インタビュー:外務省領事局海外邦人安全課長の石瀬素行氏

邦人の安全確保に「旅行会社も巻き込む」
「たびレジ」などで官民連携推進

これから旅行会社に求めることは

石瀬 今日ではインターネットが発達して、個人でも航空券などを購入できるようになった。旅行会社の存在意義については彼ら自身が真剣に考えていることと思うが、専門性を発揮できる領域があるとすれば、それはやはりリスク対策なのではないだろうか。そのことは、海外安全官民協力会議に参加しているJATA事務局長の越智良典氏も強調している。

 例えば、我々は海外安全ホームページや領事メール、大使館や領事館のウェブサイトなどで大量の情報を提供しているが、それらを旅行者がすべて把握することは難しい場合もあるだろう。是非とも旅行のプロが読み込んで、各旅行者のニーズにあわせて伝えてほしい。忘れられがちなことではあるが、外務省が提供している情報は無料で、しかも日本語で書かれているのだから、大いに活用していただきたいと思う。

 大きな事件や災害が発生する前に情報を掴み、注意喚起のための広域情報やスポット情報を発出しているケースも多いので、それらの最新情報をよく読み込んで、ツアーの催行可否の判断やコース変更などに役立てていただければ、旅行会社ならではの付加価値が生まれると思う。


14年に開始した「たびレジ」については、旅行会社とのシステム連携も進んでいます。今後の登録者数の目標は

石瀬 現在の累計登録者数は166万人で、18年夏までには240万人に増やしたいと考えている。登録者には最新の海外安全情報メールや、在外公館が発出する緊急一斉通報などを提供しているので、旅行会社にはぜひ活用を促していただきたい。洪水など範囲の広い災害が起こり、直ちに被害の全体像を把握することが困難な場合などにおいて、より迅速に安否を確認できるメリットもある。登録の際に家庭や職場など、より多くの連絡先を記入していただければ、外務省としては緊急時に連絡を取りやすい。

 旅行会社には、旅行者に「たびレジ」への加入だけでなく、旅行保険への加入も薦めていただきたいと思う。旅行先から国外に緊急搬送されるようなことがあれば、費用が1000万円を下ることはない。


海外旅行者の安全確保に向けた今後の展望は

石瀬 海外邦人安全課は約30人の職員を抱えるが、わずかな人員で年間1700万人の旅行者と130万人を超える長期滞在者のすべてに情報を浸透させることは難しい。安全を確保するためには、旅行者が所属する学校や企業などの団体、さらには家庭などにも我々の問題意識を共有していただき、個人の意識を高めていきたい。

 例えば、危険な地域でビジネスを展開する企業であれば、社員の夜間の独り歩きを禁止するなど、自発的なリスク対策で社員の安全を確保する体制を作っていただきたい。リスク対策にはどうしてもコストがかかるので、トップがリーダーシップを取って進める必要がある。


ツアーに参加する旅行者にとっては、旅行会社が一時的な所属団体になります

石瀬 そう思う。外務省としては、邦人に情報を提供できる立場にある方々は、すべて巻き込んでいきたいと考えている。旅行会社には是非とも知恵を絞っていただきたいし、我々も連携をさらに強化したいと考えている。


ありがとうございました