現地レポート:ベルギー〜フランス、過去の文化圏を結ぶ新旅程

  • 2009年10月23日
ベルギー〜フランスの周遊ツアーに新たな切り口
フランダース地方とランスを結ぶ歴史と文化、世界遺産の旅


 ヨーロッパは、現在の国境概念では文化的相違をはかれない部分が多々ある。ベルギーと国境を接するフランスのノール地方は中世にはフランダース地方の一部であり、またフランスのブルゴーニュ地方からベルギーは、かつてブルゴーニュ公国として同じ文化圏であった。こうした背景を念頭に置きながら、前回レポートしたベルギーの旅をさらにフランスへ広げてみたい。今回はブルージュからノール地方を通り、シャンパーニュ地方の世界遺産の街、ランスを訪れてみる。



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リールでフランダース文化の名残を感じつつランスへ

 ベルギー・フランダース地方からフランスに入る場合、ブリュッセル/パリを結ぶタリスを利用するツアーが多い。しかし、今回のように縁ある地域を結ぶ旅行をするなら、鉄道や車で町々を立ち寄りながら移動したい。今回、ブルージュからフランス側最初の町としたのはリール。2007年のTGV東線の開通とともにリールからシャルルドゴール空港を経由しランス、ストラスブールを結ぶルートが開通したのだ。

 リールに入ると世界遺産の「ベルギーとフランスの鐘楼群」の一部をなす鐘楼が町の中心にそびえ建っており、フランダース語(オランダ語)からフランス語へと公用語が変わったにも関わらず、やはり同じ文化圏であることを感じさせられる。リールの市立美術館にはルーベンスの絵画も展示されているので、ルーベンスをテーマとしたツアーに組み込むのもいい。

 また、リールからランスへ向かう途中にあるアラスには08年に世界遺産に登録されたヴォーバン城塞群のひとつがある。17世紀に対オランダの前線基地として建てられた要塞で、フランスとベネルクスの国境が明確になってきた時代が垣間見えて興味深い。世界遺産志向の商品に加えるのも面白いだろう。


4つの世界遺産を擁するランス

 フランス北東部のシャンパーニュ地方にあるランスは人口約20万人。西ヨーロッパの土台を作ったフランク王国の王、クローヴィスが5世紀にキリスト教を受け入れ、洗礼を受けた地。いわば西欧キリスト教社会発祥の地といえる町で、ランスにある4つの世界遺産もクローヴィスの洗礼とフランス王家の歴史にまつわるものだ。

 町の中心にある世界遺産のノートルダム大聖堂は13世紀、クローヴィスが洗礼を受けた地に建てられた。また、フランス王が即位する際、キリスト教の儀式「聖別式」が行なわれる重要な聖地でもある。ジャンヌ・ダルクがシャルル7世をランスに向かわせたのも、聖別式が「神に祝福された王」であるためには必須だったからだ。

 教会の入口脇にある「微笑みの天使」像はゴシックの傑作といわれる彫像だが、フランス革命政府による教会打ち壊しや戦争の爆撃に加え、近年の酸性雨などで破損が激しく、現在は彫像を守るため、すべての彫像をレプリカに差し替える修復工事がされている。オリジナルが展示されているのは隣りにある世界遺産のトー宮殿。また、高級品であるフラダース産の高価なタペストリーが何枚も飾られており、この町で司教がいかに力を持っていたかをうかがわせる。

 残る2つの世界遺産は、クローヴィスに洗礼を授けた聖レミの遺体が安置された聖レミ・バジリカ聖堂とその隣りの修道院。ひとつの建物にロマネスク、ゴシック、フランボワイヤン様式が混在する珍しいものなので、建築をテーマにした客層には興味深い素材だろう。









人気高まるフジタ礼拝堂とシャンパンセラー見学

 近年、日本で認知度の高まってきた洋画家、レオナール・フジタ。彼が自身でフレスコ画を描き、現在墓所となっているのが町の北側にあるフジタ礼拝堂だ。「数年前にNHKがフジタの特集を放送して以来、日本人客は必ず立ち寄る」と現地ガイドが語る、日本人には人気の高いスポットだ。

 内部のフレスコ画には「日本に捨てられた」フジタの、それでも忘れえぬ故国への思いがにじみ出ているようで感慨深い。夫人やパトロンなど、世話になった人々がさり気に描き込まれ、また永眠の地として選んだランスをテーマにした「樽の上の聖母」の絵もあるので、ぜひガイド付きで見学したいところだ。見学は基本的に5月から10月まで。11月から4月は公開していないが、数のある団体であれば非公開時期でも見学が可能だ。

 またフジタ礼拝堂の向かいにはシャンパンメーカーのマムがある。この会社の社長がフジタのパトロンであったため、フジタもこの会社のロゼの製品キャップにバラを描いている。シャンパンセラーの見学もでき、日本語対応のスタッフもいる。大型バスが停められる駐車場もあるので、ツアーでは礼拝堂見学とともに利用できる。


再建されたアールデコの館「ヴィラ・ドゥモワゼル」

 ランスの新素材として昨年登場したのが、20世紀初頭のアールヌーヴォー・アールデコ折衷様式の館「ヴィラ・ドゥモワゼル」だ。場所は町の南西に位置するシャンパンメーカー、ポメリーの向かい側。1908年から1931年まで使われ、その後放置されていた建物を建築当初の時代様式に近い形で4年をかけて再建した。

 建物内のカーテンやステンドグラスなどの内装は地元ランスの職人によって制作され、調度はナンシー派の作品など時代にあったアンティークが選ばれている。バカラのブラッククリスタルのシャンデリアが設えられた高級感あふれる部屋ではカクテルパーティも可能。女性や世紀末建築に興味のある消費者のほか、高級商品やMICEの会場として十分に利用できる。内部の見学ツアーは要予約。1時間ほどの見学のあとに、ポメリーのシャンパンが試飲できる。

 またこの近くには高級シャトーホテル「クレイエール」が、その隣りには同ホテルの経営するカジュアル系レストラン「ル・ジャルダン・ブラッスリー」がある。カジュアル系とはいえ2ツ星で、シェフはクレイエールと同じとあって人気は高い。グループは16人程度まで受け入れている。このほかレストランではシャトーホテル「ラシェット・シャンプノワーズ」も人気。

 現在、ランスを訪れるツアーはパリからの日帰りがほとんどで、ノートルダム大聖堂とフジタ礼拝堂、シャンパンセラー見学が中心。半日市内観光後に、シャンパン街道や近郊のエペルネーにあるモエ・エ・シャンドンでドン・ペリのセラー見学をするのが主だ。しかし、今回のような歴史と文化、世界遺産でつなぐ旅や、ベルギーのビールとランスのシャンパンという食をテーマとした旅も面白いだろう。ランスでは日本人ガイドの手配も可能なので、ランス観光協会に問い合わせを。国境越えの旅は、欧州の歴史や文化の理解を深めることで一層その関連性が見え、趣深いものとなるだろう。







TGV東ヨーロッパ線の利便性をツアーにいかす
車両の機能性、沿線のデスティネーションに注目

 TGV東ヨーロッパ線(TGV東線)は、パリから
フランス東部、さらに以遠の国々への所要時間
を高速化し、新たな旅程が可能になったことで
注目をあびた。スイスやルクセンブルグ方面へ、
さらにフランクフルトやミュンヘンにも足を延
ばすことが可能になった。

 これからの季節、ヨーロッパ旅行の強力な
テーマとなるクリスマスマーケットにも、TGV東
線を利用したツアーが増えている。例えば、
フランス最古のクリスマスマーケットで有名な
ストラスブールはパリから約2時間20分。さら
に約1時間20分で、ドイツ3大クリスマスマーケ
ットのひとつ、シュトゥットガルトに到着する。
このほか、中世の雰囲気のクリスマスマーケ
ットで有名なコルマールやランス、アール・
ヌーボーの発祥地ナンシーなど沿線都市を含
めた旅程が可能だ。

 車両自体も快適に旅行できる設備が整って
おり、特に荷物置場は十分なスペースを確保。
特に2等車は車両端に加え中央部にも設置して
いる。また、ガラスで仕切られたファミリー
ルームや、電源コンセントを設けた「オフィス
ラウンジ」など、客層ごとのニーズに応えて
いる。





2ツ星レストランを擁するシャトーホテル
ラシェット・シャンプノワーズ

 ランス市内から車で5分ほどのところにある
「ラシェット・シャンプノワーズ」は2ヘクタ
ールにおよぶ美しい庭園を擁するシャトー
ホテルだ。外観はシャンパーニュ地方の旅籠
を模した邸宅だが、フロントやライブラリーは
フランスらしい洗練されたモダンな造りでまと
められている。総客室数は55室で、広々とした
部屋はエレガントな落ち着きのある雰囲気。
バスローブやスリッパなどが設えられている
ほか、室内でのインターネットの利用も可能だ。

 このホテルを最も有名にしているのはミシュ
ラン2ツ星を獲得したレストランだ。シェフの
アルノー・ラルマン氏は日本のグルメ誌はじめ
メディアでもしばしば紹介されている有名人。
ディナーは特に人気で、コース料理は130ユーロ
からという値段にもかかわらず、予約でいっぱ
いだという。レストラン利用の際は必ず予約の
確認をしたい。

 ランス駅から2キロメートルの距離にあり、
鉄道でのアクセスが便利。また、車でもシャル
ルドゴール空港へ約2時間ほどで着く。少人数
の高級グルメツアーなど、食にこだわりのある
客層にも提案できるホテルだ。


▽シャトー&ホテル・コレクション
TEL 03−5413−7045
URL http://www.chateauxhotels.jp



取材協力:レイルヨーロッパ、シャトーホテルズ、
     ランス観光局、フランス観光開発機構、
     ベルギー・フランダース政府観光局、フィンエアー
取材:西尾知子