現地レポート:シンガポール、ユニークな教育旅行に注目
シンガポールでユニークな教育旅行素材に注目
F1関連から自然学習、パフォーマンス体験まで
教育旅行のデスティネーションとしても高い人気を誇るシンガポール。その理由は世界屈指の治安の良さや高度なインフラに加え、自然や文化など様々な教育素材が豊富なためであるが、さらに新しい視点での教育旅行プログラムも続々と誕生している。今回は新しい教育旅行素材として注目を集めているモータースポーツのF1グランプリや熱帯植物、児童劇団、ミュージック・アカデミーなどを取り入れた素材を現地で取材した。
モータースポーツのF1を素材に
ミニチュア版F1プログラムも
モータースポーツの最高峰であるF1グランプリ。毎年9月後半に開催される「シンガポール・グランプリ」はF1唯一のナイトレースとして知られ、期間中はマリーナベイの市街地サーキットが美しくライトアップされる。同地区に今年オープンした大型5ツ星ホテル「マリーナベイ・サンズ」の屋上展望テラス「スカイパーク」(地上200メートル)からは、周辺のイルミネーションとあいまって思わず息を飲むような光景を楽しむことができた。
さらに今年は、F1関連の学生向けプログラム「F1イン・スクールズ」の世界選手権大会が近隣のコンラッドホテルのボールルームで開催された。
F1イン・スクールズは9歳から19歳までを対象に、F1カーさながらのミニチュア・マシンを製作し、スピードやデザイン、チームワークなどを競いあうもの。1999年にイギリスで発足し、現在は世界31ヶ国の学校が参加している。2005年にF1運営組織が正式にサポーターとなっているが、完全なNPO(非営利団体)でもある。
今年で6回目となる世界選手権大会には、シンガポールやイギリスはじめ世界18ヶ国、25チームが参加。会場にはオリジナルのユニフォームに身を包んでレースに挑む生徒たちのほか、応援団や教師、父兄などで盛り上がる。また、マシンの製造過程や関連グッズを展示した美しいプレゼンブースが並ぶが、これらもチームの生徒自らがディスプレイし、審査の対象にもなっている。
総合優勝はアメリカのジェームズ・マディソン中学校とサウスイースト高校の混成チームが獲得した。賞品はF1の最高責任者であるバーニー・エクレストン氏の名を冠したトロフィーと、自動車工学を学ぶためのロンドン市立大学への奨学金、そして開催中のF1グランプリのパドックにチーム全員が招待される。
F1イン・スクールズの創設者兼会長のアンドリュー・デンフォード氏は「F1イン・スクールズは、単に速さや性能を競うものではない」と趣旨を説明する。1チーム3人から5人の生徒たちがそれぞれ担当を決めてスポンサー探しなどの資金集め、ミニカーの設計及び製造、マーケティング戦略などすべて自分たちで計画し、実現していくものであり、「一連のプログラムを通して物理や空気力学、ブランディング、デザイン、グラフィックス、マーケティング、メディア戦略、財務戦略、リーダシップ及びチームワークなどを学ぶことができる」とアピール。「まさに実際のF1プロジェクトのミニチュア版。勝敗に関わらず、生徒たちの達成感は大きく、その後の進路にもポジティブな影響がある」とその意義を語る。
大会に参加した生徒も「大会の前後に生徒同士の交流会などもあり、いろいろな国の友人ができた。この日まで、大変なこともありましたが、本当にやって良かった。一生の思い出です」と嬉しそうに語る。
なお、F1イン・スクールズは、対象年齢は9歳から19歳で、通常のレースとドラッグレースの2つのカテゴリーを設定。11歳から14歳、14歳から16歳、14歳から19歳に分けられ、11歳から14歳は通常のレースのカテゴリーのみだ。1チームは3人から5人で、1学校につき1チームのみが出場。インターネットが使える環境にあれば、専門を問わずどんな学校でも参加でき、基本的に国内で優勝したチームがワールドファイナルに出場できる。ワールドファイナルは毎年、開催国が異なり、今年はシンガポールでの開催となった。現在、日本の参加チームはないという。
野鳥の生態を飼育の舞台裏から観察
熱帯に生息する多様な生態を体感
もちろん、シンガポールの注目すべき教育旅行素材はF1だけではない。例えば、熱帯に属するシンガポールは、野生生物の観察に適した施設がいくつもある。有名なのがナイトサファリやシンガポール動物園だろう。今回訪れた「ジュロン・バードパーク」も毎年約90万人が訪れる人気スポットだ。自然あふれる園内には約600種8000羽もの鳥類が、ほとんど檻のない状態で飼育展示されていた。
ここでは様々な教育プログラムが用意されている。例えば「ビハインド・ザ・シーン・ツアー」(舞台裏ツアー)では園内にある鳥の病院を見学したり、ふ化したばかりのヒナへの給餌を間近に観察したりできる。また、園内に泊まる「キャンプ」プログラムもあり、国内外の生徒たちに非常に好評だ。
また、シンガポール本土と橋で結ばれているセントーサ島は、総合リゾートや動く水中トンネルのある水族館として知られる「アンダーウォーターワールド」、テーマパークの「ユニバーサルスタジオ」などがオープンしたレジャーアイランドとして知られるが、熱帯植物が生い茂る自然豊かな島でもある。この島にある「セントーサ・デベロップメント・コーポレーション」で実施される「セントーサ・ネイチャー・ディスカバリー・ジャーニーズ」は、その多様な植物のほか、野鳥や蝶類、小動物など熱帯に棲む生物の生態を間近に体感できるプログラムだ。雨天の場合でも屋内に整備された展示室があり、インタラクティブな教材で学ぶことが可能。生徒たちにはドリル様式のカリキュラムブック(英語)が配布されるので、生きた語学学習にもなる。
ダンスやコーラスで生徒間に結束力
本格ステージでミュージシャン体験なども
中高生のみならず、成人にも非常に有効なカリキュラムとなるのが、シンガポールの有名な児童劇団「プレシャス・エンタティメント」での「パフォーミング・アーツ・キャンプ・バイ・プレシャス・エンタテイメント」プログラム。ツイストなど初心者でも楽しめるようなダンスの振り付けや、誰もが知っているポップソングのコーラスなどは、旅先で緊張した心身をなごませてくれる。また演技のワークショップでは参加者同士の信頼を強めるチームビルディングの効果もある。
例えばチームの代表者が与えられた課題に沿ってジェスチャーをし、他のメンバーがそれをいい当て、早く当てたチームが勝つといった競技などは、年齢や性別を問わず熱中でき、チームに一体感を生む。たとえ数時間でもこうしたプログラムを取り入れると生徒間の結束力も強まり、楽しい旅の思い出として心に刻まれていくだろう。
さらに本格的なステージでミュージシャンを体験できる「ティンバー・ミュージック・アカデミー」も、教育旅行のユニークな素材となる。ロックやポップ音楽を中心とした音楽スクールで、講師陣は20代から30代のシンガポールで人気の現役ミュージシャンが担当。ボーカルをはじめギター、ベース、ドラムのほか、マラカスやギロなどの小楽器を使った演奏を学ぶことができる。団体向けには半日のカリキュラムを組むことも可能だ。
スクールには半屋外のライブステージが併設されていて、生徒たちは学習の成果をPAシステムの整った本格ステージで披露できる。演奏の様子を録画してDVDとして渡してくれるサービスも提供しているほか、YouTubeにアップすることもできるため、帰国前に日本の家族や関係者に観てもらうこともでき、無事確認を兼ねることも。文化祭などでは間違いなく興味深い発表をすることができるだろう。
▽各素材のホームページ
F1イン・スクールズ http://www.f1inschools.com.sg/index.html
ジュロン・バードパーク http://www.birdpark.com.sg/
セントーサ・ネイチャー・ディスカバリー http://www.sentosa.com.sg/en/
プレシャス・エンタティメント http://www.preciousentertainment.com/academy.php
ティンバー・ミュージック・アカデミー http://www.tma.com.sg/
F1関連から自然学習、パフォーマンス体験まで
教育旅行のデスティネーションとしても高い人気を誇るシンガポール。その理由は世界屈指の治安の良さや高度なインフラに加え、自然や文化など様々な教育素材が豊富なためであるが、さらに新しい視点での教育旅行プログラムも続々と誕生している。今回は新しい教育旅行素材として注目を集めているモータースポーツのF1グランプリや熱帯植物、児童劇団、ミュージック・アカデミーなどを取り入れた素材を現地で取材した。
モータースポーツのF1を素材に
ミニチュア版F1プログラムも
モータースポーツの最高峰であるF1グランプリ。毎年9月後半に開催される「シンガポール・グランプリ」はF1唯一のナイトレースとして知られ、期間中はマリーナベイの市街地サーキットが美しくライトアップされる。同地区に今年オープンした大型5ツ星ホテル「マリーナベイ・サンズ」の屋上展望テラス「スカイパーク」(地上200メートル)からは、周辺のイルミネーションとあいまって思わず息を飲むような光景を楽しむことができた。
さらに今年は、F1関連の学生向けプログラム「F1イン・スクールズ」の世界選手権大会が近隣のコンラッドホテルのボールルームで開催された。
F1イン・スクールズは9歳から19歳までを対象に、F1カーさながらのミニチュア・マシンを製作し、スピードやデザイン、チームワークなどを競いあうもの。1999年にイギリスで発足し、現在は世界31ヶ国の学校が参加している。2005年にF1運営組織が正式にサポーターとなっているが、完全なNPO(非営利団体)でもある。
今年で6回目となる世界選手権大会には、シンガポールやイギリスはじめ世界18ヶ国、25チームが参加。会場にはオリジナルのユニフォームに身を包んでレースに挑む生徒たちのほか、応援団や教師、父兄などで盛り上がる。また、マシンの製造過程や関連グッズを展示した美しいプレゼンブースが並ぶが、これらもチームの生徒自らがディスプレイし、審査の対象にもなっている。
総合優勝はアメリカのジェームズ・マディソン中学校とサウスイースト高校の混成チームが獲得した。賞品はF1の最高責任者であるバーニー・エクレストン氏の名を冠したトロフィーと、自動車工学を学ぶためのロンドン市立大学への奨学金、そして開催中のF1グランプリのパドックにチーム全員が招待される。
F1イン・スクールズの創設者兼会長のアンドリュー・デンフォード氏は「F1イン・スクールズは、単に速さや性能を競うものではない」と趣旨を説明する。1チーム3人から5人の生徒たちがそれぞれ担当を決めてスポンサー探しなどの資金集め、ミニカーの設計及び製造、マーケティング戦略などすべて自分たちで計画し、実現していくものであり、「一連のプログラムを通して物理や空気力学、ブランディング、デザイン、グラフィックス、マーケティング、メディア戦略、財務戦略、リーダシップ及びチームワークなどを学ぶことができる」とアピール。「まさに実際のF1プロジェクトのミニチュア版。勝敗に関わらず、生徒たちの達成感は大きく、その後の進路にもポジティブな影響がある」とその意義を語る。
大会に参加した生徒も「大会の前後に生徒同士の交流会などもあり、いろいろな国の友人ができた。この日まで、大変なこともありましたが、本当にやって良かった。一生の思い出です」と嬉しそうに語る。
なお、F1イン・スクールズは、対象年齢は9歳から19歳で、通常のレースとドラッグレースの2つのカテゴリーを設定。11歳から14歳、14歳から16歳、14歳から19歳に分けられ、11歳から14歳は通常のレースのカテゴリーのみだ。1チームは3人から5人で、1学校につき1チームのみが出場。インターネットが使える環境にあれば、専門を問わずどんな学校でも参加でき、基本的に国内で優勝したチームがワールドファイナルに出場できる。ワールドファイナルは毎年、開催国が異なり、今年はシンガポールでの開催となった。現在、日本の参加チームはないという。
野鳥の生態を飼育の舞台裏から観察
熱帯に生息する多様な生態を体感
もちろん、シンガポールの注目すべき教育旅行素材はF1だけではない。例えば、熱帯に属するシンガポールは、野生生物の観察に適した施設がいくつもある。有名なのがナイトサファリやシンガポール動物園だろう。今回訪れた「ジュロン・バードパーク」も毎年約90万人が訪れる人気スポットだ。自然あふれる園内には約600種8000羽もの鳥類が、ほとんど檻のない状態で飼育展示されていた。
ここでは様々な教育プログラムが用意されている。例えば「ビハインド・ザ・シーン・ツアー」(舞台裏ツアー)では園内にある鳥の病院を見学したり、ふ化したばかりのヒナへの給餌を間近に観察したりできる。また、園内に泊まる「キャンプ」プログラムもあり、国内外の生徒たちに非常に好評だ。
また、シンガポール本土と橋で結ばれているセントーサ島は、総合リゾートや動く水中トンネルのある水族館として知られる「アンダーウォーターワールド」、テーマパークの「ユニバーサルスタジオ」などがオープンしたレジャーアイランドとして知られるが、熱帯植物が生い茂る自然豊かな島でもある。この島にある「セントーサ・デベロップメント・コーポレーション」で実施される「セントーサ・ネイチャー・ディスカバリー・ジャーニーズ」は、その多様な植物のほか、野鳥や蝶類、小動物など熱帯に棲む生物の生態を間近に体感できるプログラムだ。雨天の場合でも屋内に整備された展示室があり、インタラクティブな教材で学ぶことが可能。生徒たちにはドリル様式のカリキュラムブック(英語)が配布されるので、生きた語学学習にもなる。
ダンスやコーラスで生徒間に結束力
本格ステージでミュージシャン体験なども
中高生のみならず、成人にも非常に有効なカリキュラムとなるのが、シンガポールの有名な児童劇団「プレシャス・エンタティメント」での「パフォーミング・アーツ・キャンプ・バイ・プレシャス・エンタテイメント」プログラム。ツイストなど初心者でも楽しめるようなダンスの振り付けや、誰もが知っているポップソングのコーラスなどは、旅先で緊張した心身をなごませてくれる。また演技のワークショップでは参加者同士の信頼を強めるチームビルディングの効果もある。
例えばチームの代表者が与えられた課題に沿ってジェスチャーをし、他のメンバーがそれをいい当て、早く当てたチームが勝つといった競技などは、年齢や性別を問わず熱中でき、チームに一体感を生む。たとえ数時間でもこうしたプログラムを取り入れると生徒間の結束力も強まり、楽しい旅の思い出として心に刻まれていくだろう。
さらに本格的なステージでミュージシャンを体験できる「ティンバー・ミュージック・アカデミー」も、教育旅行のユニークな素材となる。ロックやポップ音楽を中心とした音楽スクールで、講師陣は20代から30代のシンガポールで人気の現役ミュージシャンが担当。ボーカルをはじめギター、ベース、ドラムのほか、マラカスやギロなどの小楽器を使った演奏を学ぶことができる。団体向けには半日のカリキュラムを組むことも可能だ。
スクールには半屋外のライブステージが併設されていて、生徒たちは学習の成果をPAシステムの整った本格ステージで披露できる。演奏の様子を録画してDVDとして渡してくれるサービスも提供しているほか、YouTubeにアップすることもできるため、帰国前に日本の家族や関係者に観てもらうこともでき、無事確認を兼ねることも。文化祭などでは間違いなく興味深い発表をすることができるだろう。
▽各素材のホームページ
F1イン・スクールズ http://www.f1inschools.com.sg/index.html
ジュロン・バードパーク http://www.birdpark.com.sg/
セントーサ・ネイチャー・ディスカバリー http://www.sentosa.com.sg/en/
プレシャス・エンタティメント http://www.preciousentertainment.com/academy.php
ティンバー・ミュージック・アカデミー http://www.tma.com.sg/
取材協力:シンガポール政府観光局
取材:本田泉