海外医療通信2016年8月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】
※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです
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東京医科大学病院・渡航者医療センター
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・海外感染症流行情報2016年8月
1)米国フロリダ州でジカウイルスの国内感染例が発生
WHOは7月末に米国フロリダ州でジカウイルの国内感染例が発生したことを発表しました(WHO 2016-7-28)。フロリダ州保健当局の発表によれば、8月24日までに43人の患者が確認されていおり、このうち39人がフロリダ市のあるMiami-Dade郡での発生でした。ただし、同州北西部のPinellas 郡でも1例の患者が確認されており、州内に広く流行している可能性もあります(Florida Health 2016-8-24)。なお、患者の一人は台湾からの旅行者でした。
8月21日に日本の外務省は、妊娠中の女性がマイアミ市などへの渡航を控えるように勧告を出しています(外務省海外安全センター情報 2016-8-21)。今後、米国での流行は他の南部州にも拡大する可能性があり、滞在中は蚊に刺されないよう注意が必要です。なお、国立感染症研究所ではジカウイルス感染症のリスクアセスメント第8版を8月10日に発表しました。
http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/2358-disease-based/sa/zika-fever/6681-zikara-8-160810.html
2)東南アジアのデング熱流行
シンガポールでは今年になり約1万人のデング熱患者が確認されており、これは昨年の2倍の数になっています(WHO西太平洋2016-8-9)。また、マレーシアも6万人以上、ベトナムも5万人以上と、いずれも昨年より増えています。東南アジアでは今後も患者数が増加することが予想されており、滞在する際には十分な予防対策に心がけましょう
3)アフリカ南部の黄熱流行
アフリカ南部のアンゴラでは、昨年末から黄熱の流行が発生していましたが、7月以降、新たな患者は確認されておらず、流行は鎮静化しています(WHO 2016-8-19)。一方、隣接するコンゴ民主共和国では患者数が増加しており、累積患者数が2357人になりました(WHO 2016-8-19)。ここ1カ月で約600人増加しています。なお、両国ともに黄熱ワクチンの接種を受けていないと、入国ができません。また、近隣のケニア、ウガンダ、ルワンダなどに滞在する際にも、黄熱ワクチンの接種を受けておくことを推奨します。
4)西ヨーロッパでの麻疹流行
西ヨーロッパ各地から麻疹の流行が報告されています。英国では6月に行われた音楽イベントを契機にして麻疹の流行が発生し、今年は234人の患者が確認されました(英国Fit For Travel 2016-8-9)。ドイツでは中東からの難民を中心に患者が発生し、5月~7月で53人の患者が確認されています(ヨーロッパCDC 2016-8-11)。
麻疹は空気感染する病気で、西ヨーロッパだけでなくアジアなど途上国で広く流行しています。日本では20歳代後半から40歳代前半の年代で、麻疹の抵抗力の弱いことが明らかになっていますが、この年齢層が海外に滞在する際には、麻疹ワクチンの追加接種を受けておくことを推奨します。
5)米国ハワイでA型肝炎が流行
米国のハワイで8月になりA型肝炎の患者が多発しており、8月中旬までに患者数は206人にのぼっています(US Food and Drug Admi. 2016-8-22)。原因は現地の寿司チェーン店で提供されたホタテ貝と推測されています。A型肝炎は潜伏期間が約1カ月と長いため、今年の夏(7月~8月初旬)にハワイを訪問し、寿司を食べた旅行者は体調の変化にご注意ください。また、海外滞在中は出来るだけ、生ものを食べるのは避けるようにしましょう。
6)メキシコ旅行者にサイクロスポーラ症が多発
英国では今年の6月からサイクロスポーラ症の患者が265人確認されています。このうち193人がメキシコのカンクーンにあるRiviera Maya Costへの旅行者でした(英国Fit For Travel 2016-8-13)。現地のホテルから提供された飲食物が原因と考えられています。サイクロスポーラ症は原虫による病気で、下痢や腹痛などの症状をおこします。飲食物から感染するため、リゾート地のホテルやレストランであっても、よく加熱した料理を食べるようにしましょう。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2016年7 月11日~2016年8月7日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2016.html
1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢9例、腸管出血性大腸菌2例、腸・パラチフス1例、アメーバ赤痢8例、A型肝炎4例、ジアルジア1例が報告されています。細菌性赤痢のうち3例はミャンマーでの感染でした。
2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が25例で、前月(18例)より増加しました。感染国はフィリピンが8例と多くなっています。なお、今年のデング熱累積患者数は196例で、昨年の同時期(144例)を大きく上回る数になりました。チクングニア熱が2例報告されおり、いずれも感染国はインドでした。マラリアは5例で、4例がアフリカでの感染でした。
3)その他の感染症:麻疹のインドネシアでの感染例が1例ありました。タンザニアでブルセラ症に感染した事例が報告されています。ブルセラ菌によっておこる熱性疾患で、感染動物との接触や感染動物のミルクを摂取することで感染します。
・今月の海外医療トピックス
1)9月28日は“世界狂犬病の日”
毎年9月28日は”World Rabies Day”です。今年のテーマは、” Rabies: Educate. Vaccinate. Eliminate.”。
狂犬病は南極大陸をのぞく世界150カ国以上の国々で発生しているウイルス感染症で、毎年約5万人が死亡しており、その95%以上はアジアとアフリカで起きています。世界中で毎年1億5000万人が曝露後の発症予防のワクチン接種を受けていると推定されています。狂犬病の可能性のある動物の咬傷を受けた際には、創部の洗浄と消毒、咬傷後のワクチンやガンマグロブリンの接種が必要です。しかし日本国内には狂犬病のガンマグロブリンが流通しておらず、世界的に品不足なことも問題となっています。
今年の日本渡航医学会の学術大会(7月倉敷)では、大分大学の西園教授の講演で、狂犬病のガンマグロブリン接種に代わる方法として、富山化学がインフルエンザ薬として開発したRNAポリメラーゼ阻害薬のファビピラビル(アビガン)を用いる試みが紹介されていました。発症すると致死率ほぼ100%の狂犬病に対し、国内にガンマグロブリンの無い日本で、新たな対策が可能となる日が望まれます。(兼任講師 古賀才博)
2)ジカウイルスが性行為で感染することを知っている国民は約3割
当センターでは8月上旬に一般国民(1000人)を対象にジカウイルス感染症に関する意識調査を実施しました。その結果、8割以上の国民はウイルスが蚊に媒介されることを知っていましたが、性行為で感染することを知っていたのは約3割でした。流行地域への渡航者を中心に、この病気が性行為感染することを、より強く情報提供していく必要があります。この調査結果は、第57回日本熱帯医学会大会で発表する予定です。(教授 濱田篤郎)
・渡航者医療センターからのお知らせ
1)第16回渡航医学実用セミナー(当センター主催)
次回の実用セミナーを下記日程で開催いたします。テーマは「海外で病気になった時の医療対応」です。当センターが東京国際空港で行った海外渡航者の健康意識調査の結果をもとに、海外で病気になった時の医療対応の方法について紹介します。
・日時:2016年10月6日(木曜) 午後2時~午後4時半 ・場所:東京医科大学病院6階 臨床講堂
・参加費:無料 ・定員:約100名
・申込方法:当センターのメールアドレス(travel@tokyo-med.ac.jp)まで、お名前と所属をお送りください。ご返信はいたしませんのでよろしくお願いします。
・プログラム:詳細は当センターHPをご参照ください。 http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/seminar.html
2)第30回トラベラーズワクチンフォーラム研修会(バイオメデイカルサイエンス研究会主催)
標記研修会が下記の日程で開催されます。今回は「トラベラーズワクチンの接種間隔と追加接種」に関する講演などがあります。
・日時:2016年9月24日(土)午後1時半~5時半
・会場:国立国際医療研究センター 研究所B棟地下会議室(新宿区)
・詳細はホームページをご参照ください。http://www.npo-bmsa.org/30th_travelvaccine.htm
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