キーパーソン:島根県邑南町観光振興係長の寺本氏

地域活性の最前線、独自性武器にインバウンドも


-どのようなお客様が多いのでしょうか。また、70万人を92万人に増やせた要因は

「A級グルメ」の食材を販売するネットショップも運営しブランディングを進める

寺本  土地柄、広島からのお客様が多い。九州からも来られている。成功した理由の一つは農家民泊だ。町内に宿泊施設が18軒あるが、農家民泊は50軒で受け入れている。また、道の駅も合併した直後に作ったものだが、現在では年間45万人ほど来ていただいている。

 これらは、「A級グルメ」の食と農の取り組みが奏功していると考えていいだろう。10年前には約20万人であったスキー場の利用客数が13万人程度に減少していたりゴルフ場が閉鎖になったりと環境が変化しているが、食は時代の流れの中でも安定している産業ではないか、というのが町の考え方だ。

 農業には後継者問題や耕作放棄地の問題もあるわけで、農と食を近づけることによって農家の生産意欲を高めていく目的もある。「食の学校」と「農の学校」も町として持っており、ここのプログラムで短期滞在される方もいらっしゃる。


-他の自治体などからも注目されているそうですね

寺本  視察の受け入れは町議会議員だけで年間1000人を超えており、当然随行される方も多い。また、広島発着なのに1泊2日で16万円という視察ツアーも年2回それぞれ20名ずつ受け入れているが、経営者の方々を中心に定員を超える参加希望をいただいている。

 予算が限られている中でも一歩抜け出すために、何かを削ってでも独自の施策を取り入れようとしてきたが、それが評価をいただいているのではないか。例えば観光プロモーションでも、石見神楽は当然外せないわけだが、実際には神楽は島根のどこにでもあり、横並びになってしまう。他人がやっていないことをやらなければならない。

 邑南町についていえば、町長が民間出身者であったということと、合併時に30代前半だった私のようなスタッフたちの意見を取り入れてくれたことが良かったのではないかと思う。


-インバウンドの活動に着手されるとお聞きしました

寺本  現在は年間10人程度に満たない外国人宿泊者数を、2021年までに100人に増やす目標を掲げている。そして、ここでも食と農にこだわっていく。チャンスとして考えているのは、邑南町ならではの田舎ツーリズムの魅力を感じてくださる方々に長期滞在をアピールしていく方向性だ。

 まずターゲットと考えているのはどちらかというと欧州で、特にイタリア市場。イタリアンレストランを運営していることから在日イタリア商工会議所とも関係があるためで、例えば日本でレストランをされているイタリア人シェフの方に来ていただいて、町独自の野菜や郷土料理を学んでいただき、代わりに邑南町に集まってくる若者がイタリア料理を学ぶ、といった機会を作りたい。この枠組みは、農水省の「食と農の景勝地」にも申請済みだ。

 プロモーションは、国内旅行でも同様だが基本的に口コミを重視する。来ていただいた方のご評価が大事で、それがメディアに取り上げられて、というサイクルをねらっていく。