取材ノート:携帯ゲームから生まれる若年層の旅行需要−観光振興セミナー
リクルート旅行カンパニーじゃらんリサーチセンター(JRC)は先ごろ、観光振興に携わる行政関係機関の関係者を対象とした「観光振興セミナー」を開催した。会場は約200名の出席者で満員となり、関心の高さがうかがえた。現在、「若者の旅行離れ」が多くの観光・旅行業界関係者の頭を悩ませているが、JRCでは若年層の旅行需要を生み出す方法のひとつとして若者に身近な携帯ゲームと旅行を融合した実証実験を行ない、その成果をセミナーで発表した。将来のリーディングマーケットとなるべき若年層をどう取り込むか。JRCの研究発表からそのヒントと可能性を探る。
旅行意識の低い旅行0回層
「きっかけ作り」が重要
JRC研究員の加藤史子氏によると、じゃらん宿泊旅行調査に基づいた性・年代別ののべ宿泊旅行者数動向では、50歳から79歳の熟年・シニアの層が市場の半数以上を占めるのに対し、20歳から34歳の若年層は年々減少し、5年前の4538万人に対して現在は3755万人、つまり783万人も減少していると説明した。また、観光庁の「旅行・観光消費動向調査」によると1年間に一度も国内旅行に行っていない若年層の「旅行0回層」が2003年は20代前半で33.5%、20代後半で20.0%だったのに対し、2007年には20代前半で41.3%、20代後半で34.1%とそれぞれ増加。さらに、若年層のうち大学生、社会人いずれも旅行経験がない場合、過半数の人が「旅行に行く」という意識自体が低いという傾向が見られるという。
一方、2007年のじゃらん国内旅行意識調査によると国内旅行に「行きたい」という人は全体では9割と高いが、そのきっかけは「家族や友人に誘われた」(49.5%)と受動的なことが多い。加藤氏は「旅行に行くきっかけづくりが重要」として、20代から30代に影響を与えるメディアについて触れ、携帯電話やインターネットの急激な普及の影響を受けた30歳以上の団塊ジュニアの「eビジネスマン世代」や、デジタルネイティブと言われる若年層を中心とした「eジェネレーション世代」にとって「日常的に接するIT、携帯、ゲーム、アニメ、映画などは旅行の『競合』ではなく『シナジー』になる」と強調した。
携帯ゲームと連動したバスツアー
旅行前と後の参加者の意識に変化
そこでJRCでは携帯電話ゲーム「コロニーな生活☆PLUS」(コロプラ)を用いた実証事業を行なった。コロプラとは携帯電話を利用した無料オンラインゲームで、携帯電話の位置情報(GPS)機能を利用し、自分の移動距離や現在地に応じて仮想空間での通貨やアイテムを獲得していくというもので、各都道府県で訪れた地域が一定数を超えるとスタンプを獲得できるというスタンプラリー機能もついている。
実証事業は昨年8月から9月に九州(福岡、佐賀、長崎)での1泊2日のバスツアーとして2回催行。募集は約1ヶ月前から開始し、羽田、福岡を出発地として設定したこのツアーには2回で合計114名が参加した。参加者のうち8割が20代から30代で、男女の人数はほぼ同数。同行者もカップル、友人、夫婦、家族とさまざまだったが、3割が1人での参加だった。また、参加者の旅行頻度は過去1年間で日帰り旅行を6回以上した人が42%、宿泊旅行6回以上した人が23%と旅好きが多い一方、日帰り旅行がほぼ0回という人が22%、宿泊旅行0回も14%おり、今回の企画が普段旅行をしない人が旅をする後押しとなったようだ。
ツアーでは参加者はバスの車中で携帯を操作しゲームを楽しんでいたほか、ゲーム内の掲示板の書き込みなどを通じて参加者同士の交流を深めた。実際、掲示板はバス車内での自己紹介を含め300件を超えたという。また、ゲーム空間と「リアル」が組みあわさった企画もあり、訪れた有田焼の窯元で有田焼を実際に購入した参加者にはゲームでも有田焼を獲得できる「コロカ」というカードが進呈された。
一方、ツアーにはゲームとは直接関係のない観光地も含まれたが、オプショナルツアーとして組み込まれた長崎県の波佐見町での「石玉盆栽づくり体験」には約70名が参加したという。また、参加者へのアンケートによると参加前には参加者のうち半数以上が「スタンプの取得」「(ゲーム内の)お土産の取得」などゲーム自体に興味を示していたものの、ツアー後には「波佐見での夕食」など地域や人との交流という点に満足度が高かった。「このようなツアーにまた参加したい」といった声が聞かれ、1回目、2回目のツアー全体の満足度も85%にのぼったという。きっかけはゲームでも「リアル」旅行の満足度も高かったということがうかがえる。
携帯ゲームが創り出す旅行需要
「メディアの住民」となってサービス提供を
加藤氏はこのほかにも携帯やゲームを活用した観光地の成功事例を紹介した。例えば、「戦国BASARA」という戦国武将が登場するゲームではご当地の武将が登場するため、歴女(れきじょ)といわれる歴史好きの女性が、武将の墓めぐりにその地域を訪れていることを紹介。こうした効果もあって、ゲームショーでは地方自治体がゲームメーカーに対し「武将」を売り込む姿が見られるという。
また、今年の7月から8月にかけて、熱海市は恋愛ゲーム「ラブプラス+」のキャンペーンを展開。「熱海ラブプラス現象(まつり)」と題し、ゲーム内でできた「カノジョ」と旅行をするユーザーに対し、ロープウェーなど観光施設の割引や、提携旅館で希望者には「お2人分のお布団を敷きます」というユニークなサービスも提供した。
加藤氏はより多くの若者に旅を体験してもらうためには「一方的な情報発信をするのではなく、メディアの住民になって彼らが興味を持つことに耳を傾ける」ことが重要だとして、その上でサービスを考え、提供することで普段旅行に行かない若年層が旅体験をする「きっかけ」となり、満足度の高い旅行が実現できるという。また、若者が興味のある分野に着目することで、現在は知名度が高くはない観光地も注目を集めるチャンスが得られる可能性もあるという。今後は、旅行需要創出の鍵となるサブカルチャーと融合したスタイルの旅行から目が離せなくなりそうだ。
旅行意識の低い旅行0回層
「きっかけ作り」が重要
JRC研究員の加藤史子氏によると、じゃらん宿泊旅行調査に基づいた性・年代別ののべ宿泊旅行者数動向では、50歳から79歳の熟年・シニアの層が市場の半数以上を占めるのに対し、20歳から34歳の若年層は年々減少し、5年前の4538万人に対して現在は3755万人、つまり783万人も減少していると説明した。また、観光庁の「旅行・観光消費動向調査」によると1年間に一度も国内旅行に行っていない若年層の「旅行0回層」が2003年は20代前半で33.5%、20代後半で20.0%だったのに対し、2007年には20代前半で41.3%、20代後半で34.1%とそれぞれ増加。さらに、若年層のうち大学生、社会人いずれも旅行経験がない場合、過半数の人が「旅行に行く」という意識自体が低いという傾向が見られるという。
一方、2007年のじゃらん国内旅行意識調査によると国内旅行に「行きたい」という人は全体では9割と高いが、そのきっかけは「家族や友人に誘われた」(49.5%)と受動的なことが多い。加藤氏は「旅行に行くきっかけづくりが重要」として、20代から30代に影響を与えるメディアについて触れ、携帯電話やインターネットの急激な普及の影響を受けた30歳以上の団塊ジュニアの「eビジネスマン世代」や、デジタルネイティブと言われる若年層を中心とした「eジェネレーション世代」にとって「日常的に接するIT、携帯、ゲーム、アニメ、映画などは旅行の『競合』ではなく『シナジー』になる」と強調した。
携帯ゲームと連動したバスツアー
旅行前と後の参加者の意識に変化
そこでJRCでは携帯電話ゲーム「コロニーな生活☆PLUS」(コロプラ)を用いた実証事業を行なった。コロプラとは携帯電話を利用した無料オンラインゲームで、携帯電話の位置情報(GPS)機能を利用し、自分の移動距離や現在地に応じて仮想空間での通貨やアイテムを獲得していくというもので、各都道府県で訪れた地域が一定数を超えるとスタンプを獲得できるというスタンプラリー機能もついている。
実証事業は昨年8月から9月に九州(福岡、佐賀、長崎)での1泊2日のバスツアーとして2回催行。募集は約1ヶ月前から開始し、羽田、福岡を出発地として設定したこのツアーには2回で合計114名が参加した。参加者のうち8割が20代から30代で、男女の人数はほぼ同数。同行者もカップル、友人、夫婦、家族とさまざまだったが、3割が1人での参加だった。また、参加者の旅行頻度は過去1年間で日帰り旅行を6回以上した人が42%、宿泊旅行6回以上した人が23%と旅好きが多い一方、日帰り旅行がほぼ0回という人が22%、宿泊旅行0回も14%おり、今回の企画が普段旅行をしない人が旅をする後押しとなったようだ。
ツアーでは参加者はバスの車中で携帯を操作しゲームを楽しんでいたほか、ゲーム内の掲示板の書き込みなどを通じて参加者同士の交流を深めた。実際、掲示板はバス車内での自己紹介を含め300件を超えたという。また、ゲーム空間と「リアル」が組みあわさった企画もあり、訪れた有田焼の窯元で有田焼を実際に購入した参加者にはゲームでも有田焼を獲得できる「コロカ」というカードが進呈された。
一方、ツアーにはゲームとは直接関係のない観光地も含まれたが、オプショナルツアーとして組み込まれた長崎県の波佐見町での「石玉盆栽づくり体験」には約70名が参加したという。また、参加者へのアンケートによると参加前には参加者のうち半数以上が「スタンプの取得」「(ゲーム内の)お土産の取得」などゲーム自体に興味を示していたものの、ツアー後には「波佐見での夕食」など地域や人との交流という点に満足度が高かった。「このようなツアーにまた参加したい」といった声が聞かれ、1回目、2回目のツアー全体の満足度も85%にのぼったという。きっかけはゲームでも「リアル」旅行の満足度も高かったということがうかがえる。
携帯ゲームが創り出す旅行需要
「メディアの住民」となってサービス提供を
加藤氏はこのほかにも携帯やゲームを活用した観光地の成功事例を紹介した。例えば、「戦国BASARA」という戦国武将が登場するゲームではご当地の武将が登場するため、歴女(れきじょ)といわれる歴史好きの女性が、武将の墓めぐりにその地域を訪れていることを紹介。こうした効果もあって、ゲームショーでは地方自治体がゲームメーカーに対し「武将」を売り込む姿が見られるという。
また、今年の7月から8月にかけて、熱海市は恋愛ゲーム「ラブプラス+」のキャンペーンを展開。「熱海ラブプラス現象(まつり)」と題し、ゲーム内でできた「カノジョ」と旅行をするユーザーに対し、ロープウェーなど観光施設の割引や、提携旅館で希望者には「お2人分のお布団を敷きます」というユニークなサービスも提供した。
加藤氏はより多くの若者に旅を体験してもらうためには「一方的な情報発信をするのではなく、メディアの住民になって彼らが興味を持つことに耳を傾ける」ことが重要だとして、その上でサービスを考え、提供することで普段旅行に行かない若年層が旅体験をする「きっかけ」となり、満足度の高い旅行が実現できるという。また、若者が興味のある分野に着目することで、現在は知名度が高くはない観光地も注目を集めるチャンスが得られる可能性もあるという。今後は、旅行需要創出の鍵となるサブカルチャーと融合したスタイルの旅行から目が離せなくなりそうだ。
取材:安井久美