現地レポート:オーストラリア、タスマニア州、世界遺産の大自然と文化

  • 2010年5月6日
タスマニアの変化に富んだ大自然でアクティビティ
街散策で開拓時代の歴史と情緒に触れる楽しみも



 タスマニア州は複雑な海岸線、急峻な山々、深々とした原生林の森など変化に富んだ自然が美しい。北海道をやや小さくしたくらいの大きさの島で、緯度も南北がほぼ同じ位置にあるせいか風景もよく似ており、どこか懐かしさを感じる。自然が美しいだけでなく、英国入植時代の比較的早い時期に開拓されたため、当時をしのばせる建物やイングリッシュ・ガーデンなど見どころも多い。ワインや料理が大変美味しいのも知られざる魅力だ。30代40代女性や熟年層にアピールするテーマもあり、ツアーでその見どころを案内することはもちろん、セルフドライブが可能ならレンタカー利用の自由気ままな旅行もすすめたい。


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ダブ湖一周ウォーキングで、世界遺産の自然を満喫する

 タスマニア州の北の入り口となるデボンポートへは、メルボルンから客船「スピリット・オブ・タスマニア」で渡った。デボンポートを一気に南下し、2時間30分ほどで最初の目的地クレイドル山/セントクレア湖国立公園に到着。標高1617メートル、州内最高峰のオサ山を中心に原生林が茂り、多くの湖が点在する広大なエリアは世界遺産に登録されている。原生林の緑と頂上付近の岩山のコントラストが美しく、クレイドル(ゆりかご)という名の通り特徴ある形が印象的だ。


 このエリアには数多くのトレッキング・コースがある。翌日はその中で最もポピュラーなダブ湖サーキットに挑戦した。出発点のダブ湖駐車場から30分ほど歩くと、グレイシャーロックという巨大な岩に到着する。湖を右手に森林を左手に見ながら歩く道はほぼ平坦で、ところどころ木道が整備され歩きやすい。しばらく進むと雲の合間から陽が差しはじめ、その瞬間を待っていたかのように野鳥が一斉にさえずりはじめた。雨上がりのため木々の香りが強く立ちのぼり、まさに森林浴だ。


 約1時間半のウォーキングは誰でも歩ける安全なコースで、この日も老若男女多くの観光客が歩いていた。足に自信のない人はグレイシャーロックまででもいいし、健脚派は尾根伝いにマリオン展望台までの1日コースを登ってもいい。いずれもクレイドル・マウンテンをはじめ、周囲のすばらしい眺望が楽しめる。この地方は雨が多いため、ウォーキングや山々の展望を楽しむなら、最低2泊はしたい。





ウェリントン山を自転車で一気に下る

 人口20万人、シドニーに次いで2番目に開拓された歴史のある州都ホバートでも、大自然でのアクティビティが楽しめる。街の西20キロメートルには標高1270メートルのウェリントン山がそびえ、山頂からはホバートの港と街並の美しい景色が望める。この山頂から街まで自転車で一気に下る「アイランド・サイクル・ツアーズ」に参加した。


 この日の参加者は6人。自転車とジャケット、ヘルメット、手袋が貸し出され、山頂での記念撮影の後、主催者を先頭に一列になってスタート。原生林の中をマイペースでひたすら下る。体力はそれほど必要ないが、山頂付近は勾配がややきつく、ブレーキをかける手が疲れてくる。風が強いがかすかにユーカリの香りを感じて爽快だ。しばらく走ると木々の合間にホバートの街と港が見え隠れしてくる。


 途中、何回か短い休憩を設けてくれる。中盤に入り勾配が緩み走行にも慣れてくると、下界の景色を楽しみながら走る余裕が生まれてくる。途中で希望者はオフ・ロードも体験できるが、急勾配で滑りやすいため慣れてない人は避けたほうが無難だ。やがて景色が町並みに変わり、さらにひと走りすると終点の港町に到着。約2時間のツアーは伴走車が最後尾を走り、対向車も少ないので安心だ。ホバートならではのアクティビティとして行動派におすすめしたい。



古い街並みと渓谷美が隣りあわせ、世界遺産候補の豪農屋敷も

 活発なアクティビティばかりではない。島の北部に位置するロンセストンは、今なお英国風の建物や庭園が多く残る美しい街で、クレイドル・マウンテンへのツアーの起点でもある。ここではぜひ街の西側にあるカタラクト渓谷を訪れたい。駐車場からチェアリフトに乗り、長い吊り橋の上から渓谷を見て歩くこと1時間。街の近くとは思えない静寂に包まれたウォーキングは、旅の途中のいい気分転換になる。


 また、ロンセストンをホバートに向かって下る途中に、かつて羊毛で財を成した豪農の屋敷だった「ウルマーズエステイト」がある。1817年に建てられた屋敷には、所狭しとばかりにイギリス製の高価なアンティーク家具やピアノ、天蓋付きのベッドや生活用品の数々が展示され、思わず当時にタイムスリップした気持ちになる。現在、世界遺産の候補になっており、登録が決まる頃には敷地内のレストランも完成する予定だ。


 さて、ここまでの旅程でも熟年の旅行者が多いことに圧倒されたが、ロンセストンでは「シニアズ・コーチ・ツアーズ」とペイントされた現地旅行会社のバスを見かけた。自然や動物が好きな人々におすすめのデスティネーションだが、手軽にまわれる大きさ、美味しいフードやワイン、穏やかな気候、ヨーロッパ風の美しい町並みなど、熟年旅行者を惹きつける要素が沢山ある。



話題のレストラン&ベーカリーでグルメも楽しむ

 食事はその土地の風土を楽しめる絶好の機会。タスマニア州でもぜひ、大自然が育んだ食文化を楽しみたい。今、タスマニア州でいちばん美味しいレストランと評判なのが、ロンセストンにある「スティルウォーター」だ。実はタスマニア州はソバの産地で、端境期の日本へも輸出しているほど。スティルウォーターでもソバやそうめんを使ったメニューを出す。また、タスマニア特産の牡蠣は小ぶりながらクリーミーな味が絶品。周辺はワインの産地としても知られており、美味しい料理とワインをゆっくりと楽しみたい。


 また、メルボルンから客船「スピリット・オブ・タスマニア」で島へ渡ると、デボンポートに午前7時に到着する。クレイドル・マウンテンへ向かうドライブの途中に「美味しい朝食をとるならここ」と、ラトローブにあるチョコレートファクトリー「ハウス・オブ・アンバース」を訪れた。店はチョコレートの本場のベルギー人がオーナーで、チョコレートに関する展示品や製造過程が見学できるほか、カフェでは朝食やランチ、アフタヌーンティが用意されている。


 また、ロンセストンとホバートのほぼ真ん中にある小さな町、ロスにも有名な食のスポットがある。メインストリートにある「ロスビレッジ・ベーカリー」だ。アニメ「魔女の宅急便」のモデルと噂されるお店で、2階がキキの寝室(宿泊可)、1階が働いていたベーカリーという設定。ドライブの途中、併設のカフェでぜひ焼きたてのキッシュやパイを味わいたい。



動物もテーマのひとつ、タスマニアンデビルも間近に

 タスマニアは野生動物の宝庫で、そのひとつがタスマ
ニアンデビルだ。かつては家畜を襲う有害動物として駆
除され、現在は感染すると死に至る病気の蔓延で絶滅の
危機にさらされている。その貴重なタスマニアンデビル
を保護・飼育しているのが、クレイドル・マウンテンに
ある「デビルズ@クレイドル」だ。タスマニアンデビル
の生態について学んだあとは、飼育員の胸に抱かれた彼
らに触れることも可能。荒々しく肉に喰らいつく様子も
フェンス越しに観察できて興味深い。

 また、ホバートの近く「ボノロング・ワイルドライフ・
パーク」でも動物と触れあえる。入園したとたん、たち
まち餌をねだる小型のカンガルーに囲まれた。自然の地
形を生かした園内ではコアラ、エミュー、ウォンバット、
タスマニアンデビルなどオーストラリア固有の動物が飼
育され、間近に眺めることができる。タスマニアンデビ
ルが、飼育員の胸に抱かれ甘えている様子がほほえまし
い。




取材協力:ビクトリア州政府観光局、タスマニア州政府観光局
取材:戸谷美津子