現地レポート:南アフリカ、定番ツアーの魅力を増強する新素材

  • 2011年6月3日

 ワイン、雑貨、バルーンサファリなどを定番ツアーにプラス
新素材でターゲット層へのアピール力がアップ

ローズガーデンのある瀟洒なワイナリー。これまでの「ワイルド感」を覆す新素材だ

 2010年のFIFAワールドカップの開催地となり、世界的に認知を広めた南アフリカ共和国。日本人訪問客は前年比34%の増加を記録した。この潮流を掴み、さらなる旅行需要を喚起したい。南アフリカは、喜望峰やサファリ、ジャカランダの花がツアーの主目的となる人気素材だが、その他にも6000種に及ぶ固有植物やワイン、雑貨、さらにアパルトヘイト撤廃への歴史を知る世界遺産ロベン島など、南アフリカならでは幅広いテーマや素材がある。今回はバルーンサファリも体験でき、参加者の大好評を得た。定番ツアーに加えれば、ターゲット層へのアピール力を強める商品造成が可能だ。

歴史的町並みも楽しむワイン産地ツアー
女性受けする雑貨や自然派商品などのショッピングも

ステレンボッシュのビレッジミュージアム。ケープダッチ様式などの家を移築している

 南アフリカはワイン造りで300年以上の歴史があり、近年日本のワイン好きにも注目されている。ケープタウンから車で45分の郊外にあるステレンボッシュは、南アフリカ最大のワインの産地。17世紀から19世紀の白亜の家々が並ぶ町中はお洒落で、歩くだけでも楽しめる。訪れたワイナリー「ニースリングショッフ・エステート」も、洗練された雰囲気だ。ワインは1本60ランド(約720円)前後という価格帯ながら、高品質との評判。白はソーヴィニョン・ブラン、赤は南アフリカ固有種のピノ・タージュが人気だという。

ほろほろ鳥がモチーフの陶器類。手に取った質感もなかなかよい

 南アフリカではワインのほか、キッチンウェアや雑貨、自然化粧品なども、センスの良い品が揃う。動物などアフリカらしいモチーフを用いながら、日本の暮らしにも採り入れやすいデザインで、特産のルイボスを使ったお茶やスキンクリームは女性に好評だ。サファリとワインやショッピングを一国内で楽しめるのは、南アフリカの特長だろう。こうした素材を組み込むだけで、おしゃれな女性をターゲットにしたツアーに変化する。

ペッパークラブ・ラグジュアリーホテル&スパ。赤と黒が基調のモダンなロビー

 ちなみに、ケープタウンにはワールドカップの開催に合わせてホテルが増加しており、デザイナーズホテルも誕生している。2010年にオープンした5ツ星の「ペッパークラブ・ラグジュアリーホテル&スパ」もその一つ。スタンダードルームでもツインルームが多く、バスとトイレ別という日本人好みの仕様で、こうしたホテルを利用すれば、新たなイメージの南アフリカツアーを演出することができそうだ。

南アフリカ固有種の花々
エコツアーやハイクなど多様な企画も

カーステンボッシュ植物園はテーブルマウンテンの斜面にある

 シニア層を中心に、日本人旅行者に根強い訴求力のある素材といえば、花だ。9月から10月頃に咲く、紫色のジャガランダを主目的にしたツアーは、南アフリカの定番ツアーの一つといっても過言ではないほど人気となっている。

園内は鳥の歌声が始終響き、草花の香りが清々しい

 しかし、南アフリカの花観光はそれだけではない。ケープタウン一帯は「ケープ植物区保護地域群」として世界遺産に登録されており、9000種以上生育する植物のうち7割が固有種という、極めて稀な区域。国内外からのエコツーリズムが高い経済効果を呼んでいるという。わずかながら固有種の鳥も見られるため、バードウォッチングに訪れる人もいる。日本からも、一面のワイルドフラワーを見るツアーが8月頃に催行されている。

珍しい黄色いゴクラクチョウ花。マンデラ氏にちなみ「マンデラズゴールド」と呼ばれる

 人気の花を季節に左右されずに組み込める場所もある。世界遺産内に位置する「カーステンボッシュ植物園」だ。固有種を含む南アフリカの植物が7000種以上集められ、国花キングプロテアや、エリカなどの珍しい品種を見ることができる。市街中心部から車で約10分の近さながら、広大な園内はテーブルマウンテンからの清廉な空気に満ち、パワースポットと呼べるような心地よさ。8月から11月がベストシーズンだが、一年中何らかの花が咲き、遊歩道やカートも用意されている。

テーブルマウンテンのハイキングコース。コース沿いは背の低い灌木が多い

 また、テーブルマウンテンにも1470種の植物が生育している。ロープウェイを利用できるが、ハイキングコースも300以上あり、標高1086メートルの頂上へは1時間半から3時間程度。山ブームの昨今、植物やハイキング分野で強みを伸ばすのも一案かもしれない。ただし、天候が変わりやすく単独では難しいので、信頼できるガイドと行くことが必要となる。

世界史を塗り替えた激動の地
マンデラ氏の軌跡を辿るロベン島

囚人を運ぶのに使われていた船が、今でも利用されている。通常は高速船で島へ渡る

 今回の視察で印象的だったのが、南アフリカが自分たちの手で民主主義を勝ち取ったという自負を持つ、熱い国だということ。そんな人々が誇りとともに話題にしていた人物が、人種差別と闘い、ついに大統領となってアパルトヘイトを撤廃したネルソン・マンデラ氏だ。マンデラ氏を描いた映画『マンデラの名もなき看守』(2007年)や『インビクタス/負けざる者たち』(2009年)が公開された影響もあり、旅行会社でもゆかりの場所を訪ねたいとの問い合わせを受けるという。

 ケープタウン沖のロベン島には、マンデラ氏が27年間収容されていた刑務所がある。人種差別の反対者が、政治犯として捉えられていた場所だ。今では島全体が博物館となり、広島の原爆ドームと同様、悲劇を二度と繰り返さないための「負の遺産」として世界遺産に登録されている。

元政治囚だった案内人の説明は、言葉を超えて胸に響く

 ロベン島博物館主催のツアーに参加すると、当時政治囚だった人々の案内のもと、島をバスで見学することができる。島内では原則として旅行会社独自のツアーや通訳ガイドは規制されているが、それは案内人の気持ちのこもった説明に耳を傾けてもらい、表情や雰囲気から直接「感じること」を何より大事にしているからだという。見学に集中するためには、あらかじめ島の概要を知っておくと役立つだろう。

マンデラ氏が実際に過ごした一室

 通常は他の見学者とともに最大200人で巡るが、追加料金で2人から54人のプライベートツアーのアレンジも可能で、その場合は通訳の同行も相談できる。所要時間は、船での往復を入れて約4時間。視察参加者によると、「歴史に関心がある旅行者からはロベン島訪問の要望が強い」一方、限られた日程では時間を取りがたいのも事実だ。オプションの設定などで対応したい。

大満足のバルーンサファリはMICEにも
治安状況は「団体客の被害ほとんどなし」

朝焼けとともに見渡すサバンナはまさに絶景

 南アフリカ旅行でサファリは人気の高い旅行目的の一つだが、今回の視察のハイライトとなったのが、気球に乗って上空から動物を探す「バルーンサファリ」だ。バルーンサファリはケニアが知られているが、南アフリカ各地にもサバンナやワイン畑を眺められるコースがある。今回はヨハネスブルグとプレトリアから車でアクセスできるピーランスバーグ国立公園でバルーンサファリを楽しんだ。運営するエアトラック・アドベンチャーズは、これまで一度も事故はないという。

インパラの群れも上から見るとまた違う印象

 バルーンサファリは、ハネムーンやインセンティブツアーにも最適だ。天候によって実施が左右されるため、当日までのサプライズにすると、可能だった時の喜びは格別。早朝の出発のため、最初はまだ目が覚めていないような参加者も経験するとその素晴らしさに一様に興奮状態となった。ピーランスバーグ国立公園には、欧米のMICE受け入れ実績も多いという一大リゾート、サンシティが隣接し、受け入れ施設も整っている。その中の「ザ・パレス・オブ・ロストシティ」は、おとぎ話のような装飾を凝らしたホテルで、特別な旅にふさわしい豪華さだ。

約1時間の飛行後はサバンナでのシャンパン・ブレックファースト

 治安に関しては、リゾート内はもとより、その他の観光地でも不安は感じられなかった。現地オペレーターのユア・アフリカに勤めるヨハネスブルグ在住の鈴木崇行氏は、「他の外国と同様に、一部の危険な場所を避け、夜は出歩かないといった基本を守れば問題ない」と語る。外務省の海外安全情報でも「団体旅行客の犯罪被害はほとんど発生していない」と記載がある。道路が整い、観光バスによるツアー催行はスムーズ。公共交通が不便で個人旅行が難しい分、旅行会社が手掛ける意義は大きい。

旅行することで社会貢献
世界初の「フェアトレード・ツーリズム」

今年のインダバではフェアトレードセミナーが開催。説明するカタリーナ・マンケイマ氏

 南アフリカでは2009年に世界で初めて、旅行における「フェアトレード」の認証システムが生まれた。これは宿泊施設やツアー商品に対し、人種的平等や適正な賃金、自然環境の保全、地域への貢献といった項目を調査して与えられる認証。NGOのフェアトレード・イン・ツーリズム・サウスアフリカ(FTTSA)により、国連の協力のもと発足した。

サンシティは森に囲まれた広大な敷地。固有種の植物が植えられたガーデンもある

 フェアトレードとは社会的公正をめざし、途上国の生産者の労働環境や伝統文化、自然を尊重した商品を取り引きする仕組み。日本でもここ10年で急速に市場を拡大してきた。買物で気軽にできる国際協力としてフェアトレード商品を選ぶ消費者が増えている。

サンシティの説明をした、サン・インターナショナル日本市場担当のリアン・ケリーマートゥンズ氏  FTTSAのカタリーナ・マンケイマ氏は、「フェアトレード・ツーリズムによって旅行者は休暇を楽しみながら社会貢献ができる」と語る。旅行会社にとっては認証のあるホテルを利用することで、商品の付加価値やCSR(企業の社会的責任)をアピールすることが可能だ。現在、南アフリカの65軒のホテルが認証を取得している。

 なお、その1軒であるサンシティでは独自に、収益の2%を学校建設やエイズ孤児のためのプロジェクトにあて、観光を通じた地域コミュニティへの貢献をめざしているという。



取材協力:南アフリカ観光局
取材:福田晴子