取材ノート:危機がみせる市場変動の予兆−ミドルの高経験値層が台頭、FIT増加へ
財団法人日本交通公社(JTBF)の第14回海外旅行動向シンポジウムで、JTBF観光文化事業部主任研究員の黒須宏志氏は、「市場を注意深く観察して変化の予兆を捉えることが、中期的に利益を確保する道だ」と話し、今後の展望を語った。「マーケットは未曾有の危機下にあり、多くのリスクを抱え、転換期にある」としながらも、「変化はリスクであるがチャンスでもある」と提言。「危機では大きなトレンドの変化が起こり、以前からの傾向が加速され、時には将来の市場を垣間みせる」と語り、近年の動向の変化から、今後のリーディングセグメントや旅行会社が注目すべき客層などの調査結果を発表した。
危機は近未来の姿を見せる、伏線は10年前からあり
海外旅行マーケットはこの10年で2つの危機に直面した。ひとつは、97年から98年の98リセッション(景気後退)、もうひとつは2001年の9.11から2003年のSARSの発生だ。黒須氏は「98年当時、マーケットは回復すると信じられていたので、業界全体が大きなクライシスと捉えていなかった。だが、実は伏線はすでに90年代前半からはじまっており、重要なサインを見せていた」とする。
この時代、20代の若者層がリーディングセグメントであり、98年を契機に後退していったが、年代別の伸び率では50代が20代を上回っていた。さらに変化のサインとして、99年には海外旅行経験10回以上の高経験層の割合が42%から53%に突然上昇したこと、ハネムーン比率がこれまでの3%から1.7%に急落したこと、2000年から04年のレジャー市場でFIT比率がこれまでの10%前半から20%以上に急伸したことをあげる。
今回の危機が見せるサイン
では、今回の危機がみせるサインは何か。黒須氏は変化を読み取るポイントとして次の3点をあげた。ひとつは、08年のレジャー市場で、35歳から49歳のミドル層の高経験層の実数が増加したこと、2点目はミドル層と20歳から34歳の高経験層の牽引により、近距離でのマイル利用率が上昇したこと、3点目は09年上期のレイルヨーロッパの日本市場での発券数が伸びたことだ。
ここから読み取れる予測として、黒須氏は海外旅行マーケットの世代交代が近づいており、今後は35歳から49歳のミドル層の影響力が大きくなるとの見方を示した。これらの世代は彼らの25歳から29歳のときの出国率が15%以上、30歳以上では20%以上を誇り、各年代でピークとなった世代である。さらに、世代の旅行手配として、50歳以上の世代はパッケージが7割以上を占めていたのに対し、これらのミドル層は個別手配が4割を占めていることから、今後の市場でFITや個別手配が増加することも指摘した。
一方で、年代別の旅行申込時の窓口利用率をみると、旅行会社の店頭に足を運ぶのは20歳から34歳の若年層が最も多く、44.8%を占める。それに対して50歳以上のシニア層は電話利用が、ミドル層はインターネット利用が多い。シニア層は旅慣れており、電話で用件を済ませられること、ミドル層は個別手配の比率が高く、インターネットを使い慣れているのが理由のようだ。しかし若年層は、決済面でインターネットに不安を感じていたり、自分でクレジットカードを保有できない人も多い。また、海外旅行経験も少ないため旅行会社を頼ることが多く、「人対人」でもたらされる情報を信じているのではないかという。そのため「今後、旅行会社は若年層の対応に力を入れてもいいのではないか」というのが、黒須氏の見解だ。
今後は「地方」「若年層」「女性」に注目を
これを裏付けるのが、今年第1四半期の動向だ。GDPの伸び率、男性の出国率が右肩下がりの中、女性の出国率がぐんと伸びた。1月から4月の累計では男性の出国率が11.9%減であるのに対し、女性は6.7%増となっている。年代別では15歳から30代前半と45歳から55歳の女性の伸びが目立ち、とりわけ20歳から24歳は出国者数で最多数となっている。景気低迷により男性の業務渡航は減少しているが、韓国など近距離を中心としたレジャー目的の女性の需要に勢いがあったことを示している。
さらに地方マーケットの伸張も見られた。09年1月から4月の海外旅行者数をみると、地方の20歳から29歳の女性は、前年同期比で12.5%伸びている。地方のパスポート取得数も前年より6万冊以上増加した。このことから、黒須氏は「円高や燃油サーチャージの下落により、これまで海外旅行から遠ざかっていた低頻度層が市場に戻ったサイン」と分析する。
しかし、新型インフルエンザによりキャンセルして顕在化しなかった需要もあると見る。旅行をキャンセル、もしくは延期した旅行者の次の旅行予定を調査したところ、32%が予定なしとなった。黒須氏は、新型インフルエンザの影響で止まった低頻度層は次の動きに結びつきにくく「せっかく取得したパスポートがたんすの中で眠りかけている」と危惧。しかしながらも、一旦加熱されたマーケットにはまだ余熱があるとの期待を示した。
今後の動向については、日本発着国際線の座席供給量の減少や経済危機の影響による雇用状況の変化が左右し、将来の見通しが難しいとする。方面別の見通しとしては、韓国を除きすべての方面でマイナスとなった2008年の日本人旅行者数に基づき、ロング方面の需要は欧州などを中心に比較的順調に推移するが、座席供給量の影響を受けやすいため推移は流動的とした。アジア方面では秋以降、前年からの反動でプラスに戻すデスティネーションが増え、韓国もプラスに戻し好調に推移すると予想。中国に関しては、需要は回復基調にあるが、座席供給量の縮小により、回復速度は落ちるだろうとした。
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◆09年の出国者数予測、1520万人で変わらず−危機後はミドル層の影響強まる(2009/07/22)
危機は近未来の姿を見せる、伏線は10年前からあり
海外旅行マーケットはこの10年で2つの危機に直面した。ひとつは、97年から98年の98リセッション(景気後退)、もうひとつは2001年の9.11から2003年のSARSの発生だ。黒須氏は「98年当時、マーケットは回復すると信じられていたので、業界全体が大きなクライシスと捉えていなかった。だが、実は伏線はすでに90年代前半からはじまっており、重要なサインを見せていた」とする。
この時代、20代の若者層がリーディングセグメントであり、98年を契機に後退していったが、年代別の伸び率では50代が20代を上回っていた。さらに変化のサインとして、99年には海外旅行経験10回以上の高経験層の割合が42%から53%に突然上昇したこと、ハネムーン比率がこれまでの3%から1.7%に急落したこと、2000年から04年のレジャー市場でFIT比率がこれまでの10%前半から20%以上に急伸したことをあげる。
今回の危機が見せるサイン
では、今回の危機がみせるサインは何か。黒須氏は変化を読み取るポイントとして次の3点をあげた。ひとつは、08年のレジャー市場で、35歳から49歳のミドル層の高経験層の実数が増加したこと、2点目はミドル層と20歳から34歳の高経験層の牽引により、近距離でのマイル利用率が上昇したこと、3点目は09年上期のレイルヨーロッパの日本市場での発券数が伸びたことだ。
ここから読み取れる予測として、黒須氏は海外旅行マーケットの世代交代が近づいており、今後は35歳から49歳のミドル層の影響力が大きくなるとの見方を示した。これらの世代は彼らの25歳から29歳のときの出国率が15%以上、30歳以上では20%以上を誇り、各年代でピークとなった世代である。さらに、世代の旅行手配として、50歳以上の世代はパッケージが7割以上を占めていたのに対し、これらのミドル層は個別手配が4割を占めていることから、今後の市場でFITや個別手配が増加することも指摘した。
一方で、年代別の旅行申込時の窓口利用率をみると、旅行会社の店頭に足を運ぶのは20歳から34歳の若年層が最も多く、44.8%を占める。それに対して50歳以上のシニア層は電話利用が、ミドル層はインターネット利用が多い。シニア層は旅慣れており、電話で用件を済ませられること、ミドル層は個別手配の比率が高く、インターネットを使い慣れているのが理由のようだ。しかし若年層は、決済面でインターネットに不安を感じていたり、自分でクレジットカードを保有できない人も多い。また、海外旅行経験も少ないため旅行会社を頼ることが多く、「人対人」でもたらされる情報を信じているのではないかという。そのため「今後、旅行会社は若年層の対応に力を入れてもいいのではないか」というのが、黒須氏の見解だ。
今後は「地方」「若年層」「女性」に注目を
これを裏付けるのが、今年第1四半期の動向だ。GDPの伸び率、男性の出国率が右肩下がりの中、女性の出国率がぐんと伸びた。1月から4月の累計では男性の出国率が11.9%減であるのに対し、女性は6.7%増となっている。年代別では15歳から30代前半と45歳から55歳の女性の伸びが目立ち、とりわけ20歳から24歳は出国者数で最多数となっている。景気低迷により男性の業務渡航は減少しているが、韓国など近距離を中心としたレジャー目的の女性の需要に勢いがあったことを示している。
さらに地方マーケットの伸張も見られた。09年1月から4月の海外旅行者数をみると、地方の20歳から29歳の女性は、前年同期比で12.5%伸びている。地方のパスポート取得数も前年より6万冊以上増加した。このことから、黒須氏は「円高や燃油サーチャージの下落により、これまで海外旅行から遠ざかっていた低頻度層が市場に戻ったサイン」と分析する。
しかし、新型インフルエンザによりキャンセルして顕在化しなかった需要もあると見る。旅行をキャンセル、もしくは延期した旅行者の次の旅行予定を調査したところ、32%が予定なしとなった。黒須氏は、新型インフルエンザの影響で止まった低頻度層は次の動きに結びつきにくく「せっかく取得したパスポートがたんすの中で眠りかけている」と危惧。しかしながらも、一旦加熱されたマーケットにはまだ余熱があるとの期待を示した。
今後の動向については、日本発着国際線の座席供給量の減少や経済危機の影響による雇用状況の変化が左右し、将来の見通しが難しいとする。方面別の見通しとしては、韓国を除きすべての方面でマイナスとなった2008年の日本人旅行者数に基づき、ロング方面の需要は欧州などを中心に比較的順調に推移するが、座席供給量の影響を受けやすいため推移は流動的とした。アジア方面では秋以降、前年からの反動でプラスに戻すデスティネーションが増え、韓国もプラスに戻し好調に推移すると予想。中国に関しては、需要は回復基調にあるが、座席供給量の縮小により、回復速度は落ちるだろうとした。
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