2019-12-20)。ヨーロッパでは12月中旬の時点で、まだ顕著な流行がみられていません(ヨーロッパCDC 2019-12-18)。
(2)アジア:マレーシアでポリオ患者が発生
マレーシアで27年ぶりにポリオ患者が発生しました。患者はサバ州・Tuaranに住む男児で、ワクチン株由来の1型ポリオウイルスの感染でした(ProMED 2019-12-8)。隣国のフィリピンでも今年9月から、ミンダナオ島などでワクチン株由来ウイルスの患者が発生しており、今後、東南アジア全体でポリオ患者数が増加する可能性もあります。
(3)アジア:トリインフルエンザの発生状況
WHOは今年の9月下旬以降の世界のトリインフルエンザ患者発生状況を発表しました(WHO Outbreak news 2019-11-25)。中国では2013年から発生していたH7N9ウイルスの患者が、今回も報告されませんでした。2017年に患者数が増加して以来、2018年以降はほぼ発生がなくなった模様です。一方、H9N2ウイルスの患者が中国で2人、インドで1人確認されました。いずれも小児で回復しています。
(4)大洋州:南太平洋の麻疹流行
南太平洋のサモアで麻疹の流行が拡大しています。12月初旬までに患者数は約4200人に上っており、62人が死亡しました(WHO Outbreak news 2019-12-15)。隣国のトンガやフィジーでも患者数の増加が報告されています。オーストラリア東部のブリスベン近郊でも麻疹患者が8人発生しており、南太平洋からの流行の波及が懸念されています(ProMED 2019-12-5)。なお、ソロモン諸島とマーシャル諸島では、全ての入国者に麻疹ワクチンの接種証明書の提示を求める措置を12月中旬から実施しています(厚生労働省検疫所HP 2019-12-24)。
(5)アフリカ:コンゴのエボラ熱流行
コンゴ民主共和国で流行中のエボラ熱に大きな変化はみられていません。最近の患者発生数は毎週10~20人で、新しい患者が引き続き発生している状況です(WHO Outbreak news 2019-12-19)。昨年8月の流行発生以来、累積患者数は3351人(疑い含む)で、このうち2217人が死亡しました。
(6)中南米:ブラジルでデング熱患者が年間200万人に
米州保健機関の報告によると今年の米州でのデング熱患者数は300万人に増加しています(Pan American Health Organization 2019-52 week)。このうちの7割にあたる200万人がブラジルでの発生でした。ブラジル国内では南部のミナス・ジェライス州やエスプリート・サント州で、昨年の10倍を越えるデング熱患者が確認されています(Outbreak news today 2019-12-12,18)。なお、今年のブラジルでは、蚊に媒介されるチクングニア熱の患者数も多く、リオデジャネイロでは約3万8000人と、昨年の3倍以上の数になっています(Outbreak news today 2019-12-20)。ブラジルに滞在する際には蚊に刺されない対策を十分にとってください。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2019年11月11日~12月8日)
最近約1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2018.html
(1)経口感染症:輸入例としては、細菌性赤痢10例、腸管出血性大腸感染症7例、腸チフス・パラチフス2例、アメーバ赤痢2例、A型肝炎6例、E型肝炎2例が報告されています。細菌性赤痢はエチオピアでの感染が5例と多くなっています。
(2)昆虫が媒介する感染症:デング熱は23例で、前月(34例)より減少しました。感染国はベトナム(5例)、インド(4例)が多くなっています。今年のデング熱累積患者数(輸入例)は442例で、今まで最多だった2016年の年間338例を大幅に越えました。チクングニア熱は1例で、ミャンマーでの感染でした。マラリアは4例で、感染国は3例がアフリカ(ナイジェリア、ギニア、南スーダン)、1例がタイでした。
(3)その他:麻疹が4例で感染国はタイとカンボジア、風疹は1例でフィリピンでの感染でした。
・今月の海外医療トピックス
訪日外国人は日本で蚊対策をしているか?
2014年夏、代々木公園等で蚊に刺された人から多数のデング熱患者が発生しました。この原因として日本人が海外で感染し持ち込んだのか、訪日外国人が自国で感染し持ち込んだのか、いずれかの可能性が考えられています。夏のオリンピック期間中は、デング熱の流行国から来る訪日外国人が増加するため、国内感染が再び発生する可能性もあります。当センターでは、2018年と2019年9月に浅草観光中のタイ人とフィリピン人を対象に、デング熱に関するアンケート調査を行いました。その結果、タイ人の93%、フィリピン人の94%が自国では蚊よけ対策をしているものの、日本滞在中に蚊よけ対策をしていたのは、タイ人で44%、フィリピン人で24%と大変少ないことが明らかになりました。彼らは日本にもデング熱を媒介する蚊が棲息していることを知らないようです。こうした情報を訪日外国人にも提供し、日本滞在中に蚊よけ対策を実施していただく必要があります。(医師 栗田直)
・渡航者医療センターからのお知らせ
第24回渡航医学実用セミナー(当センター主催)
今回の渡航医学実用セミナーは「節足動物による病害」と「海外からの医療搬送」をテーマに、下記の日程で開催します。
・日時:2019年2月27日(木)午後2時~4時半 ・会場:東京医科大学病院9階 臨床講堂
・対象:職種は問いません(どなたでも参加できます) ・参加費:無料 ・定員:約200名
・申込方法:当センターのメールアドレス(travel@tokyo-med.ac.jp)まで、お名前と所属をお送りください。ご返信はいたしませんのでよろしくお願いします。
・プログラム(詳細は当センターHPをご参照ください) https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html
「海外渡航者が注意すべき節足動物の病害とそのリスク」 東京慈恵会医科大学 熱帯医学教室 教授 嘉糠洋陸先生
「海外赴任者への医療支援体制の構築について」 日本エマージェンシーアシスタンス株式会社 営業部 小山翔子様
「海外からの医療搬送の実態」 東京医科大学病院 救命救急センター 講師 内田康太郎先生