取材ノート:若年女性の刺激策、TGCをヒントに−海外旅行動向シンポ(3)
財団法人日本交通公社(JTBF)の今年の「海外旅行動向シンポジウム」は、「えっ!海外旅行がカッコ悪い!?〜今時の“ガールズ”意識とは〜」というキャッチーなテーマ設定が目を引いた。第3部では、東京ガールズコレクション(TGC)実行委員会チーフプロデューサーの永谷亜矢子氏(F1メディア代表取締役社長)が「ガールズマーケットの刺激策、教えます」と題した講演を実施。F1層をひきつけたTGCの施策とともに、若年女性の旅行市場を掘り起こすヒントを提示した。
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“ガールズ”を惹きつけるビジネスプラットフォーム
東京ガールズコレクション(TGC)とは、主にF1層(20歳〜34歳の女性)をターゲットにしたファッションイベント。永谷氏は2005年の初開催から携わり、今では毎回全国からのべ2万人以上を集めるビッグイベントへと成長させている。
TGCが従来のファッションショーと異なる点はさまざまだが、特に大きなポイントは次の2つ。ひとつは山田優やマリエといった若い女性に人気があり、共感を得やすい旬のファッションモデルやタレント、注目のアーティストを起用すること。2つ目は彼女たちがステージ上でプレゼンした服を、その時その場から携帯電話を通じて購入できるという即時性だ。TGCの入場券を購入し、さらにその場で服を買うという若い女性の消費行動は、画期的なビジネスプラットフォームとして、大きな注目を集めている。
さらにTGCを1日限りの単なるイベントではなく、「新しいメディア」と位置づけているのもユニークな点。永谷氏は「TGCはBtoCのかたちをとっているが、実際はBtoBでもある」と述べ、その一例として、企業協賛をあげた。2010年3月に開催されたTGCには、過去最多となる28社が協賛。このときのTGC SS(春夏コレクション)の広告換算額は約32億円だ。
ファッションショーの合間に、協賛各社によるピーアールコーナーを組み込み、「女の子たちが、単なる宣伝と思って飽きないように、TGCは全社のピーアールタイムをカスタマイズし、TGC本編の一部として楽しんでもらう」と永谷氏。共感型コンテンツとして、協賛者のイベント中に携帯電話にクイズを出題し、出展ブースへ行くとノベルティをプレゼントするなど、女の子たちが足を運ぶような参加型の企画を盛り込んでいる。
一方で、パブリシティの確保も怠らない。テレビ番組や映画などともタイアップし、人気テレビ番組をステージ上でも展開。また、TGCの公式ウェブサイトのほか、ブロガーなどの個人メディアとも連携し、幅広い人々への認知浸透をはかっている。
このほか現在は、ファッションを越えた協賛企業とのコラボレートにも取り組む。地域活性プロジェクトも開始し、これまで福井県鯖江市の眼鏡、京都市の着物、沖縄県のかりゆしを「ファッション」をフックにブランディングして、参画するアパレルメーカーとともに商品を全国区の流通にのせた。「TGCは新しい市場を生む、稀有な媒体」と永井氏。今までと違う発想をすることで、多様な分野からF1層へのアプローチが可能であることを示唆した。
あこがれの有名人のお墨付きで旅行先を選ぶF1層
F1メディアの協力を得て、JTBFは今回、ファッション雑誌の読者モデルによるグループインタビューと、モニターによるモバイルアンケートからなる「ガールズマーケット旅行意識調査」を実施した。
調査によると、金銭面からみる旅行の考え方では「お金があれば旅行に行きたい」と回答した人が、F1層全体で65.4%と最も多かった。特に20代後半は「普段節約しても旅行に行きたい」と回答した人が28.4%と、相対的に高い。この結果から永谷氏は「F1層の旅行に対する興味が薄れている様子はない」と話す。
では、なぜ旅行に出かけないのか。グループインタビューでは「携帯電話は固定費として考え」「将来のための貯蓄を重視」する一方、「ファッションにはお金をかけ」「友達との遊びや食事など、交際費は金額を気にしない」ことがわかった。永谷氏は「旅行への関心はあるものの、使えるお金は限られている。そのなかで旅行は、優先順位が低い。F1層の関心を引き、優先順位を上げることが必要」と指摘した。
永谷氏がグループインタビューのなかで特に「F1層の特徴が顕著に出ている」と強調したのが、旅行先の選び方だ。上の世代がショッピングやビーチなど、海外で何をしたいかという「目的」から旅行先を選んだのに対して、F1層は、旅行先を決めてから何をするのかを決める。これは目的意識が薄く、目的を持つための知識もあまりないからだ。そのため、海外旅行実現につながる強い理由がない。
そんな彼女たちが選ぶ旅行先は、あこがれの有名人などのおすすめや友人知人の口コミに影響される。旅行のきっかけとなる媒体は、テレビの情報番組が43.3%、雑誌が41.3%、ブログが有名人と知人をあわせて14.1%、クチコミが22.8%。ただし、信頼できる情報となると、動画であり、生で話をするのが見られるテレビとクチコミで、雑誌は補正などバイアスがかかっている印象があるのだという。
これらを踏まえ永谷氏は、F1層に支持される有名人の情報発信が、影響力があると提言。彼女たちが支持する有名人として、現在30代後半の梨花や平子理沙といった顔ぶれをあげる。実はこれまでは、若い女の子が自分より10歳近くも年上の女性タレントにあこがれることはなかったというが、この傾向について「F1層の女の子たちは、失敗したくないという気持ちが強い。だから、10年後も美しさを保ち、ライフスタイルが充実していそうな年上のタレントにあこがれ、真似したいと思うのではないか」と指摘し、「旅行先を決めるにあたっても、誰かのおすすめを基準にすれば、失敗しないで旅行に行けるという感覚がある」と分析する。
新しい発想で海外旅行への入り口を作る
永谷氏は「F1層は、旅行への関心がないわけではないのだから、うまく入り口を作ることが大切」という。その方法として、旅行業界が、ストーリー性のある情報を発信することが、デスティネーションのブランディングにつながると指摘した。
「彼女たちが、あらかじめ旅行先の場所を知らなければ、いざ旅行に行く段階になっても、そもそも選択肢に入れてもらえない」と永谷氏。「いざというとき選択肢に入るために、旅行業界は、まずは地域ブランディングを優先し、ローンチさせることが大切」だという。
そのための方法として、「人気タレントなど影響力の強い人が、自分の生活に旅行をうまく取り込んでいたり、日常から開放されている様子を見せることで、彼女と同じ場所に行き、同じようなライフスタイルを取り入れることがステイタスだと思ってもらえるような仕掛け作り」を提案。「TGCもこういう場所があることをF1層に知ってもらうことからはじめた」と述べ、海外旅行の入り口に入っていくための後押しをする仕組みを作る大切さを示唆した。
なお、JTBFは今秋、「ガールズマーケット旅行意識調査」の結果を掲載した開催報告書を発行する予定だ。
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“ガールズ”を惹きつけるビジネスプラットフォーム
東京ガールズコレクション(TGC)とは、主にF1層(20歳〜34歳の女性)をターゲットにしたファッションイベント。永谷氏は2005年の初開催から携わり、今では毎回全国からのべ2万人以上を集めるビッグイベントへと成長させている。
TGCが従来のファッションショーと異なる点はさまざまだが、特に大きなポイントは次の2つ。ひとつは山田優やマリエといった若い女性に人気があり、共感を得やすい旬のファッションモデルやタレント、注目のアーティストを起用すること。2つ目は彼女たちがステージ上でプレゼンした服を、その時その場から携帯電話を通じて購入できるという即時性だ。TGCの入場券を購入し、さらにその場で服を買うという若い女性の消費行動は、画期的なビジネスプラットフォームとして、大きな注目を集めている。
さらにTGCを1日限りの単なるイベントではなく、「新しいメディア」と位置づけているのもユニークな点。永谷氏は「TGCはBtoCのかたちをとっているが、実際はBtoBでもある」と述べ、その一例として、企業協賛をあげた。2010年3月に開催されたTGCには、過去最多となる28社が協賛。このときのTGC SS(春夏コレクション)の広告換算額は約32億円だ。
ファッションショーの合間に、協賛各社によるピーアールコーナーを組み込み、「女の子たちが、単なる宣伝と思って飽きないように、TGCは全社のピーアールタイムをカスタマイズし、TGC本編の一部として楽しんでもらう」と永谷氏。共感型コンテンツとして、協賛者のイベント中に携帯電話にクイズを出題し、出展ブースへ行くとノベルティをプレゼントするなど、女の子たちが足を運ぶような参加型の企画を盛り込んでいる。
一方で、パブリシティの確保も怠らない。テレビ番組や映画などともタイアップし、人気テレビ番組をステージ上でも展開。また、TGCの公式ウェブサイトのほか、ブロガーなどの個人メディアとも連携し、幅広い人々への認知浸透をはかっている。
このほか現在は、ファッションを越えた協賛企業とのコラボレートにも取り組む。地域活性プロジェクトも開始し、これまで福井県鯖江市の眼鏡、京都市の着物、沖縄県のかりゆしを「ファッション」をフックにブランディングして、参画するアパレルメーカーとともに商品を全国区の流通にのせた。「TGCは新しい市場を生む、稀有な媒体」と永井氏。今までと違う発想をすることで、多様な分野からF1層へのアプローチが可能であることを示唆した。
あこがれの有名人のお墨付きで旅行先を選ぶF1層
F1メディアの協力を得て、JTBFは今回、ファッション雑誌の読者モデルによるグループインタビューと、モニターによるモバイルアンケートからなる「ガールズマーケット旅行意識調査」を実施した。
調査によると、金銭面からみる旅行の考え方では「お金があれば旅行に行きたい」と回答した人が、F1層全体で65.4%と最も多かった。特に20代後半は「普段節約しても旅行に行きたい」と回答した人が28.4%と、相対的に高い。この結果から永谷氏は「F1層の旅行に対する興味が薄れている様子はない」と話す。
では、なぜ旅行に出かけないのか。グループインタビューでは「携帯電話は固定費として考え」「将来のための貯蓄を重視」する一方、「ファッションにはお金をかけ」「友達との遊びや食事など、交際費は金額を気にしない」ことがわかった。永谷氏は「旅行への関心はあるものの、使えるお金は限られている。そのなかで旅行は、優先順位が低い。F1層の関心を引き、優先順位を上げることが必要」と指摘した。
永谷氏がグループインタビューのなかで特に「F1層の特徴が顕著に出ている」と強調したのが、旅行先の選び方だ。上の世代がショッピングやビーチなど、海外で何をしたいかという「目的」から旅行先を選んだのに対して、F1層は、旅行先を決めてから何をするのかを決める。これは目的意識が薄く、目的を持つための知識もあまりないからだ。そのため、海外旅行実現につながる強い理由がない。
そんな彼女たちが選ぶ旅行先は、あこがれの有名人などのおすすめや友人知人の口コミに影響される。旅行のきっかけとなる媒体は、テレビの情報番組が43.3%、雑誌が41.3%、ブログが有名人と知人をあわせて14.1%、クチコミが22.8%。ただし、信頼できる情報となると、動画であり、生で話をするのが見られるテレビとクチコミで、雑誌は補正などバイアスがかかっている印象があるのだという。
これらを踏まえ永谷氏は、F1層に支持される有名人の情報発信が、影響力があると提言。彼女たちが支持する有名人として、現在30代後半の梨花や平子理沙といった顔ぶれをあげる。実はこれまでは、若い女の子が自分より10歳近くも年上の女性タレントにあこがれることはなかったというが、この傾向について「F1層の女の子たちは、失敗したくないという気持ちが強い。だから、10年後も美しさを保ち、ライフスタイルが充実していそうな年上のタレントにあこがれ、真似したいと思うのではないか」と指摘し、「旅行先を決めるにあたっても、誰かのおすすめを基準にすれば、失敗しないで旅行に行けるという感覚がある」と分析する。
新しい発想で海外旅行への入り口を作る
永谷氏は「F1層は、旅行への関心がないわけではないのだから、うまく入り口を作ることが大切」という。その方法として、旅行業界が、ストーリー性のある情報を発信することが、デスティネーションのブランディングにつながると指摘した。
「彼女たちが、あらかじめ旅行先の場所を知らなければ、いざ旅行に行く段階になっても、そもそも選択肢に入れてもらえない」と永谷氏。「いざというとき選択肢に入るために、旅行業界は、まずは地域ブランディングを優先し、ローンチさせることが大切」だという。
そのための方法として、「人気タレントなど影響力の強い人が、自分の生活に旅行をうまく取り込んでいたり、日常から開放されている様子を見せることで、彼女と同じ場所に行き、同じようなライフスタイルを取り入れることがステイタスだと思ってもらえるような仕掛け作り」を提案。「TGCもこういう場所があることをF1層に知ってもらうことからはじめた」と述べ、海外旅行の入り口に入っていくための後押しをする仕組みを作る大切さを示唆した。
なお、JTBFは今秋、「ガールズマーケット旅行意識調査」の結果を掲載した開催報告書を発行する予定だ。
取材:江藤詩文