新春トップインタビュー:楽天トラベル代表取締役社長の岡武公士氏
総合店舗機能を画面上で実現へ
地域発信の仕組み作りにも着手
業績好調を維持する楽天トラベルは、2010年度第3四半期決算でも2割近い増収増益を達成。2010年はダイナミックパッケージを強化し、国内「JAL楽パック」や海外「ANA楽パック」を開始した。グローバル展開についても広州やニューヨークに新現地法人を設立。海外拠点網を拡充し、将来への布石も着々と打っている。「総合旅行会社の店舗機能をすべて画面上で可能にしたい」と目標を掲げる代表取締役社長の岡武公士氏に、戦略の方向性と将来展開の予想図を語ってもらった。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
−2010年の振り返りからお聞かせください
岡武公士氏(以下、敬称略) 09年はシルバーウィーク効果があり、前年比という意味ではハードルは高かったが、夏休みに向けた早めの施策展開が奏功した。具体的には子供連れなど家族が泊まりやすいプランを施設側にも設定してもらい、夏休み需要の取り込みに成功した。営業担当のITC(インターネット・トラベル・コンサルタント)を増員し、施設とのつながりを強め、信頼感の確立ができていたことが効果を発揮したと思う。
国内、海外を含めてまずまずの年だったと評価している。海外はいまのところ中国、韓国、グアムが柱だが、それぞれ需要も競争相手も異なる。中国はビジネス利用が大部分。韓国はビジネスとレジャーが半々。グアムはレジャー利用だ。
レジャー需要については既存旅行会社との比較がポイントになっている。航空券とホテルだけであれば楽天トラベルはかなり力をつけている。しかし足回りを含めた場合、土産物店の立ち寄りで空港/ホテル間の送迎コストを捻出する既存旅行会社のパッケージと比較される。そうなると見かけの上で、我々のほうが高く見えてしまう。そのため、到着後に同行グループ全員が出国手続きを終えて揃うまで何十分も待つ必要がなく、すぐに行動できるFITの強みを打ち出し、例えば空港シャトルに乗ってホテルへ向かえるといった差別化を強化していかねばならない。実際に韓国では10人に1人以上が空港シャトルを使っていただいている。
−2011年の見通しと事業展開について教えてください
岡武 景気動向は、2011年は底打ちして少し上向くとみている。ビジネス渡航需要のシェアがそれなりにあるため、景気動向の影響を我々も感じる。しかしレジャーについては、景気動向などが影響するほどのビジネス規模に達していないため、むしろ我々がやるべきことをきちんとやることが重要だと考えている。
具体的には足回り、ランド、添乗員の強化だ。航空券とホテルのダイナミックパッケージから、旅行に関するすべての素材をユーザー自身で自由に組み立てられるマルチダイナミックパッケージへ進化していきたい。ユーザーが画面の前ですべて予約できる。そうした体制をめざす。また事業拡大にあわせて毎年サーバーをリプレースし、スピードを確保している。2011年も同様だ。
さらに、地域発信ができる仕組み作りにも取り組む。地域発信とはつまりランド情報の発信の一つだ。旅行した先で何をするか。それがジャガイモ掘りでもいい。そうした素材提供者に楽天トラベルを通じて情報発信してほしい。それに必要な予約システムは我々が用意する。例えばホテルで「船盛り付き」とすれば単なる食事のオプションだが、「スパ付き」とすれば体験素材になる。「スパ付き」が「ジャガイ掘り」に替わってもいいわけだ。こうした提案がどんどんできるようにシステムを拡張していく。
−今後の成長についてどのようなビジョンを描いていますか
岡武 長期ビジョンのなかでは、楽天トラベルの事業全体に占める国内宿泊単品のシェアは(他の伸びに伴って)低下していくだろうし、伸び率も鈍化するとシミュレーションしている。これは当然の成り行きだろう。これまでの10年間は宿泊単品で成長していきたが、ここ2、3年で足回りが付いた旅行を扱うようになってきた。楽天トラベルとして今後、この分野に期待するのは当然だ。また、既存大手旅行会社の国内と国際の現状の比率をみると、おおむね3対1といったところだが、我々は中国から中国や韓国からグアムなど、海外発海外の需要もねらっている以上、日本国内の取り扱いと、海外での取り扱いの比率は半々くらいをめざしたいと思う。
ただ、中国は市場が大きく文化も異なる。巨大なコールセンターが機能していて、インターネットを使わずに予約される傾向がある。会話を交わしながら商品情報などの信憑性を確かめ、購買する文化もある。その意味でコールセンターの対応が欠かせない面がある。こうした市場特性にあわせて楽天トラベルもコールセンターを増やしている。一方、中国の旅行ポータル「CTRIP」は月間90万件の予約があるといわれるが、伸び率は鈍化しているようだ。宿泊単品でみると、やはりコールセンターの機能には限界があるとも思う。
海外拠点は、日本人旅行者の数が多い場所に順次開設している。この方針は変わらない。現在、現地法人があるのは、台湾、香港、北京、上海、大連、広州、ソウル、バンコク、グアム、ハワイ。さらに先日、11ヶ所目の海外拠点としてニューヨーク現地法人も設立した。また、米国のBuy.com やフランスのPriceMinisterが楽天グループであり、旅行部門を持つケースもある。そういった企業と連携していきたい。
−かつて楽天トラベルは旅行会社ではないといった趣旨の発言をされていましたが、現在のビジネスモデルをどのように捉えていらっしゃるでしょうか
岡武 一般的に旅行会社は、募集型企画旅行をする旅行会社、手配旅行の旅行会社といった区別がされてきたが、旅行者は募集型や手配の差を意識していない。では我々は何をすべきか。もちろん決め事は守るが、そのうえで何をするかだ。
例えばどこかで暴動が起きた場合、募集型旅行の参加者に連絡を取るが、手配旅行は取らない。なぜなのか。以前であれば、航空券だけの購入者の所在をつかめないから、あるいはホテル宿泊だけを買った旅行者は旅程が分からないから、連絡の取りようがなかった。しかし、いまでは携帯とメールで連絡がつく。だから楽天トラベルは全員に連絡を取る。旅行者が意識してもいないような募集型、手配の別などを理由にして、サービスの内容に差をつけたりするべきでない。そういう意味において、既存の旅行会社のありかたとは異なると言った。
一方で、インターネット予約がトラブルにつながりやすい一面を持つのは事実。したがって、現地サービス体制の充実は欠かせない。すでに楽天トラベルは24時間体制でトラブルに対応している。しかし、例えば中国の場合、現地スタッフの日本語力の問題で旅行者に不満を与えてしまうこともある。そこで日本サイドで365日・24時間体制で対応できるよう改良中だ。今後もトラブル対応や現地サービス体制の向上に心がけたい。
−ありがとうございました
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地域発信の仕組み作りにも着手
業績好調を維持する楽天トラベルは、2010年度第3四半期決算でも2割近い増収増益を達成。2010年はダイナミックパッケージを強化し、国内「JAL楽パック」や海外「ANA楽パック」を開始した。グローバル展開についても広州やニューヨークに新現地法人を設立。海外拠点網を拡充し、将来への布石も着々と打っている。「総合旅行会社の店舗機能をすべて画面上で可能にしたい」と目標を掲げる代表取締役社長の岡武公士氏に、戦略の方向性と将来展開の予想図を語ってもらった。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
−2010年の振り返りからお聞かせください
岡武公士氏(以下、敬称略) 09年はシルバーウィーク効果があり、前年比という意味ではハードルは高かったが、夏休みに向けた早めの施策展開が奏功した。具体的には子供連れなど家族が泊まりやすいプランを施設側にも設定してもらい、夏休み需要の取り込みに成功した。営業担当のITC(インターネット・トラベル・コンサルタント)を増員し、施設とのつながりを強め、信頼感の確立ができていたことが効果を発揮したと思う。
国内、海外を含めてまずまずの年だったと評価している。海外はいまのところ中国、韓国、グアムが柱だが、それぞれ需要も競争相手も異なる。中国はビジネス利用が大部分。韓国はビジネスとレジャーが半々。グアムはレジャー利用だ。
レジャー需要については既存旅行会社との比較がポイントになっている。航空券とホテルだけであれば楽天トラベルはかなり力をつけている。しかし足回りを含めた場合、土産物店の立ち寄りで空港/ホテル間の送迎コストを捻出する既存旅行会社のパッケージと比較される。そうなると見かけの上で、我々のほうが高く見えてしまう。そのため、到着後に同行グループ全員が出国手続きを終えて揃うまで何十分も待つ必要がなく、すぐに行動できるFITの強みを打ち出し、例えば空港シャトルに乗ってホテルへ向かえるといった差別化を強化していかねばならない。実際に韓国では10人に1人以上が空港シャトルを使っていただいている。
−2011年の見通しと事業展開について教えてください
岡武 景気動向は、2011年は底打ちして少し上向くとみている。ビジネス渡航需要のシェアがそれなりにあるため、景気動向の影響を我々も感じる。しかしレジャーについては、景気動向などが影響するほどのビジネス規模に達していないため、むしろ我々がやるべきことをきちんとやることが重要だと考えている。
具体的には足回り、ランド、添乗員の強化だ。航空券とホテルのダイナミックパッケージから、旅行に関するすべての素材をユーザー自身で自由に組み立てられるマルチダイナミックパッケージへ進化していきたい。ユーザーが画面の前ですべて予約できる。そうした体制をめざす。また事業拡大にあわせて毎年サーバーをリプレースし、スピードを確保している。2011年も同様だ。
さらに、地域発信ができる仕組み作りにも取り組む。地域発信とはつまりランド情報の発信の一つだ。旅行した先で何をするか。それがジャガイモ掘りでもいい。そうした素材提供者に楽天トラベルを通じて情報発信してほしい。それに必要な予約システムは我々が用意する。例えばホテルで「船盛り付き」とすれば単なる食事のオプションだが、「スパ付き」とすれば体験素材になる。「スパ付き」が「ジャガイ掘り」に替わってもいいわけだ。こうした提案がどんどんできるようにシステムを拡張していく。
−今後の成長についてどのようなビジョンを描いていますか
岡武 長期ビジョンのなかでは、楽天トラベルの事業全体に占める国内宿泊単品のシェアは(他の伸びに伴って)低下していくだろうし、伸び率も鈍化するとシミュレーションしている。これは当然の成り行きだろう。これまでの10年間は宿泊単品で成長していきたが、ここ2、3年で足回りが付いた旅行を扱うようになってきた。楽天トラベルとして今後、この分野に期待するのは当然だ。また、既存大手旅行会社の国内と国際の現状の比率をみると、おおむね3対1といったところだが、我々は中国から中国や韓国からグアムなど、海外発海外の需要もねらっている以上、日本国内の取り扱いと、海外での取り扱いの比率は半々くらいをめざしたいと思う。
ただ、中国は市場が大きく文化も異なる。巨大なコールセンターが機能していて、インターネットを使わずに予約される傾向がある。会話を交わしながら商品情報などの信憑性を確かめ、購買する文化もある。その意味でコールセンターの対応が欠かせない面がある。こうした市場特性にあわせて楽天トラベルもコールセンターを増やしている。一方、中国の旅行ポータル「CTRIP」は月間90万件の予約があるといわれるが、伸び率は鈍化しているようだ。宿泊単品でみると、やはりコールセンターの機能には限界があるとも思う。
海外拠点は、日本人旅行者の数が多い場所に順次開設している。この方針は変わらない。現在、現地法人があるのは、台湾、香港、北京、上海、大連、広州、ソウル、バンコク、グアム、ハワイ。さらに先日、11ヶ所目の海外拠点としてニューヨーク現地法人も設立した。また、米国のBuy.com やフランスのPriceMinisterが楽天グループであり、旅行部門を持つケースもある。そういった企業と連携していきたい。
−かつて楽天トラベルは旅行会社ではないといった趣旨の発言をされていましたが、現在のビジネスモデルをどのように捉えていらっしゃるでしょうか
岡武 一般的に旅行会社は、募集型企画旅行をする旅行会社、手配旅行の旅行会社といった区別がされてきたが、旅行者は募集型や手配の差を意識していない。では我々は何をすべきか。もちろん決め事は守るが、そのうえで何をするかだ。
例えばどこかで暴動が起きた場合、募集型旅行の参加者に連絡を取るが、手配旅行は取らない。なぜなのか。以前であれば、航空券だけの購入者の所在をつかめないから、あるいはホテル宿泊だけを買った旅行者は旅程が分からないから、連絡の取りようがなかった。しかし、いまでは携帯とメールで連絡がつく。だから楽天トラベルは全員に連絡を取る。旅行者が意識してもいないような募集型、手配の別などを理由にして、サービスの内容に差をつけたりするべきでない。そういう意味において、既存の旅行会社のありかたとは異なると言った。
一方で、インターネット予約がトラブルにつながりやすい一面を持つのは事実。したがって、現地サービス体制の充実は欠かせない。すでに楽天トラベルは24時間体制でトラブルに対応している。しかし、例えば中国の場合、現地スタッフの日本語力の問題で旅行者に不満を与えてしまうこともある。そこで日本サイドで365日・24時間体制で対応できるよう改良中だ。今後もトラブル対応や現地サービス体制の向上に心がけたい。
−ありがとうございました
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