MICE特集、オーストラリアMICEの現状−ドリームタイム現地取材
オーストラリア政府観光局(TA)は団体旅行とインセンティブツアーに特化したマーケティング、ピーアール活動をしており、そのショーケースとなるイベント「ドリームタイム2009」を10月12日から16日にかけて開催した。その一環であるトレードショーは、シドニーのミルソンズポイントにあるルナパークで実施。15ヶ国から旅行会社77人がバイヤーとして集まり、現地出展者の53社との商談会がおこなわれた。会場で、企業ミーティングやインセンティブツアー、社員旅行など団体・企業で発生する旅行を対象にしたビジネスイベント・マーケットについて、オーストラリアの現状を現地関係者に取材した。
経済危機よりも影響の大きかった新型インフルエンザ
修学旅行に大きな影響を与えた新型インフルエンザは、ビジネスイベント・マーケットにも打撃を与えた。オーストラリアの団体受け入れの担当者たちは、経済危機よりも新型インフルエンザの打撃が大きかったと口を揃える。ジャルパックインターナショナルオセアニアのオペレーション部手配商品担当部長の森信敏氏は、「日本は新型インフルエンザにすぐ反応し、グループはすべてキャンセルになった。国内と日本以外の海外マーケットが回復したのに比べ、日本の落ち込みが大きかった」と話す。ビジネスイベントについて「企業は、本社が行かなくなると支社も出なくなる。個人旅行でも海外渡航を推奨しない会社があるなどダメージは大きかった。上期のキャンセル分が下期に流れてきているものの、インフルエンザが流行する可能性のある日本の冬にどうなるか」と、森氏は懸念する。
一方、オーストラリアに142軒を所有するアコーホテルズのビジネスイベント担当者は次のように話す。「今年は経済危機に加え、新型インフルエンザの影響でグループはサイズが小さくなり、部屋のグレードも下がって期間も短くなった」。しかしながら、「これは不況で旅のスタイルが変わっただけで、需用自体がなくなったわけではない」と述べる。実際にオーストラリア国内ではすでに景気が回復傾向にあり、アコーホテルズをはじめとするホテルや、イベントセンターからは「2009年下期は前年同期よりよくなっている」という声が複数聞かれた。
日本からのビジネスイベント市場は3万9000人
2008年には日本から45万7232人がオーストラリアに訪れ、そのうちおよそ3万9000人がビジネスイベントを目的に訪れている。入国カードの目的欄に「大会/会議」とチェックした日本人は1万430人、「商用」は4万337人。TAではこれらの統計を元にヒアリング調査を実施し、企業ミーティング、国際会議、セミナー、展示会などを「ビジネスイベント」、報奨旅行を「インセンティブ」としてビジネスイベント・マーケット全体の集計をしている。2008年の日本人訪問者数のうちビジネスイベント目的は1万5000人、インセンティブ目的も同様に1万5000人だが、小規模団体がパッケージツアーや募集型旅行を利用するケースが反映されていないため、これらを加味し、ビジネスイベント・マーケット全体として3万9000人と算出している。2008年のオーストラリア全体のビジネスイベント・マーケット合計は733万人。そのうち、海外からは51万人で、日本はこのトップ10マーケットに入っている。
ちなみにTAのリサーチセクション、ツーリズム・リサーチ・オーストラリア (TRA)の統計によれば、企業ミーティングや展示会などのビジネスイベントの海外からの訪問者は、ニュージーランド、アメリカ、中国、英国、シンガポールの順に多く、日本は6番目の市場でシェア4%。また、インセンティブ目的では中国、ニュージーランドに次いで3番目の規模で全体の9%を占める。
TAのビジネスイベント・オーストラリア(BEA)のトップであるジョイス・デマシオ氏は日本マーケットについて、「日本はレジャー、ビジネスともに重要なマーケットだが、この3年間は両セクターともに厳しい状態にある」と現状を説明。そのうえで、日本マーケットに対する方針として「日本がイタリアや米国、中国などのデスティネーションに関心を持つなかで、オーストラリアを考慮してもらうような施策を打っていく。旅行業界の信頼関係をより強固にすることを目的に、セミナーなどを開催する。ドリームタイムでのネットワーク作りとプログラムの体験もそのひとつ」と、直接対話ができる機会を設けていく考えだ。また、オーストラリア政府観光局(TA)マーケティング統括本部長ニック・ベイカー氏は「日本マーケットは絶えず新しいもの、これまでと異なるものを求める傾向がある。このニーズに応えるべく、メディアや旅行業界を通じてオーストラリアが新鮮で刺激的なデスティネーションであることを伝えていきたい」と話す。
また、ビジネスイベントを開催するには充実した航空座席とネットワークも重要だが、カンタス航空(QF)インターナショナルセールスのエグゼクティブマネージャーであるスティーブン・トンプソン氏は「日本線はオーストラリアからのアウトバウンドが増え、利用者のバランスがほぼ均等となっている。QFにとって日本路線は重要」と強調。「ジェットスター(JQ)との2ブランド戦略で収益をはかる方針は変わらず、成田/シドニー線をJQに移管させることはない」と話す。また、日本航空(JL)とのシンガポール経由のコードシェア便については「ゲートウェイのオプションを提供することができた」と評価し、日本/オーストラリア間の路線は、今後も現状を継続していく意向を示した。
CSR調達の一環として
不況下にあって、これまで以上に海外でのビジネスイベントがどれだけメリットがあるか、明確な価値観を打ち出していくことが求められる。これに加え、「トップクラスのインセンティブはヨーロッパ、社員旅行はハワイやアジア」といわれる状況で、オーストラリアの優位性も打ち出していく必要がある。
ひとつの手段として、TAが推進するCSR(企業の社会的責任)に注目したい。CSR調達は世界的な流れだが、旅行会社が環境配慮を徹底するサプライヤー、素材、サービスを精査することで、旅行会社としてCSR調達を行なっていることをアピールでき、かつ商品の差別化もできるのではないか。今回のドリームタイムではCSRを重視するサプライヤーが選ばれており、例えば、今年オープンしたメルボルンのコンベンションセンターや、シドニーのイベントセンター「ダーリング・アイランド・ワーフ」は、ともに国内の環境性能評価基準「グリーンスター」の6ツ星を取得しており、これらを取り込むのもひとつの案だ。すでにニュー・サウス・ウェールズ州は2020年までにカーボンニュートラル(CO2の排出量と削減量をプラスマイナスゼロにする)を実現することを打ち出しており、今後は旅行商品造成においても環境配慮を求められる可能性もある。
また、TAのベイカー氏がいうように、オーストラリアを常に“新しい”インセンティブデスティネーションとして見てもらうためには、時差が少ないといった物理的メリットと同時に、エリア・素材の多様性を強調すべきだろう。ケアンズやゴールドコーストなどのリゾートからメルボルンやシドニーのような大都会、アウトバックから珊瑚礁の海に熱帯雨林、独特の動植物が棲む大自然までを擁する日本の20倍もある大陸は、とても1度の訪問では体験し尽くせない素材にあふれている。そこからニーズにあった素材をピンポイントで提供していくことが鍵となる。2008年の海外からオーストラリアへのビジネスイベント目的の訪問者の6割が再訪だった。この数字がこの国の実力を示している。
▽オーストラリア政府観光局 ビジネスイベント専用サイト
http://businessevents.australia.com/ja-JP/index.aspx
▽関連記事
◆オーストラリア政観、ビジネスイベント地のブランド強化、CRSを推進(2009/10/19)
経済危機よりも影響の大きかった新型インフルエンザ
修学旅行に大きな影響を与えた新型インフルエンザは、ビジネスイベント・マーケットにも打撃を与えた。オーストラリアの団体受け入れの担当者たちは、経済危機よりも新型インフルエンザの打撃が大きかったと口を揃える。ジャルパックインターナショナルオセアニアのオペレーション部手配商品担当部長の森信敏氏は、「日本は新型インフルエンザにすぐ反応し、グループはすべてキャンセルになった。国内と日本以外の海外マーケットが回復したのに比べ、日本の落ち込みが大きかった」と話す。ビジネスイベントについて「企業は、本社が行かなくなると支社も出なくなる。個人旅行でも海外渡航を推奨しない会社があるなどダメージは大きかった。上期のキャンセル分が下期に流れてきているものの、インフルエンザが流行する可能性のある日本の冬にどうなるか」と、森氏は懸念する。
一方、オーストラリアに142軒を所有するアコーホテルズのビジネスイベント担当者は次のように話す。「今年は経済危機に加え、新型インフルエンザの影響でグループはサイズが小さくなり、部屋のグレードも下がって期間も短くなった」。しかしながら、「これは不況で旅のスタイルが変わっただけで、需用自体がなくなったわけではない」と述べる。実際にオーストラリア国内ではすでに景気が回復傾向にあり、アコーホテルズをはじめとするホテルや、イベントセンターからは「2009年下期は前年同期よりよくなっている」という声が複数聞かれた。
日本からのビジネスイベント市場は3万9000人
2008年には日本から45万7232人がオーストラリアに訪れ、そのうちおよそ3万9000人がビジネスイベントを目的に訪れている。入国カードの目的欄に「大会/会議」とチェックした日本人は1万430人、「商用」は4万337人。TAではこれらの統計を元にヒアリング調査を実施し、企業ミーティング、国際会議、セミナー、展示会などを「ビジネスイベント」、報奨旅行を「インセンティブ」としてビジネスイベント・マーケット全体の集計をしている。2008年の日本人訪問者数のうちビジネスイベント目的は1万5000人、インセンティブ目的も同様に1万5000人だが、小規模団体がパッケージツアーや募集型旅行を利用するケースが反映されていないため、これらを加味し、ビジネスイベント・マーケット全体として3万9000人と算出している。2008年のオーストラリア全体のビジネスイベント・マーケット合計は733万人。そのうち、海外からは51万人で、日本はこのトップ10マーケットに入っている。
ちなみにTAのリサーチセクション、ツーリズム・リサーチ・オーストラリア (TRA)の統計によれば、企業ミーティングや展示会などのビジネスイベントの海外からの訪問者は、ニュージーランド、アメリカ、中国、英国、シンガポールの順に多く、日本は6番目の市場でシェア4%。また、インセンティブ目的では中国、ニュージーランドに次いで3番目の規模で全体の9%を占める。
TAのビジネスイベント・オーストラリア(BEA)のトップであるジョイス・デマシオ氏は日本マーケットについて、「日本はレジャー、ビジネスともに重要なマーケットだが、この3年間は両セクターともに厳しい状態にある」と現状を説明。そのうえで、日本マーケットに対する方針として「日本がイタリアや米国、中国などのデスティネーションに関心を持つなかで、オーストラリアを考慮してもらうような施策を打っていく。旅行業界の信頼関係をより強固にすることを目的に、セミナーなどを開催する。ドリームタイムでのネットワーク作りとプログラムの体験もそのひとつ」と、直接対話ができる機会を設けていく考えだ。また、オーストラリア政府観光局(TA)マーケティング統括本部長ニック・ベイカー氏は「日本マーケットは絶えず新しいもの、これまでと異なるものを求める傾向がある。このニーズに応えるべく、メディアや旅行業界を通じてオーストラリアが新鮮で刺激的なデスティネーションであることを伝えていきたい」と話す。
また、ビジネスイベントを開催するには充実した航空座席とネットワークも重要だが、カンタス航空(QF)インターナショナルセールスのエグゼクティブマネージャーであるスティーブン・トンプソン氏は「日本線はオーストラリアからのアウトバウンドが増え、利用者のバランスがほぼ均等となっている。QFにとって日本路線は重要」と強調。「ジェットスター(JQ)との2ブランド戦略で収益をはかる方針は変わらず、成田/シドニー線をJQに移管させることはない」と話す。また、日本航空(JL)とのシンガポール経由のコードシェア便については「ゲートウェイのオプションを提供することができた」と評価し、日本/オーストラリア間の路線は、今後も現状を継続していく意向を示した。
CSR調達の一環として
不況下にあって、これまで以上に海外でのビジネスイベントがどれだけメリットがあるか、明確な価値観を打ち出していくことが求められる。これに加え、「トップクラスのインセンティブはヨーロッパ、社員旅行はハワイやアジア」といわれる状況で、オーストラリアの優位性も打ち出していく必要がある。
ひとつの手段として、TAが推進するCSR(企業の社会的責任)に注目したい。CSR調達は世界的な流れだが、旅行会社が環境配慮を徹底するサプライヤー、素材、サービスを精査することで、旅行会社としてCSR調達を行なっていることをアピールでき、かつ商品の差別化もできるのではないか。今回のドリームタイムではCSRを重視するサプライヤーが選ばれており、例えば、今年オープンしたメルボルンのコンベンションセンターや、シドニーのイベントセンター「ダーリング・アイランド・ワーフ」は、ともに国内の環境性能評価基準「グリーンスター」の6ツ星を取得しており、これらを取り込むのもひとつの案だ。すでにニュー・サウス・ウェールズ州は2020年までにカーボンニュートラル(CO2の排出量と削減量をプラスマイナスゼロにする)を実現することを打ち出しており、今後は旅行商品造成においても環境配慮を求められる可能性もある。
また、TAのベイカー氏がいうように、オーストラリアを常に“新しい”インセンティブデスティネーションとして見てもらうためには、時差が少ないといった物理的メリットと同時に、エリア・素材の多様性を強調すべきだろう。ケアンズやゴールドコーストなどのリゾートからメルボルンやシドニーのような大都会、アウトバックから珊瑚礁の海に熱帯雨林、独特の動植物が棲む大自然までを擁する日本の20倍もある大陸は、とても1度の訪問では体験し尽くせない素材にあふれている。そこからニーズにあった素材をピンポイントで提供していくことが鍵となる。2008年の海外からオーストラリアへのビジネスイベント目的の訪問者の6割が再訪だった。この数字がこの国の実力を示している。
▽オーストラリア政府観光局 ビジネスイベント専用サイト
http://businessevents.australia.com/ja-JP/index.aspx
▽関連記事
◆オーストラリア政観、ビジネスイベント地のブランド強化、CRSを推進(2009/10/19)
取材協力:オーストラリア政府観光局、カンタス航空
取材:平山喜代江