取材ノート:中国訪日個人観光ビザ、まずは「地ならし」−高いリスクに緩和を求める声も
7月1日、中国からの訪日個人観光ビザが解禁となる。6月4日に開催された中華人民共和国訪日団体観光客受入旅行会社連絡協議会(中連協)の総会の後には、訪日個人観光ビザの解禁決定後、初めて観光庁が取り扱いに関するセミナーを実施した。これまでの観光ビザとの違いや運用面での注意点などに加えて、中国人の訪日観光の現状を説明。中連協メンバーの旅行会社からは、実際の運用面での負担やリスクなどを懸念する意見や質問があがった。
中国訪日観光ビザと旅行会社の責任
個人観光ビザは、2008年3月に施行された家族観光ビザを緩和させたものといえる。発給対象は家族観光ビザと同じ社会的地位や経済力を有する人で、発給するのは北京、上海、広州の在外公館。1年間を試行期間とし、中国全土への拡大は2010年7月の予定だ。中国人の訪日個人観光旅行を受け入れる場合、日本側訪日団体観光旅行取扱旅行会社の指定を受けることが前提となっている。
しかし、家族観光ビザ、および団体観光ビザと大きく異なる点がある。それは中国側、日本側いずれの添乗員の同行なしで観光を可能としたこと。家族観光ビザの発給数は、施行された08年3月から09年4月末までで29件と低迷しており、日本の旅行会社からの「富裕層はより自由度の高い旅行を求めることから、添乗員の同行が負担になるのでは」という意見をもとに改善したという。ただし、ビザの発給にあたり、日本側旅行会社が身元保証をし、招聘保証書を発行する必要があり、旅程の管理は日本側旅行会社の責任となる。日本側旅行会社が旅行者の帰国を確認しなければならず、空港で帰国を見届けるために担当者を配置することが義務づけられた。また、観光庁に帰国報告書を提出することになった。
さらに、失踪防止策としてペナルティ制度も継続。団体観光とは別の加算で、個人観光ビザのペナルティポイントは失踪の発生1名につき、無過失は3点(団体:1点)、過失は5点(団体:3点)、通謀は10点(団体:同)。団体観光や家族観光のビザよりも厳しい基準となるが、取扱が停止となる累積ポイント数は団体観光と同じだ。ただし、個人観光ビザのペナルティで個人観光が取扱停止となっても団体観光を取り扱うことはできる。
「収益性低く運用面のリスクは高い」−中連協で連携・協力も検討
観光庁の説明後、中連協のメンバーからは積極的に質問や意見などがあがった。ペナルティポイントに対しては、「個人観光は団体観光よりも収益性が低くなるにも関わらず、リスクが高いのではないか」との指摘があり、「試行期間の失踪率にあわせて基準を緩和できるのか」との質問もあがった。観光庁としては「リスクの高さは理解している」と話し、「試行期間の1年間を含め当面は今回のポイント数で運用してもらい、その後は必要な処置を働きかける」との発言にとどめた。また、個人観光と団体観光ではペナルティが別の管理になっても、ペナルティを課せられた事実自体が営業に影響すると懸念する声もあった。
もっとも多かったのは、添乗員の同行を不要としながら、旅行者の行動管理を日本側の旅行会社の責任となったことに対する懸念だ。ただし、「決まったことはそれにあわせて自分たちでやるしかない」と意気込みを見せる旅行会社もある。いずれにしても、運用しながら管理体制を整えていく必要があるだろう。地方に事務所や支店を持たない旅行会社にとって、帰国の際に空港で確認することは経費がかかり、負担が大きい。そのため、出発空港に近い旅行会社が代理で帰国の確認をするなど、日本全国の中連協のネットワークを活用しようという動きが出る可能性もある。2010年7月の本格的な開始に向けての試行期間は「地ならし」と捉え、本格始動の際に運用面での変化を期待するという意見もあった。
中国人の個人旅行、3、4年後には30万人市場に
2008年の訪日中国人数は前年比6.2%増の100万人。2009年1月から5月まででは5.1%増となる38万5000人と好調に推移しており、今年は110万人から114万人に増加すると予測。訪日個人観光ビザでは3、4年後には現在の団体観光と同様の30万人市場になると見込んでいる。また、外務省担当者が説明したビザ発給状況によると、団体観光ビザの1月から5月までの発給件数は前年比17%増で、新型インフルエンザの影響などで5月以降は減少しているものの、好調であるという。一方で、失踪者は減少しており2008年は全体の0.04%であったとして、失踪者が減少していることをアピールした。
訪日中国人市場は世界的な景気悪化や円高、新型インフルエンザの影響で、横ばいで推移する訪日旅行の中で堅調に成長を遂げている市場だ。中国国家観光局(東京)首席代表の范巨霊氏は「個人観光ビザは中国人の訪日旅行拡大の大きな一歩」と評価し、観光局としても中国で日本に対する理解や関心を高める取り組みをする考えを話した。今後、中国人の日本旅行が成長するにしたがって個人観光を希望するリピーターは確実に増え、大きな可能性を持つ市場であるといえるだろう。
観光庁によると、訪日個人観光旅行の制度は旅行業界側の意見をできるだけ踏まえるよう、努力したものだという。しかし、多様な旅行会社の状況に沿うことは難しく、セミナーでは戸惑いがうかがえ、多くの意見が寄せられた。実際に運用をはじめれば、さらなる課題がでてくるかもしれない。試行期間のうちに行政側の調整に反映できるよう、旅行会社からは些細なことも声に出し、将来のよりよい制度確立につなげたい。
中国訪日観光ビザと旅行会社の責任
個人観光ビザは、2008年3月に施行された家族観光ビザを緩和させたものといえる。発給対象は家族観光ビザと同じ社会的地位や経済力を有する人で、発給するのは北京、上海、広州の在外公館。1年間を試行期間とし、中国全土への拡大は2010年7月の予定だ。中国人の訪日個人観光旅行を受け入れる場合、日本側訪日団体観光旅行取扱旅行会社の指定を受けることが前提となっている。
しかし、家族観光ビザ、および団体観光ビザと大きく異なる点がある。それは中国側、日本側いずれの添乗員の同行なしで観光を可能としたこと。家族観光ビザの発給数は、施行された08年3月から09年4月末までで29件と低迷しており、日本の旅行会社からの「富裕層はより自由度の高い旅行を求めることから、添乗員の同行が負担になるのでは」という意見をもとに改善したという。ただし、ビザの発給にあたり、日本側旅行会社が身元保証をし、招聘保証書を発行する必要があり、旅程の管理は日本側旅行会社の責任となる。日本側旅行会社が旅行者の帰国を確認しなければならず、空港で帰国を見届けるために担当者を配置することが義務づけられた。また、観光庁に帰国報告書を提出することになった。
さらに、失踪防止策としてペナルティ制度も継続。団体観光とは別の加算で、個人観光ビザのペナルティポイントは失踪の発生1名につき、無過失は3点(団体:1点)、過失は5点(団体:3点)、通謀は10点(団体:同)。団体観光や家族観光のビザよりも厳しい基準となるが、取扱が停止となる累積ポイント数は団体観光と同じだ。ただし、個人観光ビザのペナルティで個人観光が取扱停止となっても団体観光を取り扱うことはできる。
「収益性低く運用面のリスクは高い」−中連協で連携・協力も検討
観光庁の説明後、中連協のメンバーからは積極的に質問や意見などがあがった。ペナルティポイントに対しては、「個人観光は団体観光よりも収益性が低くなるにも関わらず、リスクが高いのではないか」との指摘があり、「試行期間の失踪率にあわせて基準を緩和できるのか」との質問もあがった。観光庁としては「リスクの高さは理解している」と話し、「試行期間の1年間を含め当面は今回のポイント数で運用してもらい、その後は必要な処置を働きかける」との発言にとどめた。また、個人観光と団体観光ではペナルティが別の管理になっても、ペナルティを課せられた事実自体が営業に影響すると懸念する声もあった。
もっとも多かったのは、添乗員の同行を不要としながら、旅行者の行動管理を日本側の旅行会社の責任となったことに対する懸念だ。ただし、「決まったことはそれにあわせて自分たちでやるしかない」と意気込みを見せる旅行会社もある。いずれにしても、運用しながら管理体制を整えていく必要があるだろう。地方に事務所や支店を持たない旅行会社にとって、帰国の際に空港で確認することは経費がかかり、負担が大きい。そのため、出発空港に近い旅行会社が代理で帰国の確認をするなど、日本全国の中連協のネットワークを活用しようという動きが出る可能性もある。2010年7月の本格的な開始に向けての試行期間は「地ならし」と捉え、本格始動の際に運用面での変化を期待するという意見もあった。
中国人の個人旅行、3、4年後には30万人市場に
2008年の訪日中国人数は前年比6.2%増の100万人。2009年1月から5月まででは5.1%増となる38万5000人と好調に推移しており、今年は110万人から114万人に増加すると予測。訪日個人観光ビザでは3、4年後には現在の団体観光と同様の30万人市場になると見込んでいる。また、外務省担当者が説明したビザ発給状況によると、団体観光ビザの1月から5月までの発給件数は前年比17%増で、新型インフルエンザの影響などで5月以降は減少しているものの、好調であるという。一方で、失踪者は減少しており2008年は全体の0.04%であったとして、失踪者が減少していることをアピールした。
訪日中国人市場は世界的な景気悪化や円高、新型インフルエンザの影響で、横ばいで推移する訪日旅行の中で堅調に成長を遂げている市場だ。中国国家観光局(東京)首席代表の范巨霊氏は「個人観光ビザは中国人の訪日旅行拡大の大きな一歩」と評価し、観光局としても中国で日本に対する理解や関心を高める取り組みをする考えを話した。今後、中国人の日本旅行が成長するにしたがって個人観光を希望するリピーターは確実に増え、大きな可能性を持つ市場であるといえるだろう。
観光庁によると、訪日個人観光旅行の制度は旅行業界側の意見をできるだけ踏まえるよう、努力したものだという。しかし、多様な旅行会社の状況に沿うことは難しく、セミナーでは戸惑いがうかがえ、多くの意見が寄せられた。実際に運用をはじめれば、さらなる課題がでてくるかもしれない。試行期間のうちに行政側の調整に反映できるよう、旅行会社からは些細なことも声に出し、将来のよりよい制度確立につなげたい。
本誌 記者 秦野絵里香