世界遺産スペシャリスト・インタビュー:JTBWV 石井直美さん
スペシャリストの資格は業務で培った知識の集大成
学生のころは“語学イコール英語”で、アメリカ志向だったという石井さん。ところが1年間のアメリカ留学を契機に、かえって他の国にも目が向くようになったとか。帰国後に入社した旅行会社で担当したのは、ほとんど知識のないアフリカや中近東などのエリア。そこで奮起して世界史を学びなおしているうちに、学ぶことの楽しさに目覚めたそうです。今回は世界遺産検定のトップレベルであるマイスターの資格を持つ石井さんに、検定の勉強法から思い出の世界遺産まで、世界遺産にまつわる数々のお話をお聞きしました。
JTBワールドバケーションズ
商品情報企画部 パンフレット戦略チームリーダー
石井直美さん
世界遺産スペシャリスト(2009年認定)
Q.日頃はどんな業務をされているのですか
現在の部署は直接の商品企画ではなく、各方面の企画担当者の後方支援といった立場にあります。方面別ではなくテーマ別に作っているパンフレットの制作の進行管理をはじめ、パンフレットの規約や表記法についての問い合わせ窓口、魅力的なパンフレットにするための誌面作りのアドバイスをしています。商品企画と連動した業務なのですが、パンフレット完成後もチーム内でできあがった誌面を見て改善点を検討し、それを企画担当者にフィードバックするということもやっています。
Q.世界遺産に興味を持ったきっかけは
92年に社会人になって、初めて入社したのがJTBグループの系列会社である旧ディスカバーワールドでした。ここで企画を担当していたのですが、取り扱い方面がエジプトやトルコ、インド、アフリカ、ロシア、南米などまったく知識がないところだったので、まず世界史から勉強しなおしました。10年におよぶ同社在職中は、さまざまなツアーを企画しましたが、そのなかで世界遺産にふれる機会が増えていきました。特にエジプトツアーのハイライトでもあるアブシンベル神殿はユネスコ世界遺産の理念誕生のきっかけとなった遺跡でもあるだけに、社内でも早い時期から注目していましたね。ツアーで訪れる観光スポットにも世界遺産が多く含まれていたことから、ツアーの日程表に「これが世界遺産です」といったマークを入れてアピールしました。世界遺産検定を受けたのは、自分への卒業試験のような気持ちでした。
Q.検定を受けてみたご感想は
一言でいうと「甘かった」ですね。デスティネーション・スペシャリストの資格も持っていますが、世界遺産スペシャリストははるかにハードルが高いというのが実感です。自分が知っているレベルは「どこの何」という程度だったのですが、実際の問題には世界遺産の理念や世界遺産条約、世界遺産委員会などの仕組みも出ましたし、日本の世界遺産もかなりネックになりました。当時は検定の出題範囲も広かったので、とにかく「何でこんなにやっているのだろう」というくらい勉強しましたね。ただ、それではまってしまったのでしょうか。もうやり始めたら後に引けないという感じで、2007年に初級(現2級)、2008年に中級(現1級)の認定を取得し、2009年に新制度になってから現在の1級を受けなおして、同じ年にマイスターを受検し、世界遺産スペシャリストの認定を受けました。
Q.どんな風に勉強されたのですか
まず、問題集をやって数をこなすとともに、その遺産の特徴や登録基準などはノートに書いて覚えました。勉強の場は通勤電車です。電車で過ごす時間が片道30分、往復で1時間あったので、その時間を使って勉強しました。自分にとっては1級が一番ハードでしたね。なにしろ範囲は全部なので対策のたてようがなく、ひたすら読んで、チェックしてという感じでした。逆にマイスターは論述形式なので、用語や理念の部分などを自分の言葉で説明できるよう、おさらいした程度です。
Q.認定を受けてメリットを感じるのはどんなことですか
今の部署では直接どこかの方面を担当しているわけではないので、認定を受けたことをアピールする場はないのですが、社内では有名になりましたね。私の場合は全方面の企画担当者と一緒にパンフレット作りをする立場なので、コースのなかでどこを取り出してアピールするのか、どこが売りなのか、何をコラムに取り上げるのかなど、効果的な誌面作りをする上で知識が役立っていると感じます。世界遺産の登録基準というのは、その物件の魅力でもあるわけです。この点が優れているので登録されたということなので、観光的に見てもそれが特徴となっているのです。知識の蓄積という意味でも、世界遺産の勉強はためになっています。
Q.これまで訪れた世界遺産のなかで印象的なのはどこでしょう
ずいぶん前の話になるのですが、研修旅行でリビアを訪れたことがあります。当時は経済制裁下で、それがだんだん解除されつつある時期でした。観光についてはまだ途上といった感じだったのですが、ローマ時代の遺跡が圧巻でした。実際に訪れたのはレプティス・マグナやサブラータの古代遺跡で、かなり大規模なものでした。観光地としては整備が進んでおらず、何を見たのか分からないようなところはありましたが、海に近かったのが印象的でしたね。特にサブラータは、遺跡を歩いていると波の音が聞こえてきます。場所によっては遺跡と地中海が一緒に見えて、とにかくきれいでした。ローマ時代の遺跡は各地に残されていますし、いろいろ見て来ましたが、地中海と遺跡の組み合わせは心に残りました。
Q.最近もよく旅行されるのですか
今は出張で出かける機会はほとんどないのですが、プライベートではアンテナに引っかかったところに出かけています。最近では春に小学生の息子と2人で北京に行きました。私が勉強をしていたせいか、子どもも世界遺産に興味を持っています。「中国に行ってみたい」と言われて、「それでは北京に行こう」となって、万里の長城を見てきました。パパには気の毒ですが、休みの都合がつかなければ「息子と2人で」というのが、このところのパターンですね。この夏にはやはり息子とキューバに行ってきました。自分が一度行ったことがある場所でも、同行者が違ったり、しばらく時間がたっていると見方も変わって新たな気持ちで楽しめます。
Q.今後世界遺産を勉強する人にアドバイスはありますか
今、「世界遺産をこれだけ回りますよ」というのがツアーのセールスポイントになるくらい、一般にも世界遺産の認知度は上がってきたと思います。それだけに旅のプロとしてはある程度の知識を持つべきという認識が必要です。世界遺産を巡るツアーのパンフレットを作るのに世界遺産の理念に関する知識は要らないかもしれませんが、知っていることで自分の引き出しを増やせるということを分かってもらいたいですね。私個人についていえば、旅行業界で企画を中心に10年以上やってきたなかで、いろいろな国を訪れ、その国の歴史や絵画、建築などを学んで経験を積み重ねてきたことが、今ひとつにまとまってきたと感じています。こうした業務歴や知識の集大成として、世界遺産があったように思います。
ありがとうございました
学生のころは“語学イコール英語”で、アメリカ志向だったという石井さん。ところが1年間のアメリカ留学を契機に、かえって他の国にも目が向くようになったとか。帰国後に入社した旅行会社で担当したのは、ほとんど知識のないアフリカや中近東などのエリア。そこで奮起して世界史を学びなおしているうちに、学ぶことの楽しさに目覚めたそうです。今回は世界遺産検定のトップレベルであるマイスターの資格を持つ石井さんに、検定の勉強法から思い出の世界遺産まで、世界遺産にまつわる数々のお話をお聞きしました。
JTBワールドバケーションズ
商品情報企画部 パンフレット戦略チームリーダー
石井直美さん
世界遺産スペシャリスト(2009年認定)
Q.日頃はどんな業務をされているのですか
現在の部署は直接の商品企画ではなく、各方面の企画担当者の後方支援といった立場にあります。方面別ではなくテーマ別に作っているパンフレットの制作の進行管理をはじめ、パンフレットの規約や表記法についての問い合わせ窓口、魅力的なパンフレットにするための誌面作りのアドバイスをしています。商品企画と連動した業務なのですが、パンフレット完成後もチーム内でできあがった誌面を見て改善点を検討し、それを企画担当者にフィードバックするということもやっています。
Q.世界遺産に興味を持ったきっかけは
92年に社会人になって、初めて入社したのがJTBグループの系列会社である旧ディスカバーワールドでした。ここで企画を担当していたのですが、取り扱い方面がエジプトやトルコ、インド、アフリカ、ロシア、南米などまったく知識がないところだったので、まず世界史から勉強しなおしました。10年におよぶ同社在職中は、さまざまなツアーを企画しましたが、そのなかで世界遺産にふれる機会が増えていきました。特にエジプトツアーのハイライトでもあるアブシンベル神殿はユネスコ世界遺産の理念誕生のきっかけとなった遺跡でもあるだけに、社内でも早い時期から注目していましたね。ツアーで訪れる観光スポットにも世界遺産が多く含まれていたことから、ツアーの日程表に「これが世界遺産です」といったマークを入れてアピールしました。世界遺産検定を受けたのは、自分への卒業試験のような気持ちでした。
Q.検定を受けてみたご感想は
一言でいうと「甘かった」ですね。デスティネーション・スペシャリストの資格も持っていますが、世界遺産スペシャリストははるかにハードルが高いというのが実感です。自分が知っているレベルは「どこの何」という程度だったのですが、実際の問題には世界遺産の理念や世界遺産条約、世界遺産委員会などの仕組みも出ましたし、日本の世界遺産もかなりネックになりました。当時は検定の出題範囲も広かったので、とにかく「何でこんなにやっているのだろう」というくらい勉強しましたね。ただ、それではまってしまったのでしょうか。もうやり始めたら後に引けないという感じで、2007年に初級(現2級)、2008年に中級(現1級)の認定を取得し、2009年に新制度になってから現在の1級を受けなおして、同じ年にマイスターを受検し、世界遺産スペシャリストの認定を受けました。
Q.どんな風に勉強されたのですか
まず、問題集をやって数をこなすとともに、その遺産の特徴や登録基準などはノートに書いて覚えました。勉強の場は通勤電車です。電車で過ごす時間が片道30分、往復で1時間あったので、その時間を使って勉強しました。自分にとっては1級が一番ハードでしたね。なにしろ範囲は全部なので対策のたてようがなく、ひたすら読んで、チェックしてという感じでした。逆にマイスターは論述形式なので、用語や理念の部分などを自分の言葉で説明できるよう、おさらいした程度です。
Q.認定を受けてメリットを感じるのはどんなことですか
今の部署では直接どこかの方面を担当しているわけではないので、認定を受けたことをアピールする場はないのですが、社内では有名になりましたね。私の場合は全方面の企画担当者と一緒にパンフレット作りをする立場なので、コースのなかでどこを取り出してアピールするのか、どこが売りなのか、何をコラムに取り上げるのかなど、効果的な誌面作りをする上で知識が役立っていると感じます。世界遺産の登録基準というのは、その物件の魅力でもあるわけです。この点が優れているので登録されたということなので、観光的に見てもそれが特徴となっているのです。知識の蓄積という意味でも、世界遺産の勉強はためになっています。
Q.これまで訪れた世界遺産のなかで印象的なのはどこでしょう
ずいぶん前の話になるのですが、研修旅行でリビアを訪れたことがあります。当時は経済制裁下で、それがだんだん解除されつつある時期でした。観光についてはまだ途上といった感じだったのですが、ローマ時代の遺跡が圧巻でした。実際に訪れたのはレプティス・マグナやサブラータの古代遺跡で、かなり大規模なものでした。観光地としては整備が進んでおらず、何を見たのか分からないようなところはありましたが、海に近かったのが印象的でしたね。特にサブラータは、遺跡を歩いていると波の音が聞こえてきます。場所によっては遺跡と地中海が一緒に見えて、とにかくきれいでした。ローマ時代の遺跡は各地に残されていますし、いろいろ見て来ましたが、地中海と遺跡の組み合わせは心に残りました。
Q.最近もよく旅行されるのですか
今は出張で出かける機会はほとんどないのですが、プライベートではアンテナに引っかかったところに出かけています。最近では春に小学生の息子と2人で北京に行きました。私が勉強をしていたせいか、子どもも世界遺産に興味を持っています。「中国に行ってみたい」と言われて、「それでは北京に行こう」となって、万里の長城を見てきました。パパには気の毒ですが、休みの都合がつかなければ「息子と2人で」というのが、このところのパターンですね。この夏にはやはり息子とキューバに行ってきました。自分が一度行ったことがある場所でも、同行者が違ったり、しばらく時間がたっていると見方も変わって新たな気持ちで楽しめます。
Q.今後世界遺産を勉強する人にアドバイスはありますか
今、「世界遺産をこれだけ回りますよ」というのがツアーのセールスポイントになるくらい、一般にも世界遺産の認知度は上がってきたと思います。それだけに旅のプロとしてはある程度の知識を持つべきという認識が必要です。世界遺産を巡るツアーのパンフレットを作るのに世界遺産の理念に関する知識は要らないかもしれませんが、知っていることで自分の引き出しを増やせるということを分かってもらいたいですね。私個人についていえば、旅行業界で企画を中心に10年以上やってきたなかで、いろいろな国を訪れ、その国の歴史や絵画、建築などを学んで経験を積み重ねてきたことが、今ひとつにまとまってきたと感じています。こうした業務歴や知識の集大成として、世界遺産があったように思います。
ありがとうございました