トップインタビュー:クラブメッドアジア・太平洋地区CEOプエシュルトル氏

  • 2009年4月1日
量から質への転換で収益を確保
ユニークな位置づけで、経済危機をチャンスに


 1950年の誕生以降、オールインクルーシブの滞在型バカンスという独自のリゾートカルチャーを提案してきたクラブメッド。現在、世界25ヶ国、約80ヶ所以上にサンリゾートとスノーリゾートを展開する。1990年代以降の旅行業界における危機、さらにマスマーケットからアップマーケットへの転換を経て、現在の経済危機をどうとらえているのか。先ごろ来日したクラブメッドのアジア・太平洋地区社長兼CEOのキャロリン・プエシュルトル氏に話を聞いた。(聞き手:弊誌編集長代理 松本裕一)


−2008年の日本人利用者は前年比26.8%減の6万人となりました。この結果について、どのように分析されていますか

キャロリン・プエシュルトル氏(以下、敬称略) 富裕層を取り込み、07年は成功しましたが、08年は燃油サーチャージの高騰により、航空運賃を含んだ料金を提供するクラブメッドの商品は料金が上昇して、その影響が出ました。経済危機の影響もあります。

 現在、量から質へ戦略をシフトしています。クラブメッドは戦後の1950年、人々が幸福を求めていた時代に創設され、1970年代はアメリカ、1980年代はアジアに展開しました。アジアではまず、1973年に日本事務所を開設。80年代は非常に好調でしたが、1991年の湾岸戦争以後、需要が減ってしまった。これが契機となって、新たに世界マーケットを考察し、再び旅行需要が伸びた1990年代の末から2000年にかけ、量の獲得を目的に世界のマスマーケットに向けた戦略を展開したのです。

 しかし、ニーズを反映していなかったために顧客を失ってしまった。イメージは高かったものの、中級リゾートになってしまったのです。そこで、今一度、量から質への「バリューストラテジー」に戻り、最大でなく、最高をめざしました。リゾートを改装し、質を高めて、イメージを変えたことで価値が高まりました。日本でも数は失うことになりましたが、利益は増えています。

 アジア太平洋地区では2004年から5000万ユーロを投じ、南アジア5つと日本のリゾート2つをリノベーションしました。この変化に対応した余裕のある顧客を得ることができたのです。ボリューム層となっていたのは旅行会社を通した多額のディスカウントからの送客で、その例が修学旅行です。しかし、これは利益に繋がりません。もしカップルでゆっくりしたいときに、200人もの修学旅行生がリゾートにいたらどう思うでしょうか。これは滞在客をリスペクトしていないことになります。

−2004年から富裕層マーケットにシフトし、開発を進めてきた中で、今回の経済危機をどうみていますか。

プエシュルトル 1991年は湾岸戦争、2001年は同時多発テロ、03年はSARS、05年には津波による被害など、これまでにも危機に面してきましたから、今回も乗り越える自信があります。最悪なのは状況を悲観的にとらえ、何もしなかったり、怖がったり、間違って行動することです。私たちは積極的でありたいし、この危機を機会ととらえたい。クラブメッドが発明したオールインクルーシブは宿泊、食事アクティビィ、キッズケアなどすべてが料金に含まれています。事前におよその支出額がわかるので、誰もが支出を気にする現在の状況下ではチャンスとなる。マーケットが増えたときに再び伸びるはずです。

−日本市場におけるクラブメッドの優位性は何でしょうか。

プエシュルトル ハイエンドな顧客へのシフトは、マーケットをアップスケールにする技術でもあります。安近短では高品質な滞在は得られません。私たちがアプローチしているのは、長距離のヨーロッパではなく近くのバリを選ぶ、または滞在期間を1週間から5日間にと、距離や日数を減らしても質を求める客層です。

 日本市場では質が大切です。1ヶ月分の給料に相当する金額を使うため、当然です。日本人はワーカホリックな傾向があり、バケーションに行くことに罪を感じたりします。日本人が旅行に求めるのはリラクゼーションで、特に旅行を取り仕切る女性が、クラブメッドのようなすべてオーガナイズされているオールインクルーシブの施設に行くのはとても楽なこと。子供の世話をするキッズクラブもあるし、自分たちが楽しめるアクティビティもある。リラクゼーションのための最適な提供をしています。



−日本市場での中長期的な戦略や展望、2009年の見通しをお聞かせください。

プエシュルトル 日本とアジア市場における、クラブメッドの将来は明るいと見ています。私たちはハピネス(幸福)を売っており、バケーションの楽しみ方の経験を売っているともいえます。もっとこのポリシーを発展させたい。クラブメッドの潜在的な需要として6000万人の顧客が世界におり、まだ伸びる余地があると見ています。そのうち2600万人がアジアからで、うち600万人が日本人と考えています。日本ではイメージを変えることが重要で、アップスケールになったことがあまり知られていません。どんなプロダクトを売っているのか、クラブメッドのポジショニングを明確にしたいと思っています。

 また、クラブメッドの日本におけるブランド認知度は50%から60%で、他のアジアの80%から90%に比べるとそれほど高くはない。このギャップを埋めたいと思っています。そのためには旅行会社やメディアとのパートナーシップが必要ですし、消費者が触れやすいインターネットでのアピールにも力を入れています。また口コミ効果にも注目しています。

−2009年以降にオープンする施設や新しいプロジェクトはありますか。

プエシュルトル 新リゾートとしては、2つめのスキーリゾートを日本に作る予定です。東南アジアやオーストラリアなど、アジア太平洋地区全体をターゲットにしています。ほかにも中国、韓国にもスキーリゾートを作る予定です。さらに、カンボジア、ベトナム、中国に新たにビーチリゾートを計画しています。将来はクラブメッドの高級ブティックを作る計画もあります。

 新しいプロジェクトとして、リゾートでのヴィラの販売も進めています。すでにモーリシャスで、20ヴィラをすでに販売しました。ヴィラを購入すれば、リゾート施設を無料で使用でき、貸すこともできます。使用しない期間はクラブメッドが管理し、客室として使われます。不動産投資として5%から6%の利息も支払われます。はじめたばかりのプロジェクトですが、5年から10年で成長すると思っています。

−ありがとうございました


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