取材ノート:選ばれる企画へのヒント−人気番組のプロデューサーが語る

制作スタッフ全員の企画に傾向が反映

「“遠くに行ってみたい”という歌が流行れば南アメリカやアフリカの人気があがるし、東南アジアのブームがくればアンコールワットやミャンマーなどがウケる」と岩垣氏。かつては「行きたいところが見たいところ」であったが、視聴者が自ら旅行を気軽にできる時代に変わり、さらにバブルの崩壊以降は絶景モノが流行るなど、時代とともに傾向が変わってきているという。
ころころと変わる人の気持ちを量るのには番組の視聴率が役に立つ。「最近は冒険などがウケなくて残念」だが、昨年放送した英国のコッツウォルズ地方を取り上げた回では、歩く速度でしか川下りができないのどかな水路などを紹介したところ、16%というこれまでで一番の数字を示したという。そのことから「日本人は疲れている。ゆっくりと旅がしたいのだということがわかった」と岩垣氏。近年では視聴者の動向にあわせて、静かな旅や最近流行りつつあるスピリチュアル旅行、国内などにスポットをあてた番組制作をしている。とはいえ、「来年はどうなるかわからない。今年は政権交代があったので、動きのある内容がウケるかもしれない。フランス革命なんてどうだろう」と、またも視聴者の傾向が変化する予感にアンテナを張る。
世間にあわせてマイナーチェンジ
見せ方にも傾向がある。これまでは絶景なら絶景だけを、スフィンクスならその雄姿だけを見せればよかったが、今ではそこへたどりつく道程までもが見せるポイントとなっている。たとえば60回以上の放送回数というエジプトは、さまざまな仮説があり、その謎解きをするのが現代の流行だ。答えだけを出すのではなく、謎に迫っていくその過程までじっくり見せて初めて視聴率が上がるという。
ほかにも、同番組は家族向けに作られており、当初は演者にもそれぞれ「おとうさん」「おかあさん」の“役割”があったのだというが、「もはや家族で同じテレビ番組を観る時代ではなくなった」今、演者は同じでもその“役割”はなくしたという。「世間にあわせて常にマイナーチェンジをしている。そうして生き延びている番組」と、世間の動向をしっかり見極める必要性を説いた。
情報と傾向を読み取る力

テレビは大変影響力の強いメディアであるため、逆にトレンドを作ることができないかとの問いには、「それも考えたことがあったが、消費者はそんなに甘くない。こちらの思い通りには決してなってくれない」とのこと。タイミングや世間の空気というものがあり、それを見誤るとどんなに内容がよくてもウケないということもある。やはり必要なのは情報量と傾向をしっかり読み取る力に限られているということだ。
取材:岩佐史絵