取材ノート:バブル後世代の攻略は日常生活の延長−海外旅行動向シンポ(2)
財団法人日本交通公社(JTBF)が先ごろ開催した「海外旅行動向シンポジウム」で、ゲスト講師のひとりとして登壇したのは、ジェイ・エム・アール生活総合研究所の松田久一氏。日本人の消費行動を7つの世代論から分析するマーケティングを得意とし、1979年から1983年生まれ(現在の27歳〜31歳)を「バブル後世代」と位置づけ、その消費行動に焦点をあてた「『嫌消費』世代の研究」などの著書がある。著書のなかで松田氏は、バブル後世代の関心が薄い商品を「3K」として、車、家電とともに「海外旅行」をあげている。シンポジウムでは「世代論から見えてきた“バブル後世代”の特徴」と題し、旅行離れが懸念される若者世代の意識とアプローチのヒントを語った。
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若年層の関心は「日常生活の充実」
松田氏の講演を前に、JTBF常務理事の小林英俊氏が若者の海外旅行離れの理由として、「社会・経済的な要因」「メディア環境的な要因」「若者意識の変化にみる要因」「旅行商品やガイドブックに起因する要因」の4つを提示。若者の意識の変化が旅行離れの一因であることを示し、「若者の意識がどう形成されているのかを理解する必要がある」と、講師に松田氏を招聘した理由を説明する。
松田氏は「消費者がモノを買わなくなり」「収入は下がり」「節約を心がけるようになった」現在を、「嫌消費の時代」と定義づけている。この時代を牽引するのが、「バブル後世代」。この世代の特徴は、バブル崩壊が無意識下に横たわり、消費に結びつかず、節約意識が高い。また、志向的には「自己実現志向」より、周囲と調和していこうという「他者依存志向」が強く、おひとりさまでも楽しむ「自由享楽志向」より、他者の目を気にする「伝統保守志向」が強いことがあげられる。
ただし、松田氏によると、バブル後世代は必ずしも消費行動をしていないわけではないという。彼らは上の世代が「車」を買うように「自転車」に、「大型テレビ・AV機器」に対して「おいしいご飯の炊ける炊飯器」に、「高級化粧品」に対して「ネイルやまつげ」に、「酒・ビール」に対して「缶コーヒーや水」に、「外食・中食」に対して「内食・手づくり」に消費している。つまり、これらの消費活動をまとめると、上の世代が「非日常感・あこがれ」で消費をしたのに対し、バブル後世代は「日常生活を楽しむ」ために消費していることがわかる。
旅行先選択にも「他者とのつながり」が影響
「JMR生活総合研究所調査2010」による「海外旅行で行きたい国」をみると、上の世代ではヨーロッパや米国が上位を占めるのに対して、バブル後世代に近い25歳から29歳は韓国やその他アジアが上位を占める。
松田氏は「昭和20年代から“あこがれのハワイ航路”といわれたように、海外旅行はあこがれの対象であり続けたが、この世代の価値観は違う。“若者は、時間とお金があったら海外旅行に行くはず”という従来の前提は、彼らの消費行動にはあてはまらない」と指摘。「海外旅行は日本語が通じないから疲れるので行きたくない」というバブル後世代の生の声を紹介した。
さらに、25歳から29歳が、海外旅行で行きたい国として韓国やその他アジア、オーストラリアをあげたのは、「料金が安い」「短期間で行ける」といった従来の理由のほか「時差が少なく、携帯電話が通じるので、孤立しないですむからではないか」と分析。「海外旅行が嫌いではない若者も、自分が他人からどう見られるか周囲の目を気にして海外旅行をしないのではないか」と話した。
バブル後世代の攻略法
世代の理解がビジネスモデルの創出につながる
松田氏は「バブル後世代攻略法」として「バブル後世代の市場性を見極める」「バブル後世代と対話する」「バブル後世代の欲望に対応する」「ビジネスモデルを考え直す」「多世代チームで対応する」の5点をあげた。
「JMR生活総合研究所調査2010」によると、バブル後世代の市場として、25歳から29歳の海外旅行に対する欲求は低いが、「計画はないが行きたい」と思っている人も38.1%で、「行きたくない」の33.3%よりわずかだが多い。海外旅行に行きたくない理由は、「事故やトラブルにあいたくない」「言葉が通じないのが嫌」「旅行費用がかさむ」の3点に集約される。
松田氏は、「企業の売り手の中心である40代から50代とはまったく違う価値観を、バブル後世代は持っている」という。「バブル後世代と対話する」ことで、異世代の文化を理解し、顧客の信頼を得ることができる。また、異世代を組みあわせた「多世代チームで対応する」ことで、新しい解決策やビジネスモデルが生まれるとした。
「バブル後世代の欲望」は、上記のように「日常生活の充実」。「バブル後世代は保守的で、家族を大切にする傾向がある。ちょっとしたお出かけが長距離化したものが海外旅行というイメージの定着も有効なのではないか」と、松田氏は提案する。そのうえで、バブル後世代の関心の高い商品と海外旅行を組みあわせたり、外部ネットワークを活用する新しいプラットフォームモデルの確立が必要とした。
ちなみに、松田氏はバブル後世代とともに、1971年から1978年生まれ(現在32歳〜39歳)の「団塊ジュニア世代」を「嫌消費世代」と定義している。ただし、「2010年代は嫌消費の時代だが、その後には消費に微熱を見せている少子化世代(1984年〜1993年生まれ)が市場をリードする年代になる。いまこそ次の一手を打っていくべきではないか」と締めくくった。
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松田氏は「消費者がモノを買わなくなり」「収入は下がり」「節約を心がけるようになった」現在を、「嫌消費の時代」と定義づけている。この時代を牽引するのが、「バブル後世代」。この世代の特徴は、バブル崩壊が無意識下に横たわり、消費に結びつかず、節約意識が高い。また、志向的には「自己実現志向」より、周囲と調和していこうという「他者依存志向」が強く、おひとりさまでも楽しむ「自由享楽志向」より、他者の目を気にする「伝統保守志向」が強いことがあげられる。
ただし、松田氏によると、バブル後世代は必ずしも消費行動をしていないわけではないという。彼らは上の世代が「車」を買うように「自転車」に、「大型テレビ・AV機器」に対して「おいしいご飯の炊ける炊飯器」に、「高級化粧品」に対して「ネイルやまつげ」に、「酒・ビール」に対して「缶コーヒーや水」に、「外食・中食」に対して「内食・手づくり」に消費している。つまり、これらの消費活動をまとめると、上の世代が「非日常感・あこがれ」で消費をしたのに対し、バブル後世代は「日常生活を楽しむ」ために消費していることがわかる。
旅行先選択にも「他者とのつながり」が影響
「JMR生活総合研究所調査2010」による「海外旅行で行きたい国」をみると、上の世代ではヨーロッパや米国が上位を占めるのに対して、バブル後世代に近い25歳から29歳は韓国やその他アジアが上位を占める。
松田氏は「昭和20年代から“あこがれのハワイ航路”といわれたように、海外旅行はあこがれの対象であり続けたが、この世代の価値観は違う。“若者は、時間とお金があったら海外旅行に行くはず”という従来の前提は、彼らの消費行動にはあてはまらない」と指摘。「海外旅行は日本語が通じないから疲れるので行きたくない」というバブル後世代の生の声を紹介した。
さらに、25歳から29歳が、海外旅行で行きたい国として韓国やその他アジア、オーストラリアをあげたのは、「料金が安い」「短期間で行ける」といった従来の理由のほか「時差が少なく、携帯電話が通じるので、孤立しないですむからではないか」と分析。「海外旅行が嫌いではない若者も、自分が他人からどう見られるか周囲の目を気にして海外旅行をしないのではないか」と話した。
バブル後世代の攻略法
世代の理解がビジネスモデルの創出につながる
松田氏は「バブル後世代攻略法」として「バブル後世代の市場性を見極める」「バブル後世代と対話する」「バブル後世代の欲望に対応する」「ビジネスモデルを考え直す」「多世代チームで対応する」の5点をあげた。
「JMR生活総合研究所調査2010」によると、バブル後世代の市場として、25歳から29歳の海外旅行に対する欲求は低いが、「計画はないが行きたい」と思っている人も38.1%で、「行きたくない」の33.3%よりわずかだが多い。海外旅行に行きたくない理由は、「事故やトラブルにあいたくない」「言葉が通じないのが嫌」「旅行費用がかさむ」の3点に集約される。
松田氏は、「企業の売り手の中心である40代から50代とはまったく違う価値観を、バブル後世代は持っている」という。「バブル後世代と対話する」ことで、異世代の文化を理解し、顧客の信頼を得ることができる。また、異世代を組みあわせた「多世代チームで対応する」ことで、新しい解決策やビジネスモデルが生まれるとした。
「バブル後世代の欲望」は、上記のように「日常生活の充実」。「バブル後世代は保守的で、家族を大切にする傾向がある。ちょっとしたお出かけが長距離化したものが海外旅行というイメージの定着も有効なのではないか」と、松田氏は提案する。そのうえで、バブル後世代の関心の高い商品と海外旅行を組みあわせたり、外部ネットワークを活用する新しいプラットフォームモデルの確立が必要とした。
ちなみに、松田氏はバブル後世代とともに、1971年から1978年生まれ(現在32歳〜39歳)の「団塊ジュニア世代」を「嫌消費世代」と定義している。ただし、「2010年代は嫌消費の時代だが、その後には消費に微熱を見せている少子化世代(1984年〜1993年生まれ)が市場をリードする年代になる。いまこそ次の一手を打っていくべきではないか」と締めくくった。
取材:江藤詩文