DMM、旅行業は数追わず「コンテンツ作り」で勝負-責任者に聞く
今秋に旅行業に本格参入するDMM.comで、「DMM TRAVEL」の事業責任者を務める笠原鉄平氏はこのほど本誌の取材に応じ、事業の方向性について語った。同社は動画配信から英会話教室、FX、仮想通貨まで幅広く取り扱うECサイト「DMM.com」で約3000万人の会員を抱えるが、旅行事業では無闇に利用者数を追うのではなく、まずは海外に進出する日本企業向けの視察旅行などに注力。笠原氏は「訪問先で何ができるかを重視してコンテンツを提案する。将来的には『ビジネス系の旅行ならDMM』というポジションを獲得したい」とビジョンを示した。
「DMM TRAVEL」は、同社が2015年に開始した現地スタートアップ企業への投資などからなるアフリカ事業「DMM.Africa」に携わっていた笠原氏が、半年程前に発案。同事業のなかで「スタディツアーなど『学びとキャリア』に特化した旅行の需要に拡大の気配を感じた」ことが理由という。なお、ルーツはアフリカ事業にある「DMM TRAVEL」だが、アフリカ事業の範囲内で展開するわけではなく、「会社からは幅広く世界の国々を取り扱うよう求められている」と語る。
笠原氏は大学卒業後にインターネットプロバイダーでエンジニアとして働いたのち、06年から2年間、青年海外協力隊のコンピュータ技術指導者としてケニアに赴任。同国を「第2の故郷」と考えるほど気に入り、アフリカ経済の将来性も感じた結果、その後もアフリカに関わり続けるためにメディアの海外取材をコーディネートする都内の企業に就職し、8年間勤務した。
「DMM.Africa」の存在を知り、入社したのは1年半前のこと。DMM.comでも海外取材のコーディネートに取り組み、あわせて日本企業の海外進出支援などに携わるなど旅行業界との接触は多かった。家族が旅行会社に勤務していたこともあり、旅行業については「従事した経験はなかったが、馴染みのある世界だった」という。
一方でDMM.comでは、すでに英会話事業部が留学時の航空券手配など旅行関連のサービスを提供開始しており、今年2月には第2種旅行業登録を取得。また、海外への出張の多さからインハウスエージェントの立ち上げも検討されるなど、社内の各所では旅行事業の開始を求める声が挙がっていた。旅行業登録については、近日中に第1種への変更を予定する。
「DMM TRAVEL」の現在のスタッフは、笠原氏と英会話事業部で航空券手配などを担当していた旅行業務取扱管理者の2名のみ。笠原氏によれば「DMM.comでは常に社内での起業を求められる」ことや、視察旅行などで独自のカラーを追求する方針が明確だったことから、他社の買収などは検討の俎上に載せられることはなかった。
また、同社では「会社や事業部単位で『次はこっちの方向に動こう』といった考え方はしない」ため、各プロジェクトは必然的に小規模なチームでスタートダッシュを決めることが多い。子会社のバンクはこのほど旅行関連の新サービス「TRAVEL Now」の提供を開始したが(関連記事)、当初はお互いの旅行事業について認知していなかったという。
今秋の事業開始時においても、スタッフ数は1桁に留める予定。ただし「事業に見込みがあることが分かれば、一気に拡大するのが得意な会社」であることから、事業の拡大には意欲を見せる。開始から2年間で黒字化をめざし、3年目の目標として送客数1000人を掲げる。
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