現地レポート:モノ・デスティネーションとしてのアイルランド
モノ・デスティネーションとしてのアイルランド
南北あわせ、テーマ、見どころ多様な周遊旅行
ダブリン、ベルファストなどヨーロッパからのフライトを結ぶ5つの主要国際空港を擁するアイルランド。今や南北を問わずにモノ・デスティネーションとしてアイルランド島内を周遊するプランが一般的になりつつある。ゲートウェイを駆使し、島内の素材を組み合わせれば、さまざまなルートでの多様なテーマを盛り込んだ旅行が可能だ。これから注目されそうな場所や施設、世界遺産を巡った。(取材協力:アイルランド政府観光庁、取材:岩佐史絵)
ダブリンからリムリックまで、世界唯一のロマネスク様式の礼拝堂
ロンドンのヒースロー空港からアイルランドの首都ダブリンまでは、わずか1時間のフライトだ。日本から乗り継いでくると、到着は夕刻。ホテルにチェックインして食事を済ませ、疲れていなければテンプルバーなど夜の喧騒を散策するのに十分な時間がある。翌日は、来年250周年を迎えるギネスの醸造所や聖パトリック大聖堂、トリニティカレッジのロングルームなどの市内観光がスタンダードだが、今回はキルデア県、ティッペラリー郡を通って、南西部のリムリックへ陸路で向かう。
キルデアでは、国立の競走馬飼育場「ナショナル・スタッド」にある日本庭園に立ち寄った。しっとりした日本庭園とは違い、洞窟風の岩場や小川の中を飛び石を歩く小路などが設置されており、歩きやすい靴が必要だ。日本人による設計で、人が誕生後、知識が増えていく様子を石段で、結婚などの人生の選択を分かれ道で、というように、人の一生を表現した趣向を凝らしたもの。ぜひ、ガイドに話を聞きながら散策してほしい庭園である。
アイルランドは競馬が盛んで、アイルランド出身の馬が世界でも多く活躍している。そんな名門の飼育場がこのナショナル・スタッドであり、小さな競馬博物館も備えている。広大な敷地内で放牧される馬たちの姿をながめつつ、1回で7万ユーロにもなるという名馬の種付けの話を聞くのは、馬好きでなくとも興味を引かれる。
続いて、キルデアから1時間ほどのティッペラリーでは、岩山の上にそびえたつ城跡「ロック・オブ・キャシェル」へ。ここは駐車場のそばに比較的広いトイレがあるので、団体旅行のトイレ休憩にもよさそうだ。ガイドツアーはなく、自分で見てまわる。見どころは「コーマック礼拝堂跡」。世界で唯一のアイルランド・ロマネスク様式で建てられており、隣接したゴシック様式の大聖堂と見比べてみるのが楽しい。裏手には墓地があり、ハイクロスの向こうに緑の牧草地が広がる様子は美しいの一言。ガイドがいたほうが楽しいだろうが、いなくてもその景色だけで一見の価値がある。
リムリックに着いたのは、午後5時ごろ。午前9時にダブリンを出発し、観光やランチを済ませての到着なので、適当なスケジュールといえるだろう。
リムリックとキラーニー、アイルランドの歴史の舞台に入り込む
リムリックでは夜、バンラッティ城へ。ここでは毎夜、ディナーショーが開催されている。昔日のスタイルで、ロングテーブルを囲み豪快にスペアリブを手で食べる。付け合せの野菜、チキンも供されるのでかなり量が多い。約3時間の時間を要するのは、たっぷりのショーがあるからだ。当時の衣装に身を包んだエンターテイナーが歌や演奏を披露し、そのうち客席を巻き込んで大合唱になる。日本人には馴染みのない歌ばかりだが、グループツアーの場合は移動のバスの中で聴くなどで予習をしていけば、退屈せずに済むかもしれない。
翌日は昼間のバンラッティ城を見学する。こちらはガイドの説明(英語)から始まり、その後自由に見学というスタイルのツアー。調度品が置かれ、昔の台所の様子なども再現されているほか、屋上からは付近の景色を一望できる。隣には16世紀から17世紀の生活を再現した民族村もあり、それぞれの家の中を見学することができる。
キラーニーへ移動し、ランチの後は、マナーハウスで所有者が館を一般公開している「マクロス・ハウス」を見学。ガイドツアーでの入館となっており、参加しない場合は庭園に限り、散策が可能だ。ガイドツアーは英語のみで、しかも調度品などについて詳細に説明されるが、参加者に日本人以外の人がいる場合は、日本語の通訳や補足説明をすることは許されないという。時間にも厳格で、予約時間に5分でも遅れると、次に空きのあるツアーまで待たされることになるので注意したい。
マクロス・ハウスまでは馬車に乗っていくのがおすすめ。観光客に人気で、まるでタクシーのように交渉しだいでキラーニーの町をどこでも走ってくれる。ただし、馬車には雨よけがないので、天候が悪い場合はキャンセルせざるをえない。馬車の台数は十分にあるので、当日街についてから交渉して手配してもいいというが、団体なら前日にでも予約しておいたほうが安心かもしれない。
ベルファストにも新名所、変わる北アイルランド
北アイルランドでは、世界遺産で有名なジャイアンツ・コーズウェイのほか、歴史的な城塞都市デリー、ベルファストを訪れた。デリーは2010年までに世界遺産に認定されることを目標にしており、実現すれば北アイルランドには2つ目、アイルランド島全体では4つ目の世界遺産が誕生することになる。世界遺産ではないが、人気の観光地モハーの断崖やアラン諸島などを組み合わせればちょうど島をぐるりと巡って、要領よく観光することができるだろう。
デリーからベルファストまでは2時間程度のドライブだ。悲劇の豪華客船タイタニック号が造られた造船所があることで知られる街だが、その近くにタイタニック・クオーターと呼ばれるウォーターフロントエリアの整備が進んでいる。高級住宅地のほか、ホテルやレストランなどができ、また2012年にはタイタニック博物館も完成予定。タイタニック号ができるまでを辿るタイタニック・トレイルなど、ベルファストの新たな新名所となる。
街の中心部、市庁舎のすぐ横にできた大きな観覧車「ベルファスト・ビッグ・ホイール」も、新しい顔となっている。工事中の市庁舎の内部を見学できないことから「別な角度からベルファストを見てみよう」という意向で設置されたため、来年1月までの期間限定のお楽しみだ。日本の観覧車のように1周で終わりではなく、3周から4周の15分ほどもまわるお得感がちょっとうれしい。
また、街にはさまざまなプロパガンダを掲げた壁画が多く、かつて南北アイルランド、あるいはカソリックとプロテスタントという形で分断された人々の声を今に伝えている。ほかにも記念碑や両者の居住区を壁で区切った「ピースウォール」などでも紛争の歴史を学ぶことができるので、バスなどで巡る際はガイドをつけて話を聞くことをおすすめする。ちょっとディープな魅力のアイルランド、新素材が登場する北アイルランド。ひくくりのテーマでは覆いきれないほど、企画の幅がありそうだ。
南北あわせ、テーマ、見どころ多様な周遊旅行
ダブリン、ベルファストなどヨーロッパからのフライトを結ぶ5つの主要国際空港を擁するアイルランド。今や南北を問わずにモノ・デスティネーションとしてアイルランド島内を周遊するプランが一般的になりつつある。ゲートウェイを駆使し、島内の素材を組み合わせれば、さまざまなルートでの多様なテーマを盛り込んだ旅行が可能だ。これから注目されそうな場所や施設、世界遺産を巡った。(取材協力:アイルランド政府観光庁、取材:岩佐史絵)
ダブリンからリムリックまで、世界唯一のロマネスク様式の礼拝堂
ロンドンのヒースロー空港からアイルランドの首都ダブリンまでは、わずか1時間のフライトだ。日本から乗り継いでくると、到着は夕刻。ホテルにチェックインして食事を済ませ、疲れていなければテンプルバーなど夜の喧騒を散策するのに十分な時間がある。翌日は、来年250周年を迎えるギネスの醸造所や聖パトリック大聖堂、トリニティカレッジのロングルームなどの市内観光がスタンダードだが、今回はキルデア県、ティッペラリー郡を通って、南西部のリムリックへ陸路で向かう。
キルデアでは、国立の競走馬飼育場「ナショナル・スタッド」にある日本庭園に立ち寄った。しっとりした日本庭園とは違い、洞窟風の岩場や小川の中を飛び石を歩く小路などが設置されており、歩きやすい靴が必要だ。日本人による設計で、人が誕生後、知識が増えていく様子を石段で、結婚などの人生の選択を分かれ道で、というように、人の一生を表現した趣向を凝らしたもの。ぜひ、ガイドに話を聞きながら散策してほしい庭園である。
アイルランドは競馬が盛んで、アイルランド出身の馬が世界でも多く活躍している。そんな名門の飼育場がこのナショナル・スタッドであり、小さな競馬博物館も備えている。広大な敷地内で放牧される馬たちの姿をながめつつ、1回で7万ユーロにもなるという名馬の種付けの話を聞くのは、馬好きでなくとも興味を引かれる。
続いて、キルデアから1時間ほどのティッペラリーでは、岩山の上にそびえたつ城跡「ロック・オブ・キャシェル」へ。ここは駐車場のそばに比較的広いトイレがあるので、団体旅行のトイレ休憩にもよさそうだ。ガイドツアーはなく、自分で見てまわる。見どころは「コーマック礼拝堂跡」。世界で唯一のアイルランド・ロマネスク様式で建てられており、隣接したゴシック様式の大聖堂と見比べてみるのが楽しい。裏手には墓地があり、ハイクロスの向こうに緑の牧草地が広がる様子は美しいの一言。ガイドがいたほうが楽しいだろうが、いなくてもその景色だけで一見の価値がある。
リムリックに着いたのは、午後5時ごろ。午前9時にダブリンを出発し、観光やランチを済ませての到着なので、適当なスケジュールといえるだろう。
リムリックとキラーニー、アイルランドの歴史の舞台に入り込む
リムリックでは夜、バンラッティ城へ。ここでは毎夜、ディナーショーが開催されている。昔日のスタイルで、ロングテーブルを囲み豪快にスペアリブを手で食べる。付け合せの野菜、チキンも供されるのでかなり量が多い。約3時間の時間を要するのは、たっぷりのショーがあるからだ。当時の衣装に身を包んだエンターテイナーが歌や演奏を披露し、そのうち客席を巻き込んで大合唱になる。日本人には馴染みのない歌ばかりだが、グループツアーの場合は移動のバスの中で聴くなどで予習をしていけば、退屈せずに済むかもしれない。
翌日は昼間のバンラッティ城を見学する。こちらはガイドの説明(英語)から始まり、その後自由に見学というスタイルのツアー。調度品が置かれ、昔の台所の様子なども再現されているほか、屋上からは付近の景色を一望できる。隣には16世紀から17世紀の生活を再現した民族村もあり、それぞれの家の中を見学することができる。
キラーニーへ移動し、ランチの後は、マナーハウスで所有者が館を一般公開している「マクロス・ハウス」を見学。ガイドツアーでの入館となっており、参加しない場合は庭園に限り、散策が可能だ。ガイドツアーは英語のみで、しかも調度品などについて詳細に説明されるが、参加者に日本人以外の人がいる場合は、日本語の通訳や補足説明をすることは許されないという。時間にも厳格で、予約時間に5分でも遅れると、次に空きのあるツアーまで待たされることになるので注意したい。
マクロス・ハウスまでは馬車に乗っていくのがおすすめ。観光客に人気で、まるでタクシーのように交渉しだいでキラーニーの町をどこでも走ってくれる。ただし、馬車には雨よけがないので、天候が悪い場合はキャンセルせざるをえない。馬車の台数は十分にあるので、当日街についてから交渉して手配してもいいというが、団体なら前日にでも予約しておいたほうが安心かもしれない。
ベルファストにも新名所、変わる北アイルランド
北アイルランドでは、世界遺産で有名なジャイアンツ・コーズウェイのほか、歴史的な城塞都市デリー、ベルファストを訪れた。デリーは2010年までに世界遺産に認定されることを目標にしており、実現すれば北アイルランドには2つ目、アイルランド島全体では4つ目の世界遺産が誕生することになる。世界遺産ではないが、人気の観光地モハーの断崖やアラン諸島などを組み合わせればちょうど島をぐるりと巡って、要領よく観光することができるだろう。
デリーからベルファストまでは2時間程度のドライブだ。悲劇の豪華客船タイタニック号が造られた造船所があることで知られる街だが、その近くにタイタニック・クオーターと呼ばれるウォーターフロントエリアの整備が進んでいる。高級住宅地のほか、ホテルやレストランなどができ、また2012年にはタイタニック博物館も完成予定。タイタニック号ができるまでを辿るタイタニック・トレイルなど、ベルファストの新たな新名所となる。
街の中心部、市庁舎のすぐ横にできた大きな観覧車「ベルファスト・ビッグ・ホイール」も、新しい顔となっている。工事中の市庁舎の内部を見学できないことから「別な角度からベルファストを見てみよう」という意向で設置されたため、来年1月までの期間限定のお楽しみだ。日本の観覧車のように1周で終わりではなく、3周から4周の15分ほどもまわるお得感がちょっとうれしい。
また、街にはさまざまなプロパガンダを掲げた壁画が多く、かつて南北アイルランド、あるいはカソリックとプロテスタントという形で分断された人々の声を今に伝えている。ほかにも記念碑や両者の居住区を壁で区切った「ピースウォール」などでも紛争の歴史を学ぶことができるので、バスなどで巡る際はガイドをつけて話を聞くことをおすすめする。ちょっとディープな魅力のアイルランド、新素材が登場する北アイルランド。ひくくりのテーマでは覆いきれないほど、企画の幅がありそうだ。
アイルランド、“島”一丸となって新市場開拓へ―NDMワークショップ開催
南北両観光局が合同セミナー、「ひとつのデスティネーション」を強調
アイルランド政府観光庁は10月16日、新市場開拓のた
めのワークショップおよびセミナーをベルファストで開
催、日本をはじめ南アフリカ、インド、中東、中国の旅
行会社が参加した。「NDM」とは「New Developing
Markets(成長中の新市場)」の略である。昨年のアイル
ランドへの渡航者は900万人に達し、ヨーロッパ圏、特に
英国からが多数。それに対しアジア、アフリカ、インド
などの地域からの渡航者は成長しているものの、まだ全
体の20%程度に過ぎない。そういった国や地域をNDMとし
ている。
アイルランド島は、南部はアイルランド、北部は英国
領の北アイルランドが占め、1つの島に2つの国が入って
いる。これまでは南北アイルランドを区別して別々にプ
ロモーションがされており、日本の旅行商品も「英国」
のくくりで北アイルランドへ足を伸ばすプランや、ヨー
ロッパ数ヶ国周遊の一部として扱われることが多かった。
しかし、これからはひとつのデスティネーションとして
の認知向上をはかり、今回のセミナーもアイルランド政
府観光庁、および北アイルランド観光局の合同開催であ
る。
観光素材の紹介では各観光局の代表が、イベントや宿泊施設などを例にあげ、アイルラ
ンド旅行の多様性について説明。2時間でアクセスできるダブリン/ベルファスト、3.5
時間のコーク/ゴールウェイなど、島全体の周遊に必要な情報が盛り込まれていたほか、
英国領である北アイルランドはもちろん、アイルランド共和国もEU加盟国であり、どち
らからでも入国すれば、国境を越えても再度、入国審査が必要ないことも強調された。
日本人旅行者は現在のところ、圧倒的に女性層が多く、世界遺産や教会遺跡などを巡
る旅が主流だ。しかし今後は、レンタカーで島内を巡ったり、自転車で景色を楽しむエ
コ・ツアーやサーフィンなどのウォータースポーツなど、さまざまなアクティビティや
テーマで新たなターゲット層を開拓することも可能だ。南北両観光局ともNDMには「旅
行会社が求めている情報」を収集中であるといい、むしろこちらからどんどん質問や要
望を出すことで情報量が増え、旅行しやすい旅先に変わっていくだろう。NDM諸国にと
ってもアイルランドは“成長中の旅先”なのである。