ITソリューション特集:コラム<ITソリューションの有効活用>(6)

  • 2010年12月22日
ITソリューションの有効活用で旅行ビジネスが変わる
コラム第6回:クラウドの有効活用でビジネスが変わる!(その1)


 グーグル(Google)やセールスフォースなどのアメリカ企業が「クラウド」を引っさげて、次々と企業向けIT市場に乗り込んできている。昨年はジェイティービー(JTB)がグーグルの「グーグル・アップス(Google Apps)」を導入するというニュースが話題を呼んだが、旅行業界にとって、クラウドコンピューティングがもたらすものは何なのだろうか?クラウドの本質を理解し、導入していくことにより、業務やシステムに対する考え方がどう変わっていくのか?第6回では、クラウドの基本的な解説でそのメリットを理解していただき、旅行業界で活かすため導入分野についてお伝えしたい。


クラウドコンピューティングが旅行販売の仕組みを変えるのか?

 クラウドコンピューティングというのは、誰もが使うアプリケーション、演算能力、データ格納領域などを、ニーズに応じて必要な分だけ借りて、使った分だけ利用料を支払うという仕組みである。クラウドを導入することにより、旅行ビジネスのコアの部分である販促や販売に効果を発揮するものではなく、クラウドがビジネスに変革をもたらすのは、まさにそのコア「以外」の部分だ。しかしながら、このコアの部分を支える業務において、日々オフィスで起こるソフトウェアのトラブル、マシンの故障、サーバーの保守作業など、企業にとっては大きな負担になる。クラウドを活用すれば、こういったITのコストや負担を大幅に減らし、本来取り組むべきことに集中できる環境を作り出すことが可能になるのだ。

 クラウドという言葉は最近になって注目をあび始めたが、その技術自体は決して新しいものではない。これまでは、システムインフラを構築・整備するために、多額の初期投資が必要となっていた。しかし、クラウドではそのサービスを利用すれば、その裏で構築されている大規模な設備について思いを馳せる必要もなく、コンピューティングパワーだけを水道の蛇口をひねるような感覚で、手軽に、必要な分だけ使うことができるのだ。

 このように、ソフトウェアからシステム基盤まで、まるで雲の向こうの見えない場所(ネットワーク上に存在するサーバー)からインターネットを通して提供されるようになってきた現象全体を、総称してクラウドと呼ぶようになったのである。



なぜ、いまクラウドなのか?
−常に最新のテクノロジーが使え、システム構築や運用管理を軽くする


 社内において、ソフトウェアのバージョン不揃いが問題になるケースは多い。最近PCを新調した部署では最新のオフィス2010(Office2010)を使う一方で、まだオフィス2000(Office2000)を使っている部署があるといったようなことはないだろうか。しかし、ソフトウェアの購入には多額の費用がかかり、常にすべてのPCに最新版のソフトウェアを導入するのは手間もかかることになる。こういった作業環境に起因する生産性や業務効率の低下は、決して無視できないものだ。

 クラウドで提供されるアプリケーションでは、ソフトウェアの改良はすぐに全ての利用者に反映され、バージョンアップの都度、費用が発生しない。常に全員が最新版を利用できる環境が、自前で運用管理をすることなく維持することが可能なのである。

 また、システムを構築する場合、利用規模、利用内容、外部環境、もちろん投資コストなど様々なことを考慮しながらインフラの規模や性能を決定していくことになるが、投資コストの額を考えると、決定にはかなりの手間と不測の事態に対するリスクを抱えなくてはならない。そして、構築後は安定稼働のために運用管理のコストも発生することになる。現在のように環境やテクノロジーの急激な変化が常に起こりうる場合、システムはすぐ陳腐化して、使いづらいものになってしまう可能性は大きい。クラウドコンピューティングなら、構築後に最新のものにアップグレードすることが容易であったり、運用管理コストを削減できたりすることから、それらの問題にスピードと柔軟性をもって、対応することが可能になるのだ。


メールやグループウェアなどの一般的なツールはクラウド向き

 クラウドアプリケーションの導入に一番向いている分野は、メールやグループウェアなどの一般的なビジネスツールだ。これまでに、アウトルック(Outlook)のメールボックスがあふれてしまったり、PCの買い替えでメールデータの移行に苦労した経験があったりするなら、すぐにクラウドに乗り換えるだろう。メールソフトを使い慣れた人には、最初はブラウザ上で全ての作業をすることに抵抗があるかもしれないが、すぐにその便利さに気づくはずだ。

 グーグル・アップスは1ユーザーあたり年間6000円程度のコストがかかる。しかしPCの障害やサポート、メールサーバーの保守管理など、IT部門の負担が大きく軽減できることを考えると、多くの企業ではトータルでコストの削減につながるだろう。もちろん大企業だけではなく、どんな小規模の組織でも十分な恩恵を受けられる。グーグル・アップスは、50名以下の組織であれば利用料は無料なのだ。

 もうひとつ、クラウド型のメールサービスを利用するメリットがある。それは、メールデータの長期間のバックアップが可能になることだ。近年はコンプライアンスの強化のため、従業員のメールのやりとりをすべて一定期間保存するという企業が増えている。その仕組みを独自に構築するには多大なコストがかかってしまうが、クラウドであれば安価なメールのアーカイブサービスが利用できることになる。

次回は、クラウドの導入事例を交え、有効活用について述べていく。



執筆:梶原 聡(株式会社山敷広告制作所 取締役副社長)
http://www.yamako.jp/index.shtml

 大手航空会社にてホームページの立ち上げからウェブに
おける販売・販促に従事、一貫してマーケティング・セー
ルスを経験したのち、旅行販促に特化した山敷広告制作所
に入社。広告制作のみならず、旅行のプロモーション企画
やITソリューションなど幅広く対応。現在に至る。