新春トップインタビュー:在日外国観光局協会会長のジェイソン・ヒル氏

  • 2011年1月17日
店舗と共同プロモーションに意欲
海外旅行のメリット伝える取り組みを


 在日外国観光局協会(ANTOR−Japan)の新会長に、ニュージーランド政府観光局日本・韓国地区局長のジェイソン・ヒル氏が就任して1年が経った。日本人訪問者数の減少にともなって観光局の予算削減などが顕在化しているが、ヒル氏は2010年の需要動向が近距離、長距離ともに総じて好感触だったと語る。数年後には日本人出国者数2000万人の達成もあり得ると予測するヒル氏に、今後のANTOR−Japanの具体的な取り組みや課題について聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
                            
                       
−2010年の総括と2011年の活動方針をお聞かせください

ジェイソン・ヒル氏(以下、敬称略) 前会長で香港政府観光局(HKTB)日本・韓国局長の加納國雄氏の取り組みによって会員基盤が強固になったなか、2010年は役員の改選によって平均年齢が比較的若くなった。新体制ではインターネットにもう少し力を入れていこうと考え、6月1日に新ウェブサイトを開設した。50を超える観光局の情報を集めており、ワンストップで海外旅行の行き先を検討することができる。面白く、便利なサイトを構築できたと考えており、今後はどのように利用を促進するかが課題だ。

 また、「Let's go!海外」のイベントを昨年も開催し、1万5000人が来場した。今年は、時期を少し早めて5月の開催を予定している。ANTOR−Japan会員のほとんどが北半球の国・地域であるため、北半球のピークの前に実施することにした。さらに今後は、旅行業界に関する意見交換の場を積極的に設けたいと考えている。


−2010年のアウトバウンド2000万人の目標は残念ながら未達成となりました。これについての所感と2011年の見通しをお聞かせください

ヒル 2000万人という目標は大きかったと思う。設定した当時はリーマンショックや新型インフルエンザ流行の前だったが、その後に状況が変わった。しかし、2010年はリーマンショックと新型インフルエンザの影響からのリバウンドがあり、多くの観光局にとって「復活」の年になった。それぞれの国で異なるものの、基本的には回復基調で、久しぶりに良い年だったといえる。

 この調子であれば、2000万人も3年後から5年後には達成できる可能性もあると思う。たとえば50代以上でパスポートの取得率が増えている。これからの団塊世代にも期待したい。また、羽田空港や成田空港の拡張、そしてLCC参入の影響も大きいと思う。LCCは初参入したジェットスター航空(JQ)の就航から約4年経つが、今後は多数のLCCの参入により、大幅に市場が変わってくる。

 2011年は、全体としての成長が若年層の出国者数の減少をカバーするのではないか。日本の出国率は他の国と比べてまだとても低く、伸びる余地がある。


−日本旅行業協会(JATA)のビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)事業に期待することと、ANTOR−Japanとしてどのように協力していくかを教えてください

ヒル この3年間は本当に大変な時期であったため、全員に納得してもらえるような結果を残すことは困難だったと思う。ANTOR−Japanとしては、アウトバウンドにお金をかけてくれる組織があるだけで非常にありがたい。世界中でもまれだ。

 プロモーション方法については、もう少しJATA会員の力を借りて活動していけば、より効果が望めるのではないかと思う。消費者向けの需要喚起も、通常のメディア露出やトレイン・ジャックなどでは、メッセージが伝わりにくい部分があるうえ、予算が限られるなかでそう多くのことはできない。

 それであれば、JATA会員である旅行会社の店舗を活用してはどうか。旅行会社は、ある意味メディアの一つだ。店舗の立地も良い。たとえばオンラインと店舗で時期ごとにデスティネーション・キャンペーンを展開すると、消費者に直接アピールでき、効果的な活動になると思う。


−日本市場でも海外旅行のFIT化が進んでいるといわれていますが、どのようにご覧になっていますか

ヒル 航空座席とホテルのみをセットにしたオンライン販売が増えていくことは、間違いない。国内旅行ではすでに広まっているので、次のステップとして近距離の海外旅行で一般化するだろう。電車やバスなどのフリーパスをセットにした商品も伸びると思う。

 ただし長距離の海外旅行では、オンライン販売は難しいのではないか。従来型のパッケージツアーの需要があると思う。また、年配の人には、近場であってもバスツアーが人気だ。ニュージーランドの場合でも、オーストラリアの年配の方たちが、あれだけ距離も近く、文化も言語も似通っているにもかかわらず、バスツアーでいらっしゃっている。


−従来型の旅行会社が競争力を高めるために必要なことは何だとお考えでしょうか

ヒル 「スペシャライゼーション」が重要な鍵となる。一般的な内容だと、旅行者の方がスペシャリストである場合も多い。旅行会社にはそれ以上の専門性が必要だ。デスティネーションのスペシャリストはもちろん、たとえばハイキング専門、サイクリング専門、旅行スタイルや目的についても専門性を高めていかなければならない。「何でも屋」という考え方はなくしてよいと思う。

 最近、FAMツアーが減ってきていると思う。この理由は、旅行会社がスタッフを出してくれないことがひとつ。また、特にリテール関連の部署で異動が多すぎるのも問題。せっかくお金をかけてFAMツアーなどを実施しても意味がなくなってしまう。ある人が5年間は同じデスティネーションの担当になると分かっていれば、我々ももっと積極的にトレーニングやFAMツアーなどの投資をしたいと思う。そして、そうすれば必ずセールスにつながっていく。

 また、パンフレットの作り方にも工夫を要するのではないか。旅行会社のパンフレットは影響力の大きいメディアだが、どの会社のパンフレットも文字ばかりで類似してしまっているように思う。まずはビジュアルで、デスティネーションの魅力を一番にアピールするべきではないかと思う。


−日本からのアウトバウンドが伸び悩むなかで、海外から日本市場への期待が変化しているとお考えですか

ヒル 確かに日本市場の低迷により、本局から予算やスタッフをカットされる状況に差し掛かっていた。昨今は中国やインドといった新興市場に勢いがあり、日本では海外旅行の価格低下が進むなか、旅行会社が他国との仕入競争に負けてしまう環境になりつつあると思うが、観光局にとっても日本市場の重要度が相対的に低下してきている。

 多くの在日観光局にとって、「これ以上日本人旅行者数が減少すると予算が出ないかもしれない」といった危機感があり、その意味で2010年は勝負の年だった。本局で日本市場が注目されなくなってしまう時期に差し掛かっていた。しかし、2010年が好調な結果となったため、日本市場に対する期待も再び上向きになると考えている。

 また、LCCの参入も助力となる。LCCは安さ優先の旅行になると思われるかもしれないが、海外の事例を見るとそればかりではない。飛行機で節約した分を現地での消費にまわす旅行者も多い。旅行会社もその点を考慮し、LCCの販売と同時にホテルのアップグレードを提案できると思う。


−海外旅行市場の拡大に向けて、課題や取り組みの案などがあればお聞かせください

ヒル 様々な要因があると思うが、おそらく言葉の問題が最も大きい。日本人は良い意味でプライド持っているため、海外に行って何もわからない、何もできないという状態が怖いのだと思う。また、海外旅行をテーマにする、あるいは海外で撮影するテレビ番組が減っていることも影響があるのではないか。その他の媒体も含めて、海外がどのようなことをできる場所なのかを紹介する場が減っているように思う。

 加えて、個人的には日本の魅力が大きいことも一因かと思う。小さな国でありながら北海道から沖縄まで豊かな自然、多様な文化が揃い、太平洋のビーチと雪山でのスキーが同じ国で同じ季節に楽しめ、東京のようなアーバンライフもある。食事がおいしく、サービスが良く、人々はフレンドリー、物価も安い。このような国は他になく、海外に行かなくても良いと思ってしまっても不思議ではない。最近になって、日本人がこうした魅力に気付き始めたのではないかと感じている。

 その意味で我々は、海外に行くとどういう気持ちになるか、どういう勉強になるか、というメリットを強く訴えていかなければならないだろう。業界の予算をあわせ、海外を紹介する番組を制作する方策も考えられると思う。


−ありがとうございました


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