MICEビジネストレンド:展示会に新たな商機あり

  • 2009年7月22日
数万人が訪れる展示会は旅行業界にもメリットをもたらす
〜需要を生み出すポイントもビジネスのヒントに〜


 今回、MICEの中でもEの展示会・見本市(Exhibition)の分野に注目する。ここで取り上げるのは、ホテルなどで開催される単発の小規模イベントではなく、毎年同時期に国内外から出展企業と来場者が集まって商談をする“国際見本市”としての展示会だ。日本で本格的な展示会を仕掛けてきた草分けであるリード・エグジビション・ジャパンがバブル崩壊後から業績を伸ばし続け、不況下でも需要を生み出す取り組みは、その他のMICEの領域でもヒントになる。また、大規模な展示会は旅行業においても大きなビジネスチャンスを秘めている。


商機会につながる出会いの場

 6月下旬、東京ビッグサイトの東ホールの全館で「設計・製造ソリューション展」を中心に4つの展示会が同時開催されていた。全体で1640社が出展する各ブースでは自社商品を熱心に説明する出展社と、それに聞き入るバイヤーが熱心にやり取りをしている。各ブースで行なわれているのは活気あるセールス活動であり、商談会である。来場しているのは決定権を持つ技術者や購買担当者で、出展社、来場者ともに商機会につながる出会いの場になっている。

 民間企業として1986年にこの展示会ビジネスに参入し、業界の年中行事としてお祭り的な色彩が強かった展示会ビジネスに出展社、来場者ともに利益を得られる本格的な展示会のスタイルを築いたと評価されるのが、リード・エグジビション・ジャパンだ。国際見本市を主催する会社として、現在ではエレクトロニクスやITをはじめ、エネルギー、医薬・バイオ、出版、宝飾や文具など多業種、多分野にわたって年間46本の展示会を東京ビッグサイトや幕張メッセなどで開催。その総出展社1万5000社のうち、7割が会場で商売をし、例えば国際宝飾展の場合、推定で約150億円もの売買がされているという。

 同社の展示会ビジネスへの参入は、1968年に当時勤めていた文具メーカーの駐在員として同社代表取締役社長の石積忠夫氏がアメリカの展示会に出展したときの経験がきっかけになっている。「当時日本の企業がアメリカやヨーロッパに進出するとき、必ず展示会を通して参入していた。出展すれば、業界の競合他社が集まっていて、バイヤーが寄ってくる。すべてが展示会から始まるわけで、取っ掛かりになる。それは日本においてものすごく重要になると思った」。しかし、日本では長いこと業界団体や地方自治体が主催し、広告代理店やイベント会社が業務を請け負う形態が慣例化しており、民間企業の参入には7、8年は厳しい時代が続いた。「日本の展示会は何かを推進するための補助手段で、命をかけてビジネスにしようというビジネスモデルがなかった」と話す。

 同社の業績が伸びたのは、1994年のバブル崩壊後。出展する企業が、来場者が多くて利益になる展示会を選ぶようになった。そこには、同社が培ってきた独自の集客ノウハウも活かされている。何百もの出展社を説得できる人材を集めることはもちろん、展示会当日の3ヶ月前には出展社にビジネス拡大のためのセミナーを実施。来場を促すため、中国や韓国など海外への電話セールスから、看板の文字、色使いに至る会場内の細かいレイアウトの工夫まで、さまざまな努力の積み重ねがあった。

 また、時代にあった展示会を新規で立ち上げているのも同社の強みで、そのほとんどを日本最大、世界最大規模に育成してきた。今年は「国際カーエレクトロニクス技術展」という、電子部品など自動車の“電子”に関わる展示会を2009年1月に初開催。世界的な自動車業界の不況下で経費削減による出張規制がかかるなか、東京から離れた拠点にいるメーカー技術者に対して無料ツアーを実施するなどの企画も設け、購買や技術開発において決定権のある担当者1万2177人を集めた。


展示会にともなう人の動きに目を向けるべき

 石積氏は、展示会は経済の基本インフラで、開催都市に定期的にかつ長期的に経済効果をもたらす、と主張する。海外、あるいは日本全国からの宿泊をともなう人の動きは、旅行市場にも影響が大きい。観光庁が実施する「国際交流拡大のためのMICE推進方策検討会」の委員でもある石積氏は同会で次のように述べたという。「私たちが開催する展示会には海外からの来場者が年間3万7000人来る。これはちょっとした国際会議やインセンティブよりはるかに大きい。例えば『太陽電池EXPO』では海外から6000人が来場する。そこに焦点をあてないのは不思議」。さらに「旅行会社がそこに気づいてツアーを募り、わざわざ来日した人たちのために展示会の終了後2、3泊させるようなプランを組むといった努力をしたらすごいと思う」と続ける。

 例えば、文房具の展示会には日本全国の文房具店が泊りがけで来る上、韓国、台湾、中国からも1500人の文房具店や輸出入商が来日する。来場者は2、3泊、出展者は最低4泊するので、国際宝飾展では、関連の宿泊がのべ1万6000泊におよぶ。「これを各県で旅行会社が仕掛ければ、北海道、九州、沖縄など遠距離方面からも小売店が来るかもしれない。そうなれば総体的に旅行業界において、最大級のマーケット」と話す。

 実際4年前から5年前、ある旅行会社に全国から県単位でのツアー募集を持ちかけたこともあったという。しかし、うまく機能しなかった。そのとき、石積氏は「旅行会社は受身の商売」と感じたという。「かつて日本には本格的な展示会がなかったが、今はものすごく様変わりしたことに気が付いていない。旅行業界は展示会にもっと目を向けるべきだと思う」と続ける。


展示会の経済効果に各国が注目

 海外の展示会に目を向けると、世界最大の家具見本市であるイタリアの「ミラノサローネ」は、日本からも専門旅行会社が中心となって毎年募集型のツアーでプロのバイヤーを送客している人気の展示会だ。今年4月に開催された同見本市は31万3385人と前年よりも来場者が減ったものの、イタリア国外からは151ヶ国から15万3456人を集めている。日本からは20社・団体が出展者として参加した。ミラノサローネを主催するコスミット社の日本事務局によれば、「不況下で複数に参加していた出展者が展示会を絞る傾向にある。その中で最大規模のミラノサローネ1つに集中した」と話す。

 また、世界最大規模の時計・宝飾品見本市バーゼルワールド、高級時計見本市ジュネーブサロンも日本で知られる展示会のひとつ。毎年多くの雑誌が同時期にブランド時計を特集するのは、これらの展示会のおかげであることからも、企業が見本市や展示会に参加する重要性がわかるだろう。

 各業界には、国際規模の大規模な展示会があり、最新の業界動向を知るためにも関連業者は毎年参加する。しかも、これらの展示会はセミナーや会議開催もともない、MICEの要素をすべて含んでいる。取引のほか、出展料から装飾・制作、運搬、アルバイトの雇用、飲食、交通費、宿泊費が消費される。その経済効果に注目し、アメリカ、ドイツ、中国をはじめ各国が競うように展示会場を拡張してきた。「アメリカではありとあらゆる展示会が年間で5000本開催されている。ある展示会に対抗して、われこそ1番という展示会ができることで展示会産業を活性化し、旅行需要にも結びついている」と石積氏。展示会先進国の競争の激しさに対し、日本は最大の東京ビッグサイトでも展示面積は世界で70番目だ。その意味では、日本の展示会場のインフラが今後拡充すれば、さらに伸びる可能性がある。

 旅行の分野だけみても、大規模な展示会では海外からのインバウンド、国内の移動・宿泊とすぐに取りこめる需要が発生する。規模が大きく、魅力ある展示会は、旅行会社のビジネスに結びつけられる大きな可能性を秘めている。


取材:平山喜代江