世界のユニーク・フェスティバル(1) 「チーズ・ローリング」(イギリス)

  • 2009年1月13日
 年齢や国籍に関わらず、人々の心を浮き立たせる「フェスティバル」。日本にも奇祭・珍祭と呼ばれるものは多いが、海外にもバラエティに富んだ祭りがあり、それを目的にしたツアーも販売されている。ニースやベネチアのカーニバルなどはその代表例で、毎年恒例となる人気のツアーもあるほどだ。ツアー化されなくても、観光ポイントとして鑑賞を希望するFITもいるだろうし、旅行案内時の話題のひとつにもなる。今週は、珍しくて面白く、時には謎多い世界の祭りについて紹介する。

 毎年5月の最終月曜日、イギリス・グロースター州のブロックワースで行われる祭りが、「チーズ・ローリング」。人々がチーズを追いかけて急坂を転がり落ちる、という風変りなレースで、200年以上続けられている伝統行事だ。2008年には、日本のお笑いタレントを含む75名が参加し、彼が2位を勝ち取った様子がテレビで放映されたため、この祭りの存在は日本でもよく知られるようになった。

 会場はブロックワースの町の南にあるクーパーズ・ヒル。3.5キログラムほどのダブル・グロースター・チーズが祭りの主役だ。円形のこのチーズを、最大傾斜45度の急坂の上から転がし、それを合図に参加者が一斉に斜面を駆け降り、丘の麓の白線まで、最も早くたどり着いた人が勝ちになる。ルールは極めて簡単。

 とはいえ、坂を下りるのはそれほど簡単ではない。非常に急な上、足元はデコボコ。まっすぐ立っていられない斜面を駆け降りる人、バウンドする人、宙返りする人が、いっせいに麓をめざして転がり落ちてくるのだから、その迫力はすごい。当然のように毎年けが人が続出するので、会場にはボランティアの救急係や救急車が待機しているのもユニークなところ。ちなみに2008年のけが人は19人。過去には、優勝はしたが、そのまま病院に運ばれた人もいたそうだ。

 優勝者への賞品は、レースで転がした大きなチーズ。2位は10ポンド、3位には5ポンドの賞金が与えられる。命がけ(に近い)レースにしては……。レースに勝つことは、よほど名誉なことなのだろう。実は祭りの由来はよくわかっておらず、キリスト教以前の多神教で夏の訪れを祝う儀式であるとも、古代の豊作祈願の儀式であるともいわれている。歴史についても不明で、古くは500年前からあるともいわれている。

 2009年の開催予定日は5月25日で、レースへは誰でも参加可能。当日会場でエントリーできる。小さい町ながら外国からも見学者が訪れ、2008年には1700人ほどが観戦したといわれ、ロンドンからの日帰りツアーを催行している旅行会社もあるほど。今年からは、日本人旅行者のあいだでも観戦を希望する人が増えるかもしれないし、期間中にロンドンを訪れる人にはレースの開催と日帰りツアーを伝えてみるのもいいだろう。

 ちなみに、イギリスにはこのほかにも、食べ物を使ったユニークな祭りが多い。ロンドンのコベント・ガーデンでは、クリスマスプディングを載せた皿をバトンの代わりに使った障害物競走「グレート・クリスマス・プディング・レース」が毎年12月に開催され、冬の風物詩となっている。またロンドン近郊のオルニー村をはじめとするいくつかの町では、2月から3月にフライパンの上のパンケーキをひっくり返しながら走る「パンケーキ・レース」が開催される。


▽参考サイト
チーズ・ローリング・フェスティバル
http://www.cheese-rolling.co.uk

グレート・クリスマス・プディング・レース
http://www.xmaspuddingrace.org.uk