取材ノート:アマデウス、レイルヨーロッパとの提携から探る流通戦略
アマデウスはこのほどレイルヨーロッパとの提携関係を深め、日本市場においてアマデウス・セリングプラットフォームからレイルヨーロッパが持つ高速鉄道などのコンテンツを予約可能にする計画だ。アマデウスが鉄道に取り組むねらいは何か。その背景にある戦略は――。7月にアマデウスがレイルヨーロッパ、ルフトハンザ・ドイツ航空(LH)と共催したプレスツアーに同行して取材した、アマデウスの流通戦略を伝える。
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◆アマデウスとレイルヨーロッパが提携深化、欧州内の鉄道など予約可能に(2010/07/08)
「流通」と「IT」の両輪で成長
アマデウスはもともと「アマデウス・グローバル・トラベル・ディストリビューションSA」の社名を用いており、その名の通り“GDS”つまり流通機能を主力とする企業であった。しかし、2006年2月に社名を「アマデウスITグループSA」に変更。航空会社向けの顧客管理ソリューション「アルテア」を航空会社に提供するなど、流通にとどまらず幅広いITソリューションを提供する企業へと変貌をとげていた。
とはいえ、今日のアマデウスも流通が主軸の一つであることには変わりない。アマデウスの現在の戦略の基礎は、流通とITソリューションを両輪とし、それぞれの高い相乗効果によってさらなる成長につなげようとするものだ。
実際のところ、流通とITソリューションの連関性は非常に高い。例えばアマデウスの顧客管理ソリューションを導入しているサプライヤーであれば旅行会社のユーザーとPNRを共有できるなど、高い利便性を実現できる。利便性の高さは新規ユーザー獲得に効果を発揮し、旅行会社のユーザー増加は販売拠点の増加を意味するため、サプライヤー側にとっての魅力が向上する。そして多くのサプライヤーの商品がアマデウスで流通すれば、旅行会社のユーザーにとってワンストップで多様な商品を扱うことができ、メリットが増える――というように、ユーザーを集めて囲い込む流れができあがる。
アマデウス・オンライン&レジャーソリューションズ・ディレクターのジャン=フランソワ・ビリアー氏によると、この戦略を遂行した結果、アマデウスのGDSは全世界の10万3000ヶ所以上で使用され、シェアは2009年の推計で37%、航空会社の顧客管理ソリューションは145社に提供し、シェアは2008年推計で28%を達成しているという。
鉄道の取り扱いは当然の流れ−鉄道会社側のメリットも
アマデウスのこうした戦略の流通面に着目すると、突き詰めれば「より多くの旅行会社ユーザー」と「より多くのサプライヤーとその商品」の獲得を進め、片方の増加がもう片方にとっての魅力になるようなサイクルを構築することが重要になる。2009年3月にはアマデウスが東京のエアポートリムジンバスをシステム上で予約可能にしているが、究極的には「旅行関係で予約を受け付けるものはすべて予約できる」状態こそが理想といって問題ないだろう。
今回のレイルヨーロッパとの提携深化も、アマデウスにとってはこの流れにそったものだ。現在アマデウスで予約可能な航空座席は世界の定期便運航航空会社の95%にのぼるといい、新たなサプライヤー・商品の取り込みを重視している。アマデウスで鉄道関連事業部門を統括するディアンヌ・ボウゼビバ氏も、「3年前に鉄道部門で働いていたのは6人だったが、今は120人以上」とその注力度合いを説明。2008年には鉄道業界向けのITソリューション企業も買収している。
一方、サプライヤーである鉄道会社にとっても、アマデウスとの提携深化は必然的であったという。ボウゼビバ氏によると現在、特に欧州内の高速鉄道網の開発が著しく、今後10年間で現在の2倍の規模となり、座席供給量が増加して航空網との競争力も向上する。鉄道会社は「より多くの乗客、より多くの便数、より多くの販売」を計画するようになることから、「オンラインの予約ツールや携帯電話向け技術、顧客ターゲット別のパッケージ、海外の旅行者へのリーチ」へのニーズが発生するというのだ。
レイルヨーロッパでアジア太平洋地域の営業部門を率いるフローレンス・パスキエ氏も、これまで欧州の鉄道販売になじみのない旅行会社社員にも利用してもらえるチャンスが増えると期待。特にビジネス需要の取り込みに意欲を示した。高速鉄道であれば、空港までの移動が必要ない点に加え、駅のラウンジ、車内での無線LANや新聞、“車内食”など、航空機と同等、あるいはそれ以上のものが得られる点も強みになるとの考えだ。
戦略支える土台は研究開発への投資とデータの確実性
アマデウスのITソリューション企業としての側面からすれば、「すべてのものを予約可能に」することに加えて、航空会社やホテル、鉄道会社などそれぞれのサプライヤーに対して顧客管理のソリューションを提供し、「すべてのものを共通のデータで管理する」ことが理想となる。それによって、より一貫した流通網を構築でき、囲い込みを強固にすることができる。今回のプレスツアーでは、ソリューションやサービスの開発を担うフランス・ニース近郊の開発センターと、ドイツ・ミュンヘン近郊のデータセンターも視察した。
開発センターは3万2000エーカーの敷地内に2200人が働く。アマデウスは従来から研究開発費に多額の資金を投じており、2009年では2004年比で66%増となる3339人年を配置。2004年からの累計では1万6100人年に及び、航空会社や旅行会社向けのほか、空港向けのシステム開発にも取り組んでいる。また、現在はオペレーティング・プラットフォームをオープンソースのリナックス/ユニックスベースに移行している最中で、2012年までに完了する予定という。
一方、厳重な警備に守られたデータセンターでは550人以上が勤務。365日24時間稼動で1秒あたり1万回以上のトランザクションを処理しており、ひとたび不測の事態が起きれば、世界中の空港などで大きな混乱が発生するが、「たった1つの失敗も起こさない」(上級副社長のエバーハルト・ハーグ氏)構えで、自家発電機器や消火設備など二重、三重の対策が施されていた。
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「流通」と「IT」の両輪で成長
アマデウスはもともと「アマデウス・グローバル・トラベル・ディストリビューションSA」の社名を用いており、その名の通り“GDS”つまり流通機能を主力とする企業であった。しかし、2006年2月に社名を「アマデウスITグループSA」に変更。航空会社向けの顧客管理ソリューション「アルテア」を航空会社に提供するなど、流通にとどまらず幅広いITソリューションを提供する企業へと変貌をとげていた。
とはいえ、今日のアマデウスも流通が主軸の一つであることには変わりない。アマデウスの現在の戦略の基礎は、流通とITソリューションを両輪とし、それぞれの高い相乗効果によってさらなる成長につなげようとするものだ。
実際のところ、流通とITソリューションの連関性は非常に高い。例えばアマデウスの顧客管理ソリューションを導入しているサプライヤーであれば旅行会社のユーザーとPNRを共有できるなど、高い利便性を実現できる。利便性の高さは新規ユーザー獲得に効果を発揮し、旅行会社のユーザー増加は販売拠点の増加を意味するため、サプライヤー側にとっての魅力が向上する。そして多くのサプライヤーの商品がアマデウスで流通すれば、旅行会社のユーザーにとってワンストップで多様な商品を扱うことができ、メリットが増える――というように、ユーザーを集めて囲い込む流れができあがる。
アマデウス・オンライン&レジャーソリューションズ・ディレクターのジャン=フランソワ・ビリアー氏によると、この戦略を遂行した結果、アマデウスのGDSは全世界の10万3000ヶ所以上で使用され、シェアは2009年の推計で37%、航空会社の顧客管理ソリューションは145社に提供し、シェアは2008年推計で28%を達成しているという。
鉄道の取り扱いは当然の流れ−鉄道会社側のメリットも
アマデウスのこうした戦略の流通面に着目すると、突き詰めれば「より多くの旅行会社ユーザー」と「より多くのサプライヤーとその商品」の獲得を進め、片方の増加がもう片方にとっての魅力になるようなサイクルを構築することが重要になる。2009年3月にはアマデウスが東京のエアポートリムジンバスをシステム上で予約可能にしているが、究極的には「旅行関係で予約を受け付けるものはすべて予約できる」状態こそが理想といって問題ないだろう。
今回のレイルヨーロッパとの提携深化も、アマデウスにとってはこの流れにそったものだ。現在アマデウスで予約可能な航空座席は世界の定期便運航航空会社の95%にのぼるといい、新たなサプライヤー・商品の取り込みを重視している。アマデウスで鉄道関連事業部門を統括するディアンヌ・ボウゼビバ氏も、「3年前に鉄道部門で働いていたのは6人だったが、今は120人以上」とその注力度合いを説明。2008年には鉄道業界向けのITソリューション企業も買収している。
一方、サプライヤーである鉄道会社にとっても、アマデウスとの提携深化は必然的であったという。ボウゼビバ氏によると現在、特に欧州内の高速鉄道網の開発が著しく、今後10年間で現在の2倍の規模となり、座席供給量が増加して航空網との競争力も向上する。鉄道会社は「より多くの乗客、より多くの便数、より多くの販売」を計画するようになることから、「オンラインの予約ツールや携帯電話向け技術、顧客ターゲット別のパッケージ、海外の旅行者へのリーチ」へのニーズが発生するというのだ。
レイルヨーロッパでアジア太平洋地域の営業部門を率いるフローレンス・パスキエ氏も、これまで欧州の鉄道販売になじみのない旅行会社社員にも利用してもらえるチャンスが増えると期待。特にビジネス需要の取り込みに意欲を示した。高速鉄道であれば、空港までの移動が必要ない点に加え、駅のラウンジ、車内での無線LANや新聞、“車内食”など、航空機と同等、あるいはそれ以上のものが得られる点も強みになるとの考えだ。
戦略支える土台は研究開発への投資とデータの確実性
アマデウスのITソリューション企業としての側面からすれば、「すべてのものを予約可能に」することに加えて、航空会社やホテル、鉄道会社などそれぞれのサプライヤーに対して顧客管理のソリューションを提供し、「すべてのものを共通のデータで管理する」ことが理想となる。それによって、より一貫した流通網を構築でき、囲い込みを強固にすることができる。今回のプレスツアーでは、ソリューションやサービスの開発を担うフランス・ニース近郊の開発センターと、ドイツ・ミュンヘン近郊のデータセンターも視察した。
開発センターは3万2000エーカーの敷地内に2200人が働く。アマデウスは従来から研究開発費に多額の資金を投じており、2009年では2004年比で66%増となる3339人年を配置。2004年からの累計では1万6100人年に及び、航空会社や旅行会社向けのほか、空港向けのシステム開発にも取り組んでいる。また、現在はオペレーティング・プラットフォームをオープンソースのリナックス/ユニックスベースに移行している最中で、2012年までに完了する予定という。
一方、厳重な警備に守られたデータセンターでは550人以上が勤務。365日24時間稼動で1秒あたり1万回以上のトランザクションを処理しており、ひとたび不測の事態が起きれば、世界中の空港などで大きな混乱が発生するが、「たった1つの失敗も起こさない」(上級副社長のエバーハルト・ハーグ氏)構えで、自家発電機器や消火設備など二重、三重の対策が施されていた。
ルフトハンザ・ドイツ航空、A380専用ラウンジの利便性高く
今回のプレスツアーでは、復路でLHのエアバスA380
型機を利用する機会を得た。日本路線はLHにとって初
のA380型機の導入路線で、8月からは2号機を受納しす
でにデイリーで運航を開始した。LHのA380型機は総座
席数が526席で、2階にファーストクラス8席とビジネ
スクラス98席、1階にエコノミークラス420席が配置さ
れる。
特に大幅に刷新したファーストクラスは、全長2.07
メートル、幅80センチメートルの大きさで、商業用旅
客機としては初という加湿器や時間にあわせて自動調
光する照明などを備えている。また、開発段階から顧
客の要望を聞き、あえて完全な個室ではなく、広く開
放的な座席にしたという。さらに、高い静寂性の実現
のため、吸音機能付きカーテンや機材外壁の遮音素材、
防音カーペットなどを設置している。
個人的に最も印象に残ったのはフランクフルト空港
の新ラウンジで、直接2階に搭乗できる利便性は相当な
もの。ラウンジでくつろいでいても、通常は搭乗手続
きの開始時間が気になりどうも落ち着かないことがあ
るが、新ラウンジは手続き開始まで自由に時間を使う
ことができ、リラックスしたまま機内に入ることがで
きた。
取材協力:アマデウス、レイルヨーロッパ、ルフトハンザ・ドイツ航空(LH)
取材:松本裕一