ハワイ・マーケットトレンド:スポーツ市場への取り組み(前編)
注目のマラソンイベント、課題はホノルルの次
〜ハワイ・スポーツ市場への取り組み(前編)〜
旅行商品はマスをねらうパッケージツアーと並行して、ニッチなマーケットを取り込むSIT向けの商品造成が当たり前の時代になっている。そのひとつとして注目されているのが、スポーツだ。旅のモチベーションとなる素材であり、ハワイ州観光局(HTJ)でも2011年のプロモーションテーマとして取り上げるほど。そこで、HTJが展開する「旅スポハワイ」の4つのスポーツ、「ラン」「ウォーク」「バイク」「ゴルフ」をメインに、旅行会社のハワイにおけるスポーツツアーの取り組みを取材した。前編では「ラン」商品を中心に報告する。
各社にスポーツ専門部署が整備
種目によって手配方法や対象マーケットが異なるスポーツは、旅行会社の取り組みもさまざま。一方で、スポーツの専門部署や専門サイトを設け、取り組みを強化している流れは各社とも共通している。まずは各社のスポーツ旅行の体制をおさえたい。
エイチ・アイ・エス(HIS)では、サッカーブームの10年前にスポーツ・イベントセクションを創設。現在は規模や得意とするスポーツの異なる5つの支店を展開している。日本旅行は、社内の再編成を機に各支店のスポーツ部門を1つにまとめ、2009年7月にスポーツ・イベント部を設立した。特に強みのあるスポーツは、サッカーとマラソン。また、オリンピックやプロスポーツ選手の合宿手配、メジャーなスポーツクラブの会員需要も取り込んでいる。
近畿日本ツーリスト(KNT)は昨年4月、前身のスポーツ・イベント事業部をスポーツ事業部として立ち上げた。仕入れや大会主催者などとの契約・提携といったツアーの下地づくりを担当し、販売は各支店やウェブ上で展開。ウェブでのスポーツ商品はECC事業本部カンパニー第8営業支店が扱っており、4月末にサイトのリニューアルをしたばかりだ。ジャルパックの場合、スポーツは各方面担当が扱っているが、昨年全方面のスポーツツアーをサポートする「チームジャルパック」を立ち上げた。参加者が感動を分かち合うというコンセプトでハワイから始めたもので、参加型スポーツツアーのノウハウやギブアウェイを統一し、ウェブサイトにも全方面のスポーツ情報を集結させている。
ハワイのスポーツ旅行は参加型
筆頭のマラソンはブーム続き、堅い市場
スポーツをテーマにツアーをつくる時、五輪やワールドカップ、メジャーリーグなどの観戦型と、マラソン大会などの参加型に分けることができるが、ハワイで多いのは参加型。HTJの「旅スポハワイ」が取り上げているのも、いずれも旅行先で楽しむスポーツだ。そのなかで、各社とも注目しているハワイでのスポーツといえば、やはりマラソンだろう。
「今のマラソンは大きく二極化している」と話すのは、マラソンを担当して5年になる日本旅行の東京法人・コンベンション営業部スポーツイベント部の加藤絵理子氏。ニューヨークやボストンのように、走ることにステータスのある大会に初心者は少ない。一方、ホノルルやゴールドコーストのように初心者でも楽しみながら参加できるファンランは、リゾート地を舞台にしていることが多いのも特徴のひとつという。
ここ数年では、東京マラソンの開催や間寛平氏のアースマラソンの影響も大きいという加藤氏。「東京マラソンの抽選に当たったことや、間寛平さんのように人生の中で何かを成し遂げたいと思ったことがきっかけとなって、マラソンを始めた人も少なくない」(加藤氏)。
また、マラソンには他のスポーツにはない連帯感を生みだし、ブームを後押ししている側面も見てとれる。参加者同士に同胞意識が生まれるのはもちろん、参加者、同行者、コーチ、旅行会社のスタッフらの間でも、密なコミュニケーションを通して連帯感が芽生え、個人種目であるはずのマラソンにひとつのチーム感が生まれるのだ。日本旅行では、ホノルルマラソンのパッケージツアーで1人参加者のために相部屋を保証している。旅費が5万円前後抑えられるだけでなく、目的を同じくする者同士のマッチングが上手く作用し、好評だ。
成功の鍵は女性マーケット
それにしても、なぜホノルルマラソンはここまで人気が爆発したのだろう。日本マーケットにとって知名度・参加数ともに群を抜いており、パッケージツアーは各社とも売り出せば完売というヒット商品になっている。
各社が声をそろえて挙げるのは、制限時間がないため、初心者が気軽に参加できる点。確かにホノルルマラソンでフルマラソンデビューを飾る人は多い。さらに、「女性マーケットを取り込んだのも大きなポイント」と話すのは、HIS新宿本社営業所スポーツ・イベントセクション企画・販売セールスチーフの山田由紀子氏。同社のパンフレット「旅スポハワイ」でも女性モデルを使用し、全体を通して女性マーケットを意識した作りとなっている。またHISでは、国内でトレーニングイベントやナイトランニングを実施しており、情報交換の場としてSNSサイト「eサポート」もオープンした。「参加者は女性が多く、ひとつのコミュニティを確立している」(山田氏)という。
ハワイというデスティネーションの魅力が女性層を動かしているのはもちろんだが、リゾートで開催されるホノルルマラソンのアットホームな雰囲気が、女性の感性にあうという面もあるだろう。海外のフルマラソンを何度か経験している加藤氏は、「ホノルルはゴールした時に泣けた」といい、その理由を沿道の応援の熱さにあると語る。シティマラソンに押し寄せる群衆とは違い、各ランナーに向けられる心のこもった温かい応援に、思わず胸が熱くなるというのだ。
なお、日曜日に開催されるホノルルマラソンは、木・金曜に出発するツアーに人気が集中している。男女を問わず長い休暇を取れない人が多いためだが、ジャルパックでは昨年、この需要に対応するため、さらに短期間に行ける羽田発着のアスリートコースを新設した。「金曜日の仕事帰りに出発し、大会当日に帰国するのが特徴で、好評につき今年も引き続き設定する」(海外商品企画第1部ハワイ・ミクロネシアグループのアシスタントマネージャー若林崇浩氏)という。
各社が模索するホノルルの次
ハワイ5大マラソンや女性対象の大会も
大きなマーケットを動かす大会となったホノルルマラソン。各社に共通するのは、ホノルルの次を見出すことだ。日本人の参加人数でホノルルマラソンとは大きな差があるものの、次はマウイマラソンという旅行会社は多い。マウイマラソンはビーチ沿いを走るコースの美しさに定評があるほか、「半分以上が日本人というホノルルと異なり、海外マラソンらしさを感じることができる。参加者とスタッフの距離もより近い」と山田氏。今年からスポーツ・イベントのマネジメントなどを行なうピーアール会社のサニーサイドアップが事務局となり、登録やサポートの面で日本人がより参加しやすくなる。隣島の優雅なリゾートホテルと組み合わせれば、ここでも女性マーケットを大きなターゲットに据えることができそうだ。
ビッグ・アイランド(ハワイ島)を推しているのはジャルパックだ。「コナマラソンはもちろん、コースが美しいヒロのビッグ・アイランド・インターナショナル・マラソンもすすめたい」(若林氏)。ただし、万全のサポート体制を整えなければならないツアー化は、ある程度の集客という条件が不可欠となる。そのためジャルパックでは、どちらの大会もオプショナルツアーで販売するにとどめているが、隣島の需要喚起という意味でもホノルル以外のハワイ5大マラソン(ヒロ、コナ、カウアイ、マウイ)を“ホノルルの次”に推していきたい気持ちは各社に共通するところだろう。
今年4月には、ハワイで初めて女性限定のワヒネハーフマラソンが開催された。告知に十分な時間が取れなかったことや、大会前に東日本大震災が起こったことで、今年は集客が伸びなかった。しかし、向こう2年は開催が決定しているため、各社とも来年に向けたプロモーションを展開していく方針だ。今後も、ハワイ、マラソン、女性のキーワードをいかに上手く料理できるかがカギとなるのは間違いない。
〜ハワイ・スポーツ市場への取り組み(前編)〜
旅行商品はマスをねらうパッケージツアーと並行して、ニッチなマーケットを取り込むSIT向けの商品造成が当たり前の時代になっている。そのひとつとして注目されているのが、スポーツだ。旅のモチベーションとなる素材であり、ハワイ州観光局(HTJ)でも2011年のプロモーションテーマとして取り上げるほど。そこで、HTJが展開する「旅スポハワイ」の4つのスポーツ、「ラン」「ウォーク」「バイク」「ゴルフ」をメインに、旅行会社のハワイにおけるスポーツツアーの取り組みを取材した。前編では「ラン」商品を中心に報告する。
各社にスポーツ専門部署が整備
種目によって手配方法や対象マーケットが異なるスポーツは、旅行会社の取り組みもさまざま。一方で、スポーツの専門部署や専門サイトを設け、取り組みを強化している流れは各社とも共通している。まずは各社のスポーツ旅行の体制をおさえたい。
エイチ・アイ・エス(HIS)では、サッカーブームの10年前にスポーツ・イベントセクションを創設。現在は規模や得意とするスポーツの異なる5つの支店を展開している。日本旅行は、社内の再編成を機に各支店のスポーツ部門を1つにまとめ、2009年7月にスポーツ・イベント部を設立した。特に強みのあるスポーツは、サッカーとマラソン。また、オリンピックやプロスポーツ選手の合宿手配、メジャーなスポーツクラブの会員需要も取り込んでいる。
近畿日本ツーリスト(KNT)は昨年4月、前身のスポーツ・イベント事業部をスポーツ事業部として立ち上げた。仕入れや大会主催者などとの契約・提携といったツアーの下地づくりを担当し、販売は各支店やウェブ上で展開。ウェブでのスポーツ商品はECC事業本部カンパニー第8営業支店が扱っており、4月末にサイトのリニューアルをしたばかりだ。ジャルパックの場合、スポーツは各方面担当が扱っているが、昨年全方面のスポーツツアーをサポートする「チームジャルパック」を立ち上げた。参加者が感動を分かち合うというコンセプトでハワイから始めたもので、参加型スポーツツアーのノウハウやギブアウェイを統一し、ウェブサイトにも全方面のスポーツ情報を集結させている。
ハワイのスポーツ旅行は参加型
筆頭のマラソンはブーム続き、堅い市場
スポーツをテーマにツアーをつくる時、五輪やワールドカップ、メジャーリーグなどの観戦型と、マラソン大会などの参加型に分けることができるが、ハワイで多いのは参加型。HTJの「旅スポハワイ」が取り上げているのも、いずれも旅行先で楽しむスポーツだ。そのなかで、各社とも注目しているハワイでのスポーツといえば、やはりマラソンだろう。
「今のマラソンは大きく二極化している」と話すのは、マラソンを担当して5年になる日本旅行の東京法人・コンベンション営業部スポーツイベント部の加藤絵理子氏。ニューヨークやボストンのように、走ることにステータスのある大会に初心者は少ない。一方、ホノルルやゴールドコーストのように初心者でも楽しみながら参加できるファンランは、リゾート地を舞台にしていることが多いのも特徴のひとつという。
ここ数年では、東京マラソンの開催や間寛平氏のアースマラソンの影響も大きいという加藤氏。「東京マラソンの抽選に当たったことや、間寛平さんのように人生の中で何かを成し遂げたいと思ったことがきっかけとなって、マラソンを始めた人も少なくない」(加藤氏)。
また、マラソンには他のスポーツにはない連帯感を生みだし、ブームを後押ししている側面も見てとれる。参加者同士に同胞意識が生まれるのはもちろん、参加者、同行者、コーチ、旅行会社のスタッフらの間でも、密なコミュニケーションを通して連帯感が芽生え、個人種目であるはずのマラソンにひとつのチーム感が生まれるのだ。日本旅行では、ホノルルマラソンのパッケージツアーで1人参加者のために相部屋を保証している。旅費が5万円前後抑えられるだけでなく、目的を同じくする者同士のマッチングが上手く作用し、好評だ。
成功の鍵は女性マーケット
それにしても、なぜホノルルマラソンはここまで人気が爆発したのだろう。日本マーケットにとって知名度・参加数ともに群を抜いており、パッケージツアーは各社とも売り出せば完売というヒット商品になっている。
各社が声をそろえて挙げるのは、制限時間がないため、初心者が気軽に参加できる点。確かにホノルルマラソンでフルマラソンデビューを飾る人は多い。さらに、「女性マーケットを取り込んだのも大きなポイント」と話すのは、HIS新宿本社営業所スポーツ・イベントセクション企画・販売セールスチーフの山田由紀子氏。同社のパンフレット「旅スポハワイ」でも女性モデルを使用し、全体を通して女性マーケットを意識した作りとなっている。またHISでは、国内でトレーニングイベントやナイトランニングを実施しており、情報交換の場としてSNSサイト「eサポート」もオープンした。「参加者は女性が多く、ひとつのコミュニティを確立している」(山田氏)という。
ハワイというデスティネーションの魅力が女性層を動かしているのはもちろんだが、リゾートで開催されるホノルルマラソンのアットホームな雰囲気が、女性の感性にあうという面もあるだろう。海外のフルマラソンを何度か経験している加藤氏は、「ホノルルはゴールした時に泣けた」といい、その理由を沿道の応援の熱さにあると語る。シティマラソンに押し寄せる群衆とは違い、各ランナーに向けられる心のこもった温かい応援に、思わず胸が熱くなるというのだ。
なお、日曜日に開催されるホノルルマラソンは、木・金曜に出発するツアーに人気が集中している。男女を問わず長い休暇を取れない人が多いためだが、ジャルパックでは昨年、この需要に対応するため、さらに短期間に行ける羽田発着のアスリートコースを新設した。「金曜日の仕事帰りに出発し、大会当日に帰国するのが特徴で、好評につき今年も引き続き設定する」(海外商品企画第1部ハワイ・ミクロネシアグループのアシスタントマネージャー若林崇浩氏)という。
各社が模索するホノルルの次
ハワイ5大マラソンや女性対象の大会も
大きなマーケットを動かす大会となったホノルルマラソン。各社に共通するのは、ホノルルの次を見出すことだ。日本人の参加人数でホノルルマラソンとは大きな差があるものの、次はマウイマラソンという旅行会社は多い。マウイマラソンはビーチ沿いを走るコースの美しさに定評があるほか、「半分以上が日本人というホノルルと異なり、海外マラソンらしさを感じることができる。参加者とスタッフの距離もより近い」と山田氏。今年からスポーツ・イベントのマネジメントなどを行なうピーアール会社のサニーサイドアップが事務局となり、登録やサポートの面で日本人がより参加しやすくなる。隣島の優雅なリゾートホテルと組み合わせれば、ここでも女性マーケットを大きなターゲットに据えることができそうだ。
ビッグ・アイランド(ハワイ島)を推しているのはジャルパックだ。「コナマラソンはもちろん、コースが美しいヒロのビッグ・アイランド・インターナショナル・マラソンもすすめたい」(若林氏)。ただし、万全のサポート体制を整えなければならないツアー化は、ある程度の集客という条件が不可欠となる。そのためジャルパックでは、どちらの大会もオプショナルツアーで販売するにとどめているが、隣島の需要喚起という意味でもホノルル以外のハワイ5大マラソン(ヒロ、コナ、カウアイ、マウイ)を“ホノルルの次”に推していきたい気持ちは各社に共通するところだろう。
今年4月には、ハワイで初めて女性限定のワヒネハーフマラソンが開催された。告知に十分な時間が取れなかったことや、大会前に東日本大震災が起こったことで、今年は集客が伸びなかった。しかし、向こう2年は開催が決定しているため、各社とも来年に向けたプロモーションを展開していく方針だ。今後も、ハワイ、マラソン、女性のキーワードをいかに上手く料理できるかがカギとなるのは間違いない。
小グループをポスト・ラン・イベントへ
ポスト・ラン・イベントへの動きもある。「ラン」の
カテゴリーに入るトライアスロンやトレイルランは、マ
ラソンを体験した人が次にめざすものとしても注目でき
るスポーツだ。
トライアスロン・デビューをめざす人にすすめたいの
が、5月に開催されるオアフ島のホノルルトライアスロ
ン。トライアスロンというと、スイム、バイク、ランを
組みあわせたハードな競技と思われがちだが、同大会に
は2、3人のチームで参加できるリレー、距離の短いスプ
リント、スイムのないデュアスロンもあるなど、ビギナ
ーでも参加しやすい内容となっている。旅行各社ともツ
アーを造成しているが、チームビルディング・プログラ
ムとしての可能性も含め、小グループの誘致など、プロ
モーション次第で集客を伸ばすこともできるだろう。
一方のトレイルランは、ひと言でいうと自然の野山を
走る競技。オアフ島では、今年で2回目となるエクステ
ラ・クアロア・ランチ・トレイルランが12月に開催される。こちらも10キロ・ランや5キロ・
ランなど、ビギナーでも参加しやすい競技が用意されている。山あり、海ありクアロア・
ランチを舞台に、ハワイの雄大な風景を満喫できるのが何よりの魅力だろう。トライア
スロン、トレイルランいずれの大会も1000人以上が参加する一大スポーツ・イベントだ。ホ
ノルルマラソンの次のステップとして、隣島のマラソン大会とともに開発の余地があるとい
えよう。
今週のハワイ50選
クアロア・ランチ
取材・竹内加恵