豪州、次なるステップアップへ足場固め、パース線復活に期待

  • 2018年5月30日

東海岸以外の各州でも高まる日本市場開拓の意欲

主要デスティネーションは着実に成長

(右から)ニューサウスウェールズ州政府観光局CEOのサンドラ・チップチェイス氏と日本局長の新堀治彦氏

 新たな可能性が期待されるデスティネーションに対し、訪豪日本人旅行市場の主要デスティネーションでも安定的な成長が見込めそうだ。昨年、ニューサウスウェールズ州(NSW)を訪れた日本人旅行者数は16万5900人と前年比1.7%増だったが、NSWにおける支出は3億5200万豪ドルで前年比2.5%増となった。大幅な成長ではないものの着実な成長ペースとなっている。

 安定的な成長を支えているのは、「NSWへの初訪問者が55%で45%がリピーター」(ニューサウスウェールズ州政府観光局CEOのサンドラ・チップチェイス氏)というバランスの良さだ。初訪問者の誘致とリピーター誘致の両方に力を発揮しているのが、今年10年目を迎えた一大イベント「ビビッド・シドニー」だ。5月から6月にかけてシドニーの街全体を舞台に繰り広げられる光と音楽とアートのイベントで、世界中から230万人を超える観光客が集まる。日本人旅行者も昨年は約6000人がイベントを楽しみ、今年も7000人ほどが訪れると期待されている。

クイーンズランド州政府観光局日本局長のポール・サマーズ氏

 クイーンズランド州も昨年は日本人旅行者が4%増の20万5000人に伸長。内訳は、ゴールドコースト及びブリスベンのエリアとケアンズ・エリアでほぼ半分ずつ。18年は改めてスポーツ・イベントのプロモーションを強化しており、今年40周年記念大会を迎えるゴールドコーストマラソン(6月30日・7月1日開催)には「日本から約1000名の送客を見込んでいる」(クイーンズランド州政府観光局日本局長のポール・サマーズ氏)ほか、毎年6000人以上の参加者がブリスベンからゴールドコーストまでの100キロメートルを走る自転車イベントブリスベンtoゴールドコースト・サイクルチャレンジ(通称:B2GC)や、ケアンズのトライアスロン大会「アイアンマン・ケアンズ」も積極的に紹介していく方針だ。

 18年の見通しについては「昨年末の関空/シドニー線の就航でシドニー経由のゴールドコースト需要が伸びる傾向がみられ、今年は全体で1%から2%の増加になりそう」(サマーズ氏)だという。


観光インフラの拡充が進むゴールドコースト

0907: ゴールドコースト観光局マーケティングマネージャーの小林芳美氏

 クイーンズランド州の主要観光地であるゴールドコーストは、「昨年は日本人旅行者数が4%ほど伸びたが、今年以降もさらに増加が期待できる」(ゴールドコースト観光局マーケティングマネージャーの小林芳美氏)としている。というのも今年4月のコモンウェルスゲーム開催を機に、観光客増を支えるインフラ拡充が一段と進みつつあるからだ。

 例えばザ・スター・ゴールドコースト(旧ジュピターズ・ホテル&カジノ)では、既存ホテルに加え新たなオールスイートタイプの高級ホテル「ザ・ダーリン」(57室)を4月に開業。またアパートメントタイプの宿泊施設として「ルビー」や「ジュウェル・ブロードビーチ」が今年11月から12月にかけてオープン予定だ。

 このほか、サーファーズパラダイスでは89階建ての高層ビル「スピリット・タワー」の建設が進んでいるほか、103階の高層ビル「オリオン・タワー」の建設計画も進行中で、新たな観光アイコンのひとつとなることも期待できる。さらに観光客の足としても便利なトラム「Gリンク」が3駅分延伸され、ブロードビーチから、ナイトマーケットが開かれるヘレンズベールまで行けるようになった。

 さらにゴールドコーストの5つの観光エリアと、5つの香り(ハーブ)を結びつけた新プロモーション「Kaori Tabi」を実施。「香りで旅するゴールドコーストという発想を通じてブランディング強化をはかる」(小林氏)としている。

ケアンズ観光局セールス&マーケティングマネージャー・アジアの坂本統氏

 ゴールドコーストと並ぶクイーンズランド州の主要観光地であるケアンズとその周辺地域も日本市場における誘客を強化中。ケアンズ観光局は今年、久々に日本の「マリンダイビングフェア」に出展したほか関空旅博にも出展。また「ケアンズを訪れる日本人旅行者の71%が旅行会社からの送客」であることから、「業界向けの取り組みもこれまで以上に増やしており、研修旅行に力を入れている」(ケアンズ観光局セールス&マーケティングマネージャー・アジアの坂本統氏)という。

 この1年間で実施したトレードとメディアの研修旅行には1000人以上が参加した。その結果、「ケアンズが1年を通じて泳げるデスティネーションであるとの認識がなかった研修参加者もおり、まだまだケアンズの認知度を高める余地があると感じた」(坂本氏)とのことで、今後も積極的に研修旅行を実施していく計画だ。


2年連続大幅増のビクトリア州、ノーザンテリトリーはウルル登山禁止の影響平準化へ

(左から)ビクトリア州政府観光局日本・韓国局長の高森健司氏と日本・韓国マーケティングコーディネーターの渡邉香氏

 昨年、日本人旅行者が最も伸びたのがビクトリア州だ。同州を訪れた日本人旅行者数は16年に前年比26.9%増の5万9200人となり過去最高を記録したが、17年はさらに33%増の7万8800人まで伸びた。ビクトリア州政府観光局日本・韓国局長の高森健司氏によると、16年12月のカンタス航空(QF)のメルボルン線、17年9月の日本航空(JL)のメルボルン線と直行便開設が相次ぎ、それに伴う航空会社やTAのプロモーションも効果的で2年連続の大幅増につながったという。また現地ではホテル新設も進んでおり、4月にはノボテル・メルボルン・サウスワーフが開業しているほか、ザ・リッツ・カールトンも来年の開業を予定。20年にはスターウッドのWホテルやシャングリ・ラホテルの開業も控えている。

 直行便の供給座席数が増えることで教育旅行やインセンティブを含めたグループ旅行にも対応可能な環境が整ってきていることから、高森氏は「18年は日本人旅行者の2ケタ増をめざしており、なるべく早い段階で10万人の大台に乗せられるように持っていきたい」としている。

ノーザンテリトリー政府観光局日本事務所ディレクター・トラベルトレードマーケティングの中村慈氏

 ノーザンテリトリーは年間2万人の日本人旅行者が訪れ、そのうち9割がウルル(エアーズロック)を観光する。しかし19年10月からウルルの登山が禁止されることから、今年は駆け込み需要が高まると見られ、「19年10月以降にその反動が出ないよう、今のうちから登山以外のウルルの楽しみ方を周知していきたい」(ノーザンテリトリー政府観光局日本事務所ディレクター・トラベルトレードマーケティングの中村慈氏)としており、周辺のトレッキングルートの紹介などに努めていく方針だ。

 またウルル以外のノーザンテリトリーの魅力の発信も強化中で、「日本の旅行会社によるダーウィンやカカドゥなどトップエンドの商品化は徐々に成果が上がってきている。8月にはQFのダーウィン直行チャーターも予定されており、トップエンドへの注目を高めるきっかけにしたい」(中村氏)と期待する。


取材協力:オーストラリア政府観光局
取材:特派 高岸洋行