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現地レポート:上海と江蘇省、万博前プレビュー視察、周辺都市観光

  • 2010年4月2日
上海万博まであと1ヶ月、大型視察団を派遣
周辺都市の揚州、蘇州含めた商品造成を


 5月1日の上海万博開幕まであと1ヶ月をきった。日本人入場者数100万人という目標を掲げている中国国家観光局は3月3日から3泊4日の日程で、上海市観光局、江蘇省観光局と共催で、日本の旅行会社およびメディアから総勢354名の大視察団を招聘。100万人の目標実現に向け、旅行会社の商品企画に役立ててもらう目的で企画したもので、上海市内観光や万博会場の施工状況、周辺都市の観光素材の視察のほか、旅行会社向けの説明会も開かれた。
              
            
近未来都市、万博のテーマにもマッチ

 今回の視察では、札幌、新潟、東京、中部、大阪、広島、岡山、そして福岡の日本全国から参加者を集めた。羽田発を除き、各地から上海浦東国際空港へ集まった視察団のうち、半分はリニアモーターカーで上海市内へと移動。浦東空港と上海市郊外の龍陽路駅間の約30キロを結び、7分間で移動することができる。最高速度は時速430キロメートルで、車内の電光掲示板で常に速度を示しており、掲示板を写真に撮る人が多かった。短い時間とはいえ日本では実用化されていないだけに、リニアモーターカーに乗ること自体がちょっとしたアクティビティのようだ。

 上海市内視察では2008年に完成した上海環球金融中心(通称「森ビル上海ヒルズ」)を訪れた。行く階層によって入場金額が異なるが、エレベーターを乗り継いで100階の展望台まで昇ることができる。展望台までの道筋は全体的に宇宙船の中をイメージさせる近未来風で、モダンな上海を象徴しているようである。当日は曇天のため視界は真っ白だったが、展望台は足元までガラス張りなので晴天の日は市街が眼下に広がり、さぞ壮観だろう。

 また、エレベーターの中継地点でもある94階にお土産ショップがあり、同ビルのオリジナル商品が売られている。人気イラストレーターのtaiko matsuo(松尾たいこ)氏が上海ヒルズを描いた絵葉書やクリアファイルといった文房具、さらに不二家ミルキーのオリジナルデザイン缶もあり、人気を博しそうだ。

 リニアモーターカーといい、上海ヒルズといい、日本より一歩進んだモダンなイメージ。上海万博では「better city, better life(より良い都市、より良い暮らし)」をテーマに掲げており、未来の都市生活を思わせる観光素材は、万博のテーマにもあっている。


予想以上に広い会場

 万博会場を視察したのは3月4日。会場は広大で、開催後も万博公園として街並みを残すため、敷地内の道路は一般道路のように広い。そのため、来場者の会場内の移動の足として、電動バスを運行するほか、運河をフェリーで渡って川向こうの会場に行けるようになっている。会場内の道路には信号や横断歩道がある箇所もあり、観光中はつい浮かれがちになるが、参加者には注意して歩行することを促したい。

 また、会場が非常に広いため、1日だけでの見学の場合は事前にパビリオンの予約や休憩所の確認をし、要領よくまわれるようにするといいだろう。パビリオンの事前予約は3日前まで受け付ける。休憩所は3万人分を確保してあるというが、食事はファストフードが中心とのことなので、シニアのグループなどには気を配る必要がありそうだ。

 上海世博局(上海万博当局)のブリーフィングによると、開幕までにすべての工事が完了するか不安視されてはいるが、3月4日現在のところ、全体の95%が完成しているという。各国のパビリオンも80%が完成しているといい、残りも工事が進められている。また、現在152の国家と50の機構の参加が決定しているが、さらに3ヶ国が参加するかもしれないとのこと。中国政府および上海市当局も食品の安全性、インフラの整備などさまざまな点に気を配り、世界基準の満足度の高い万博をめざすという。

 インフラでは特に万博入場者による混雑を避けるため、万博専用地下鉄をつくったほか、バス専用のトンネルも設置。また、フェリーでのアクセスも可能とし、市内交通の混雑解消に努めている。

 上海世博局チケット販売担当主任の陳卓夫氏によると、2月末までにすでに2100万枚を売り上げており、3回、7回入場券も発売が開始されている。5月と10月の希望が多く、6月と9月には余裕がある。また、日中の混雑を避けるため、5月以降は夜間券も発売されるという。


揚州の歴史散策もおすすめ

 今回の万博開催にあたり、上海市に隣接する江蘇省が滞在中の観光地として名乗りをあげている。多くの歴史上の有名人を輩出したことで知られ、水郷や歴史建造物などが見どころだ。今回は江蘇省の北部の街、揚州へ。上海駅から「動車組」快速列車で鎮江駅まで2時間弱の途だが、車内の設備などは日本の新幹線と変わらず快適。ただし、当日にチケットを購入するのは難しいとのことで、FIT客には事前に購入するよう案内するといいだろう。

 鎮江駅から近い鎮江西津古渡は古い町並みを整備した観光地で、小さな路地や石畳の雰囲気がいい。絵画や書画を制作する家や土産物屋もそれとわからないほど静かな佇まいで、ぶらりと散策するのによさそうだ。また、川のように見えるが実は湖という揚州痩西湖ではボートによるクルーズが楽しめる。周辺は公園になっており、散策もできるようになっていた。雨天でも山水画のような美しさでまた別の魅力がある。

 ほかに、奈良時代に日本に渡り、戒律を広めたことで知られる鑑真が住職であった大明寺や、清の時代に建てられた庭園「个園」(こえん)もぜひ立ち寄りたい。当時の富豪の別荘であったという个園は敷地が大変広く、横道が多いためグループで見学する場合は迷子に気をつけたい。園の周りには宿泊施設やみやげ物店が並んでおり、こちらも雰囲気のある町並みとなっている。少しゆっくり見て回る時間があるとうれしい。

 また、上海市に最も近い都市の蘇州も、周辺の水郷の町や世界遺産の拙政園、シルク工場見学など文化的な名所が多く、江蘇省が「万博は上海、観光は蘇州」をキャッチコピーにアピールするほどの観光都市。蘇州では視察参加者が集まる機会があり、視察団の団長を務めた日本旅行業協会(JATA)理事長の柴田耕介氏が、「蘇州は日本人になじみやすく、多くの著名人を輩出していることから、その人を中心とした歴史的な商品造成が好まれるのではないか」と述べ、「ビジュアルに訴えるイメージを用い、ドラマチックなストーリーを打ち出して宣伝してみては」と提案。上海から足を伸ばした観光を組み込むことで、万博ツアーの魅力付けのみならず、万博後の上海ツアー造成に備えたい。






万博後が大切、幅広い切り口で送客を

 上海万博で100万人の日本人渡航者を見込む中国だが、
上海市観光局日本旅遊市場首席顧問の岡本義正氏はすで
に“その後”を見ている。岡本氏によると、上海市は万
博に向けた都市整備もさることながら、人材も目覚しい
発展を続けている。英語を話す人口は日本よりも多く、
海外経験のある人も多い。万博後にはさらに加速され、
上海だけでなく地方都市も急激に発展することが見込ま
れる。そのため、ビジネスや研修などでの渡航の関心が
広がると考えている。

 上海市観光局では1995年から若い女性をターゲットに
した活動を展開しているが、近年「世界でキャリア」と
いうキーワードで現地研修を盛り込んだプログラムを作
成したところ、手ごたえがあったという。上海は世界に
通用する国際都市であるという認識が、若い女性層の間
で想像以上に広がっていると話す。

 シニア層へも引き続きアピールする予定で、中国人に
人気の「銀髪旅行」を積極的にフィーチャーしていくと
いう。「銀髪旅行」とは中国におけるシニア向け旅行の
ことで、郊外や田舎町などを歩いてめぐるプラン。また、
文化大革命で若い頃に勉強ができなかった世代に人気の
「老年大学」に入学し、学生との合唱や料理などの体験
型アクティビティもすすめる。“より良い都市”をテー
マに掲げる上海では観光だけでなく、経済、株式、技術
などさまざまな分野で渡航者の興味を捉え、「幅広く、
手広く」展開してほしいと話した。


取材協力:中国国家観光局、上海市旅遊局、江蘇省旅遊局、日本旅行業協会、
全国旅行業協会、中国東方航空
取材:岩佐史絵