取材ノート:MICEは「御用聞き」から「ソリューション誘致」へ
先ごろ開催された、観光庁主催「Japan MICE Year記念シンポジウム」では、計5名の講師がそれぞれ違った角度からMICE誘致や開催成功への有効なアプローチを語った。すべての講師が口をそろえたのは「情報の把握」の重要性。顧客のニーズをつかむだけでなく、それぞれのデスティネーションが地域の認知度を高め、地域ブランドの価値を効果的にアピールすることが必要だ。今回は、シンポジウムの後半の講演から、ブランディングと誘致段階での人材、アプローチの重要性を中心にまとめた。
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◆取材ノート:MICE誘致の鍵は情報と人材−観光庁主催シンポジウム(2010/07/20)
地域ブランディングの重要性
シンポジウムの後半、3人目の講師として登場したのは、IHG・ANA・ホテルズグループのジャパンカンファレンス&イベント統括部長であるエリック・ディグネジオ氏。「MICEとブランディング」をテーマに、MICE関連のマーケティングではブランディングが非常に有効なツールであることを語った。
ディグネジオ氏は、自動車会社からファーストフードのチェーン店まで、さまざまな企業のロゴを例にあげ、それぞれのブランドが多くの人々に共通したイメージを喚起させることを提示。ホテルでいえば、インターコンチネンタルやホリデイ・インといったそれぞれのブランディングが、ホテルのサービスや設備のスタンダードや内容を象徴するものとなり、企業から顧客へのメッセージを統合したものとなる。ブランディングが確立すれば、他社との差別化が際立ち、顧客の安心に結びついていくとディグネジオ氏は語る。
そのうえで、MICE誘致成功の鍵の一つとしてディグネジオ氏があげるのが“In The Know”。すなわち「その土地ならでは体験」をMICE参加者に提供できるかどうかだ。「ホテルはその土地に深く結びついたインサイダーコネクションを得やすい。In The Knowはホテルがその強みを発揮できるポイント」と語る。
例えば、横浜のインターコンチネンタルホテルでは、市内にある有名な日本庭園の三渓園と提携して横浜ならではのパーティを演出したり、市内の野島公園で海を浄化する作用のあるアマモを植えるボランティアを提案して開催者の社会貢献(CSR)のニーズに対応したりと、デスティネーションの特色をいかした積極的な提案が用意されているという。
ディグネジオ氏は最後に、各地のコンベンションビューロー(CVB)の重要性に触れ、CVBやデスティネーション自体のブランディングの重要性を強調。セールスにはチームを組んで戦略的に動くことが重要で、トレードショーへの参加や出店などの外へ出ていくマーケティングと差別化が成功の鍵と述べた。
英語力とビジネスセンスを持った人材育成とソリューション誘致
「クライアントが何を求めているのか、また競合相手が何を『切り札』と考えているかといった情報、すなわちコア・インフォメーションを掴んでいるかどうかが勝敗を決める」と、MICEにおける情報収集の重要性を強調するのは、国際会議の誘致で長い実績を持つ川島アソシエイツ代表の川島久男氏。川島氏は国際的なロビー活動をできる人材を増やすことが、日本におけるMICE発展に不可欠と語る。こうした人材に望まれる資質として英語力はもちろんだが、見逃せないがビジネスセンス。MICE開催のやりとりは、本質的にはビジネス交渉。MBAなど、ビジネス関連の高度のトレーニングを受けた人材を中心に、長期的な人材育成が必要だ。
MICE誘致でもう一つ大切なことは、クライアントへのアプローチの仕方。従来のような「御用聞き型」もしくは「商品説明型」のアプローチには限界があると、川島氏は指摘する。これからは、主催者の抱える問題に対してトータルな解決策を提案する「ソリューション誘致」が求められており、すでに海外ではこの傾向が強まっているという。
開催者のなかには、国際会議を運営することに慣れていない人(組織)も少なくない。開催者が運営のノウハウも知らぬままプロジェクトが進みはじめてしまうことも多い。そうした開催者側の不安や問題点を的確につかみ、解決策を示すことで誘致をするのが「ソリューション誘致」だ。開催の資金集めから、組織運営、参加者集めまで、主催者が抱える多様な問題へ提案できることは多い。主催者の求めているものを積極的に掘り起こしていく情報収集が、誘致成功への力となると川島氏は語る。
例えば、ホテルの会場費が予算をオーバーしている場合、従来の解決策として考えられるのは値引き交渉や会場のサイズダウンなどだろう。しかし、ソリューション型の誘致では、MICEの開催時間を1時間短くして、ホテル側が会議終了後にその会場を別のクライアントが使えるようにする提案をする。ホテル側にも開催者側にも受け入れやすい「ソリューション」を示していくのだ。また、開催者の資金が十分でない場合は、資金確保の手段から提案していくことが「ソリューション」に結びつく可能性も高い。
最後に川島氏は、1979年に6万人規模で開催された世界産科婦人科連合世界大会や、83年に1万5000名が参加したFDI年次世界歯学大会のように、日本で開催されてからすでに20年たっている大型の世界会議が数多くあることを指摘。今こそ、再び日本にこうした国際会議を再び誘致するチャンスと締めくくった。
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◆取材ノート:MICE誘致の鍵は情報と人材−観光庁主催シンポジウム(2010/07/20)
地域ブランディングの重要性
シンポジウムの後半、3人目の講師として登場したのは、IHG・ANA・ホテルズグループのジャパンカンファレンス&イベント統括部長であるエリック・ディグネジオ氏。「MICEとブランディング」をテーマに、MICE関連のマーケティングではブランディングが非常に有効なツールであることを語った。
ディグネジオ氏は、自動車会社からファーストフードのチェーン店まで、さまざまな企業のロゴを例にあげ、それぞれのブランドが多くの人々に共通したイメージを喚起させることを提示。ホテルでいえば、インターコンチネンタルやホリデイ・インといったそれぞれのブランディングが、ホテルのサービスや設備のスタンダードや内容を象徴するものとなり、企業から顧客へのメッセージを統合したものとなる。ブランディングが確立すれば、他社との差別化が際立ち、顧客の安心に結びついていくとディグネジオ氏は語る。
そのうえで、MICE誘致成功の鍵の一つとしてディグネジオ氏があげるのが“In The Know”。すなわち「その土地ならでは体験」をMICE参加者に提供できるかどうかだ。「ホテルはその土地に深く結びついたインサイダーコネクションを得やすい。In The Knowはホテルがその強みを発揮できるポイント」と語る。
例えば、横浜のインターコンチネンタルホテルでは、市内にある有名な日本庭園の三渓園と提携して横浜ならではのパーティを演出したり、市内の野島公園で海を浄化する作用のあるアマモを植えるボランティアを提案して開催者の社会貢献(CSR)のニーズに対応したりと、デスティネーションの特色をいかした積極的な提案が用意されているという。
ディグネジオ氏は最後に、各地のコンベンションビューロー(CVB)の重要性に触れ、CVBやデスティネーション自体のブランディングの重要性を強調。セールスにはチームを組んで戦略的に動くことが重要で、トレードショーへの参加や出店などの外へ出ていくマーケティングと差別化が成功の鍵と述べた。
英語力とビジネスセンスを持った人材育成とソリューション誘致
「クライアントが何を求めているのか、また競合相手が何を『切り札』と考えているかといった情報、すなわちコア・インフォメーションを掴んでいるかどうかが勝敗を決める」と、MICEにおける情報収集の重要性を強調するのは、国際会議の誘致で長い実績を持つ川島アソシエイツ代表の川島久男氏。川島氏は国際的なロビー活動をできる人材を増やすことが、日本におけるMICE発展に不可欠と語る。こうした人材に望まれる資質として英語力はもちろんだが、見逃せないがビジネスセンス。MICE開催のやりとりは、本質的にはビジネス交渉。MBAなど、ビジネス関連の高度のトレーニングを受けた人材を中心に、長期的な人材育成が必要だ。
MICE誘致でもう一つ大切なことは、クライアントへのアプローチの仕方。従来のような「御用聞き型」もしくは「商品説明型」のアプローチには限界があると、川島氏は指摘する。これからは、主催者の抱える問題に対してトータルな解決策を提案する「ソリューション誘致」が求められており、すでに海外ではこの傾向が強まっているという。
開催者のなかには、国際会議を運営することに慣れていない人(組織)も少なくない。開催者が運営のノウハウも知らぬままプロジェクトが進みはじめてしまうことも多い。そうした開催者側の不安や問題点を的確につかみ、解決策を示すことで誘致をするのが「ソリューション誘致」だ。開催の資金集めから、組織運営、参加者集めまで、主催者が抱える多様な問題へ提案できることは多い。主催者の求めているものを積極的に掘り起こしていく情報収集が、誘致成功への力となると川島氏は語る。
例えば、ホテルの会場費が予算をオーバーしている場合、従来の解決策として考えられるのは値引き交渉や会場のサイズダウンなどだろう。しかし、ソリューション型の誘致では、MICEの開催時間を1時間短くして、ホテル側が会議終了後にその会場を別のクライアントが使えるようにする提案をする。ホテル側にも開催者側にも受け入れやすい「ソリューション」を示していくのだ。また、開催者の資金が十分でない場合は、資金確保の手段から提案していくことが「ソリューション」に結びつく可能性も高い。
最後に川島氏は、1979年に6万人規模で開催された世界産科婦人科連合世界大会や、83年に1万5000名が参加したFDI年次世界歯学大会のように、日本で開催されてからすでに20年たっている大型の世界会議が数多くあることを指摘。今こそ、再び日本にこうした国際会議を再び誘致するチャンスと締めくくった。
中国からのインセンティブ旅行とビザの課題
日本政府観光局(JNTO)上海事務所の鈴木克明氏
によると、JNTOが誘致にかかわり、2009年に日本へ
のインセンティブ旅行が実施された件数は68件4259
名となっている。これは前年度に比べ、件数では
19.3%、人数では32%の増加だ。これに加え、上
海の大手旅行会社5社がインセンティブ旅行(ほと
んどは団体観光ビザでの訪日)は合計で7600名に
のぼっている。ビザの規制が緩和された今年はさら
に増加するものと期待され、北京から日本へ1万人
単位のインセンティブ旅行も決まったばかりだ。
一方、鈴木氏は上海のインセンティブ旅行の専門業
者から聞いた「日本へ行きたいという人は増えている。
しかし、その80%近くが最終的には諦めている」というコメントを紹介。日本がほかの競合
地域に比べ、価格、情報不足などの理由で多くのチャンスを失っていると指摘する。
ビザも誘致に結びつけにくい原因の一つだ。同一日程で行動するグループなら団体ビザで
対応できるが、MICEの場合、会議の後に小グループに分かれて旅行するなどという企画にう
まく対応できるビザがない。商務ビザを取れば行動は自由になるが、商務ビザ発行に必要な
招聘状を出してくれる企業などを見つけるのが難しい。中国からのMICE訪日客を増やすには、
新たなビザのカテゴリーの設定や、各地のコンベンションビューロー(CVB)が招聘状を発
行できるような体制が必要となるだろう。
取材:宮田麻未、写真:神尾明朗