海外医療通信2017年3月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】
※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです
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東京医科大学病院・渡航者医療センター
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・海外医療通信 2017年3月号
海外感染症流行情報 2017年3月
1)中国の鳥インフルエンザH7N9型が高病原性に変異
中国で昨年10月から発生している鳥インフルエンザH7N9型の患者数は、3月中旬までに500人以上に達しました(英国Fit for Travel 2017-3-24:。中国でのH7N9型の流行は2013年から毎年冬に発生しており、累積患者数は1300人にのぼりますが、今季の患者数は過去最多の数になっています。患者発生の多い地域は沿岸部の安徽省、広東省、江蘇省などですが、今季は内陸部の重慶でも患者が確認されました(WHO 2017-3-16)。
WHOは今季発生した患者から分離したウイルスを解析し、ウイルスの病原性に変異がおきていることを確認しました(WHO 2017-2-27)。もともとH7N9型ウイルスは家禽に低病原性でしたが、これが高病原性に変異しているようです。この影響で、中国各地ではH7N9型ウイルスによる家禽の大量死が報告されています。今季、ヒトの患者が増加した原因も、ウイルスが高病原性に変異してたことが関係している可能性があります。中国に滞在中は、生きた家禽の販売されている市場だけでなく、家禽の死骸などにも近寄らないようにしましょう。
2)東南アジア旅行者のジカ熱対策
WHOはジカウイルス感染症の流行地域を新たに4つのカテゴリーに分類し、各地域での旅行者の対策を提示しました(WHO 2017-3-10)。カテゴリー1と2は現在流行がおきている国で、東南アジアではシンガポール、インドネシア、タイ、ラオス、カンボジア、マレーシア、フィリピン、ベトナムが含まれます。WHOは、これらの国に滞在する旅行者に対して、滞在中と帰国後6カ月は安全なセックスをするように勧告しています。
3)アジア各地のデング熱流行
マレーシアでは今年のデング熱患者数が16000人と例年よりも少ない数になっています(WHO西太平洋 2017-3-14)。シンガポールでも昨年は上半期に患者数が増えましたが、今年の患者数は少ないようです。一方、スリランカでは今年になり患者数が17000人にのぼり、ここ数年では最も多い数になっています(ProMED 2017-3-5)。とくに首都コロンボでの患者発生が多い模様です。
4)ヨーロッパでの麻疹流行
昨年秋から東欧のルーマニアで麻疹の患者数が増加しており、その数は3月までに3700人に達しました(ヨーロッパCDC 2017-3-24)。また、西欧のイタリアでも今年になり700人、ドイツでも200人以上と、例年の倍以上の麻疹患者が発生しています(ヨーロッパCDC 2017-3-17)。日本では麻疹患者数が3月上旬までに約40人であることを考えると、ヨーロッパで患者数の多いことがわかります。日本では20歳代後半から30歳代の年代で、麻疹の抵抗力の弱いことが明らかになっており、この年齢層が流行国に滞在する際には、麻疹ワクチンの接種を受けておくことを推奨します。
5)南アフリカのマラリアと住血吸虫症
南アフリカは日本企業の駐在員が多いだけでなく、最近は日本からの観光旅行者も増えています。同国でマラリアの流行地域はモザンビーク国境付近に限定されていますが、今年3月にボツワナ国境付近のLimpopoでマラリアに感染した患者2人が死亡しました(ProMED 2017-3-10)。この地域は同国の首都プレトリアの北方に位置しており、雨の多い時期に滞在する際は、夜間、蚊に刺されないように注意が必要です。
また、南アフリカ東部のスワジランド国境付近で、今年1月にベルギー人旅行者が住血吸虫症にかかりました(英国NaTHNaC 2017-3-14)。この病気は川や湖に棲息する病原体が皮膚から侵入し、肝臓や膀胱などの障害をおこします。流行地域では川や湖に立ち入らないようにしましょう。
6)南米での黄熱流行
ブラジル南部で昨年末から発生している黄熱の流行は3月も続いています。3月初旬までに患者数は1500人(疑いを含む)にのぼっており、このうち241人が死亡しました(米州保健機関 2017-3-16)。患者発生の多かったミナス・ジェライス州では患者数の減少傾向がみられていますが、大西洋岸のエスプリト・サントス州では増加しています。また、リオデジャネイロ州でも患者が発生している模様です。都市部での患者発生はみられていませんが、ブラジルに滞在する際には黄熱ワクチンの接種を受けておくことを強く推奨します。
なお、今年は南米でヨーロッパからの旅行者の黄熱患者が複数発生しており、スリナムではオランダ人女性(20歳代)の患者、ボリビアではデンマーク人男性(20歳代)の患者が確認されました。いずれも黄熱ワクチンは接種していなかった模様です(ヨーロッパCDC 2017-3-14)。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2017年2月13日~2017年3月5日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2017.html
1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢2例、腸管出血性大腸菌感染症5例、腸・パラチフス1例、アメーバ赤痢3例、A型肝炎5例が報告されています。細菌性赤痢は前月の16例から大幅に減少しました。
2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が3例で、2例がフィリピンでの感染です。前月(18例)より大幅に減少しているとともに、累積患者数も昨年同時期までに44例でしたが、今年は29例となっています。マラリアは1例で、ガーナでの感染でした。チクングニア熱、ジカウイルス感染症は報告されていません。
3)その他の感染症:麻疹の輸入例が4例報告されており、感染国はアジア3例(ネパール、ベトナム、タイかマレーシア)でした。風疹は1例で、感染国はインドでした。
・今月の海外医療トピックス
4月25日は世界マラリア・デー
2000年4月25日にナイジェリアで、マラリア撲滅会議が開催されたことを記念し、同会議でこの日を「アフリカ・マラリア・デー」として制定され、2008年からWHOが世界マラリア・デーとして実施しています。今年のテーマは”End Malaria for Good” です。私の貧弱な英語能力で訳すと「完全にマラリアを撲滅しよう」といった感じでしょうか。
WHOの2016年のレポートでは、全世界でマラリアにより1年間で2億1200万の患者と42万9000人が死亡しています。ここ数十年でマラリアコントロールは前例のない成果をあげ、2010年から2015年の間でマラリアによる死亡率は21%低下しています。最近は、アフリカやアジアなどの最貧国の市場も注目されるようになってきました。そのような地域では、マラリアは現実的な問題であり、対策が求められることは変わりありません。兼任講師 古賀才博
参考 http://www.who.int/campaigns/malaria-day/2017/en/
・渡航者医療センターからのお知らせ
1)渡航者医療センターが「海外健康生活Q&A」を出版
渡航者医療センターでは、経団連出版より「海外健康生活Q&A」を出版しました。当センターに蓄積された海外渡航者の健康情報が満載されています。また濱田教授が世界各地を旅する中で経験した健康面のエピソードを「病気の世界地図」というコラムで紹介しています。海外赴任者や海外留学生が楽しみながら現地での健康管理について情報入手できる本です。詳細は下記をご覧ください。
https://www.keidanren-jigyoservice.or.jp/public/book/index.php?mode=show&seq=464&fl=2
2)動画「蚊が媒介する感染症の予防」を公開
当センターでは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構が行う研究の一環として、標記の動画を作成しました。下記のホームページで公開しています。デング熱やジカ熱などの予防にご活用ください。
http://www.tra-dis.org/index.html
3)日本国民のジカウイルス感染症の知識に関する調査
当センターでは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構が行う研究」の一環として、標記の調査を2016年7月に実施しました。結果は下記のホームページで公開しておりますのでご参照ください。
http://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/sa/zika/2365-idsc/iasr-in/7145-445d04.html