海外医療通信2016年3月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】
※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです
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東京医科大学病院・渡航者医療センター
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・海外感染症流行情報(2016年3月)
(1)速報~西アフリカでラッサ熱流行が拡大、ドイツでも患者発生
ナイジェリアでは2015年11月からラッサ熱の患者数が増加し、今年の3月中旬までにその数が251人(134人死亡)に達しています(米国CDC 2016-3-21)。隣国のベナンでも今年になり50人以上の患者が発生しました。2月末には隣国のトーゴで医療活動をしていた米国人がラッサ熱を発病し、搬送先のドイツ・ケルンで死亡しました(WHO 2016-3-23)。この患者をトーゴで看病していた米国人1名と、ドイツで遺体処理にあたったドイツ人1名も二次感染をおこし、現在治療中です。
ラッサ熱はネズミの一種により媒介される病気で、 西アフリカでは風土病として流行しています。高熱ともにエボラ熱と同様の重篤な全身症状をおこします。患者の体液からも感染するため、患者や遺体と接触した人は厳重な監視が必要になります。
(2)中国での鳥インフルエンザ流行状況
中国では今年の1月~2月に鳥インフルエンザH7N9型の患者が29人確認されました(WHO 2016-3-23)。このうち11人が死亡しています。患者の発生地域は浙江省(7人)、湖南省(7人)、江蘇省(6人)と南部が多く、8割以上の患者で家禽との接触歴がありました。
中国では2013年より冬の季節に鳥インフルエンザH7N9型の流行がみられています。今季は4回目の流行になりますが、昨季よりも患者発生が少なくなっている模様です。流行地域では生きた家禽が販売されている市場などに立ち入らないようにしましょう。
(3)今年は東南アジアでデング熱患者が増加傾向
今年は東南アジアでデング熱の患者数が増加傾向にあります(WHO西太平洋 2016-3-8)。シンガポールでは最近1週間で400人以上の患者が確認されており、過去5年間で最も患者発生が多くなっています。マレーシア、フィリピン、ベトナムでも昨年より多くの患者が発生しており、滞在する際には十分な注意が必要です。
(4)サウジアラビア中部でMERSの集団感染が発生
中東のサウジアラビアで今年の2月中旬から1か月間に53人のMERS患者が発生しました(WHO 2016-3-10~23)。このうちの21人は同国中部のBuraidahで感染しており、この町の病院で集団感染が発生した模様です。
サウジアラビアでは2012年からMERS(中東呼吸器症候群)の流行がみられていますが、ラクダとの接触とともに病院内で感染するケースが増えています。現地で病院を受診する際には、院内での感染に十分ご注意ください。
(5)アフリカ南部のアンゴラで黄熱流行が拡大
アンゴラでは2015年12月から黄熱が流行していますが、その後も患者が増加しており、3月中旬までにその数は1000人以上にのぼっています(WHO 2016-3-22)。このうち800人以上は首都ルアンダ周辺での発生です。なお、中国国内でアンゴラからの帰国者が黄熱を発病したとの報道もありますが、WHOは「未確認である」との見解を出しています(WHO 2016-3-22)。
(6)西アフリカでのエボラ熱流行状況
西アフリカのシェラレオネで今年1月にエボラ熱の再燃がみられていましたが、その後は患者発生がなく、WHOは3月17日に流行終息を宣言しました(WHO 2016-3-17)。一方、隣国のギニアでは3月中旬に2人のエボラ熱患者が確認されており、流行が再燃した可能性があります(WHO 2016-3-18)。同国では2015年12月末に流行終息が宣言されていました。
(7)中南米でのジカ熱流行状況
中南米では3月もジカ熱の流行が拡大しており、3月中旬までの流行国(地域を含む)は33か所にのぼっています(WHO 2016-3/17)。ブラジルでは小頭症の新生児数も、2015年11月以来、6000人以上に増加しており、ジカ熱感染との関連が強く疑われています。また、米国、フランス、イタリアで性行為による感染例も報告されており、ジカ熱の全容が次第に明らかになっています。こうした状況を受けて、WHOは3月8日に「妊娠している女性は流行地域に渡航すべきではない」との見解を発表しました(WHO 2016-3/8)。また、「流行地域に滞在した男性は、妊娠中の女性との性行為を安全に行うべき」との見解も示しました。その後、日本の厚労省も同様の発表を行っています。ジカ熱の流行地域に関する最新情報は以下の厚労省のサイトをご参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000113142.html
なお、日本の国立感染症研究所は3月11日に蚊媒介感染症診療ガイドラインを発表しました。このガイドラインにはデング熱やチクングニア熱とともに、ジカ熱の診療指針も掲載されています。
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000115988.pdf
(8)南米でデング熱、チクングニア熱も増加
南米のウルグアイでデング熱の国内流行が初めて確認されました(WHO 2016-3-10)。首都のモンテビデオなどで500人以上の患者が発生している模様です。ウルグアイは洪水被害に見舞われており、これが媒介する蚊の増殖を招いたものと推測されています。また、アルゼンチンでは北部などでチクングニア熱の患者数が増加しています(WHO 2016-3-15)。今年は2月末までに全国で1000人以上の患者が発生しており、昨年1年間の発生数を越える勢いです。
南米に滞在する際には、ジカ熱だけでなくデング熱やチクングニア熱を予防するために、蚊に刺されない対策をとるようにしましょう。
・日本国内での輸入感染症の発生状況(2016年2 月8日~2016年3月6日)
最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典:http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr.htmll
1)経口感染症:輸入例としては細菌性赤痢12例、腸・パラチフス1例、アメーバ赤痢6例、A型肝炎5例(2例は国内感染の可能性あり)、E型肝炎1例、クリプトスポリジウム1例が報告されています。赤痢は前月(3例)より大きく増加しており、インドネシアでの感染が6例と半数を占めています。
2)蚊が媒介する感染症:デング熱は輸入例が12例で、前月(17例)よりやや減りました。感染国はインドネシアが7例、タイが3例と多くなっています。マラリアはカメルーンでの感染が1例、チクングニア熱はキューバでの感染が1例でした。また2月からはジカ熱が4類感染症に指定されており、この期間ではブラジルでの感染が1例報告されています。
3)その他の感染症:麻疹の感染例が1例報告されており、感染地域は中東(カタールなど)でした。
・今月の海外医療トピックス
B型肝炎ワクチンの定期接種化
いよいよ2016年10月より日本国内でも、生後2か月の乳児に対しB型肝炎ワクチンの定期接種が実施されることになりました。以前のメールマガジンでもお知らせした情報ですが、海外の多くの国では以下のように以前よりB型肝炎ワクチンの定期接種化が実施されています。
台湾:1984年、米国:1991年、中国、イタリア:1992年、ドイツ:1995年、オーストラリア:2000年
B型肝炎ワクチンは米国留学時にも要求されるワクチンの1つであり、3回接種には半年ほどを要するため、接種期間に余裕のない留学生には悩みの種でしたが、10数年後にはそれが解消されていくことになるでしょう。 兼任講師 古賀 才博
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000113406.pdf
・渡航者医療センターからのお知らせ
ジャムズネット東京 勉強会(ジャムズネット東京主催)
標記勉強会が下記の日程で開催されます。今回は「海外との遠隔医療」をテーマにした勉強会です。
・日時:2016年4月16日(土)午後5時半~7時半・会場:東京医科大学病院 本館6階 第3会議室
・講師:香川大学副学長・徳田雅明先生、香川大学医学部教授・横井英人先生 他
・詳細は以下のホームページをご参照ください。http://www.jamsnettokyo.org/
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