海外医療通信2016年6月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】
※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです
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東京医科大学病院・渡航者医療センター
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・海外感染症流行情報(2016年6月)
(1)東南アジアのデング熱流行状況
今年は東南アジア全体で気温が高くなっており、デング熱の患者数が増加しています。シンガポールでは今年になり8500人の患者が発生し、このうち5人が死亡しました(ProMED 2016-6-15)。ベトナムでの患者数は2万5000人(4月末まで)、タイでは1万8000人(6月初旬まで)で、いずれも昨年より増加しています(ProMED 2016-6-15, 22)。フィリピンでは今年から小児を中心にデング熱ワクチン(Dengvaxia)の接種が開始されていますが、既に4万9000人の患者が発生しました(ProMED 2016-6-22)。なお、このワクチンはシンガポールでも承認申請が出されており、現在審査中です。
(2)モンゴルでの麻疹流行
モンゴルでの麻疹流行を前号で報じましたが、米国CDCも同国への滞在者に注意喚起を発しています(CDC Traveler’s Health 2016-6-15)。患者が多いのは首都ウランバートル周辺で、約2万人の患者が発生している模様です。
麻疹は空気感染する病気で、日本では20歳代後半から40歳代前半の年代で、抵抗力の弱いことが明らかになっています。この年齢層が流行地域に滞在する際には、麻疹ワクチンの追加接種を受けておくことを推奨します。
(3)サウジアラビアで中東呼吸器症候群(MERS)の流行が再燃
中東では2012年よりMERSの流行が発生しており、この流行が昨年は韓国にも波及しました。サウジアアラビアでは今年も患者が散発していましたが、6月上旬に首都リヤドの大学病院で集団感染が発生しました(WHO 2016-6-21)。外務省によれば医療従事者など17人が発病した模様です(外務省海外安全センター 2016-6-23)。
MERSは重症の肺炎をおこす病気で、病院内でヒトからヒトに感染が拡大します。また、中東ではラクダが感染源になっているため、滞在中はラクダに接触しないように注意することが大切です。
(4)アフリカ南部での黄熱流行
アフリカ南部のアンゴラで発生している黄熱の流行は6月も続いており、隣接するコンゴ民主共和国にも流行が波及しています。アンゴラでの累積患者数(疑いを含む)は6月中旬までに3294人で、この1か月間で800人以上の新規患者が発生しました(WHO 2016-6-23)。またコンゴ民主共和国でも1106人の累積患者数になっています(WHO 2016-6-23)。両国とも都市部で流行が発生しており、旅行者が感染するリスクも高くなっています。今後、隣接するザンビアやナミビアへの流行拡大も想定されるため、十分な警戒が必要です。
なお、黄熱ワクチンの接種証明書の有効期限は10年でしたが、WHOは今年の7月11日から生涯有効とします。これは今までに発行された証明書についても同様で、新たな手続きは必要ありません。ただし、このWHOの勧告の実施は各国の判断に任されており、下記のHPなどで各国の対応状況を確認してください。
国別対応状況リスト
http://www.who.int/ith/2016-ith-county-list.pdf?ua=1
(5)ジカウイルス感染症の流行状況
中南米で流行しているジカウイルス感染症の累積患者数は、6月初旬までに36万人(疑いを含む)にのぼっています(Pan American Health Oraganization 2016-6 )。しかし、患者数は2月をピークに減少傾向にあります。ブラジルでも累積患者数は14万人ですが、3月をピークに4月以降は減少がみられています。なお、ブラジルでの小頭症患児の数は6月初旬までに約1500人になりました。ブラジルなどで患者数が減少している要因としては、国やWHOによる対策の効果だけでなく、多くの地域が乾期に入り、媒介する蚊の発生が減っているためと考えます。WHOも6月16日に声明を発表し、リオデジャネイロでのオリンピック開催にともない、ジカウイルス感染症が拡大する可能性は低いとの見解を示しました(WHO 2016-6-16)。
なお、日本の国立感染症研究所は6月16日にジカウイルス感染症のリスクアセスメント第7版を
発表しています。この中で、流行地域から帰国後に安全な性行為に努める期間が、4週間から8週間に延長されました。
http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/2358-disease-based/sa/zika-fever/6531-zikara-7-160616.html
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2016年5 月9日~2016年6月12日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。
出典:http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2016.html
1)経口感染症:輸入例としてはコレラ2例、細菌性赤痢5例、腸管出血性大腸菌1例、腸・パラチフス6例、アメーバ赤痢3例、A型肝炎3例、ジアルジア1例が報告されています。赤痢はインド(4例)、腸・パラチフスはバングラディシュ(2例)、ミャンマー(2例)、インド(1例)と南アジアでの感染例が多くなっています。
2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が26例で、前月(26例)と同数でした。感染国はインドネシアが15例と前月同様に最も多くなっています。なお、今年のデング熱累積患者数は145例で、昨年の同時期(107例)を大きく上回る数になっています。マラリアは5例で、全例がアフリカでの感染でした。ジカウイルス感染症は2例報告されており、感染国は中南米(ブラジル以外)でした。
3)その他の感染症:麻疹の海外感染例が4例と増加しています。感染国はインドネシアが3例(1例は複数国滞在)と多くなっています。
・今月の海外医療トピックス
1)水痘ワクチンの帯状疱疹予防
帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスによって起こる疾患です。初感染では水痘を引き起こし、治癒後も神経節に潜伏し、加齢等により免疫が低下し発症することが知られています。日本では、80歳までに3人に1人が発症し、50歳以上が7割を占めるといわれています。
米国では帯状疱疹ワクチンとしてZOSTAVAX®が2006年より承認されていますが、このワクチンには日本で開発された岡株が用いられており、世界60カ国以上で使用されています。日本国内で以前より使用されている水痘ワクチンもZOSTAVAX®と同様の効果があることが認められ、2016年に50歳以上を対象に帯状疱疹の予防として効能・効果が追加されました。兼任講師 古賀才博
2)日本でも高濃度の昆虫忌避剤が承認へ
ング熱やジカ熱の予防には昆虫忌避剤が用いられますが、日本では有効成分であるDEET濃度が約10%以下の製剤しか販売されていませんでした。このたび厚生労働省は、メーカーから30%前後の製剤の申請が出された場合、迅速に審査を行い承認することを発表しました。DEET濃度は昆虫忌避剤の持続時間に影響しており、高濃度の製剤を用いると、より長時間の効果が得られます。
参考:http://www.earth-chem.co.jp/top01/news/pdf/2016/0617_01.pdf
・渡航者医療センターからのお知らせ
1)当センターに企業からの相談窓口(有料)を開設しました
当センターでは企業の健康管理や人事労務担当者を対象にした、海外勤務者の健康管理に関する相談窓口(有料)を開設しました。企業の健康管理体制の構築や、個々の事例の相談などに応じます。年間契約をいただければ、契約期間中は何回でも相談をすることができます。相談には専門の医師が対応いたします。詳細は下記のHPをご参照ください。
http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/tokou/consultation.html
2)第20回日本渡航医学会学術集会(日本渡航医学会主催)
第20回日本渡航医学会学術集会が下記の日程で開催されます。
・テーマ:「グローバル時代の渡航医学」 ・大会長:川崎医科大学 小児科学教授 中野貴司
・開催日:2016年7月23日(土)~24日(日) ・会場:倉敷文芸館(岡山県倉敷市)
・詳細は大会ホームページをご参照ください
http://ww2.med-gakkai.org/app-def/S-102/wp/jsth2016/
3)第5回ジャムズネット東京講演会(ジャムズネット東京主催)
・テーマ:「オリンピック・パラリンピック直前!アスリートと応援団のための健康対策」
・日時:2016年7月31日(日) 午後2時~5時 ・会場:東京医科大学病院・臨床講堂(新宿区)
・詳細はジャムズネット東京のホームページをご参照ください
http://www.jamsnettokyo.org/
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